第11話 やっと一息つけると思ったら・・・


「キャァァァー・・・あれ?」

 叫び声を上げながら飛び起きるエレパオ。

 そして自分が生きていることに気付いた。

 しかし・・・

「ん?・・・!!!」

 衣服を纏っておらず、丸裸にされてしまっていた現状にも気付いたようじゃ。

 まあそうはいってもワシが出してやったローブで身体の前面を隠してやっておるがな。

「エレパオや、目が覚めたかの。そなたもわかっておると思うが、勝負はアオイの勝ちじゃ。ドワングも認めておる。」

 ワシがそういうと、アオイは鼻を高くして胸を張りおった。

 まあ事実、アオイの圧勝じゃったからな。

 武器が卑怯と言われればそうかもしれんが、それは言い分けと言うものじゃ。

 それをわかっているからこそ、ドワングも負けを認めておる訳じゃしの。

「・・・わかりました。私も認めましょう。ですが・・・これからもお姉さまをお慕いして宜しいですか?私の生き甲斐なんです。無理に結婚を迫るということはもうしませんから!」

 エレパオは負けを認め、そしてアオイに懇願した。

 それはアオイにじゃなくてワシに言わんか!

「いいですよぉ。私としてはぁ元々ぉお二人の争いを止めるためにぃしたことなのでぇ。主様とはぁ今まで通りぃ接してくださいぃ。」

 アオイはエレパオの前で屈みこみ優しくそう言う。

 何じゃ。

 そういうことじゃたのか。

 ワシはてっきりアオイのいつもの独占欲でそうしておると思っておったわ。

 中々ちゃんと考えておるのじゃのう。

 少しは侍女らしくなってきたということか。

「あっ、でもぉ主様と私はぁ婦婦ふうふであるということはぁ間違いのない事実なのでぇ、そこんところだけはぁちゃんと理解して下さいねぇ。」

「誰と誰が婦婦ふうふじゃ!」

 強い口調で言ったのじゃが、ワシのツッコミを全く意にも返さないアオイ。

 ヘラヘラ笑っておるわ。

 何という奴じゃ!

 これはわからせねばならんな!

 そう思い、もっと強い口調でアオイを叱ろうとしたワシじゃったのじゃが、ここで邪魔が入った。

「まあまあクロっち、落ち着いて。今日は許してあげなよ。アオっち、二人の喧嘩治めてくれたんだからさ。」

 ワシをなだめてくるバシルー。

 むむむ・・・

 確かに・・・

 そうじゃな。

 うむ。

 今回だけは見逃してやるか。

 それにこの後、やることもあるしの。

 ワシは悔しそうな、それでいてどこか諦めたような顔をして膝をついているエレパオとドワングの前まで行き、腕を組んで見下ろした。

「さて、茶番は終わりじゃ。二人とも。覚悟は出来ておろうな。」

 そう、これから説教タイムが始まるのじゃ。

 そしてワシがこれから何をするのかわかった魔王二人は、一気に顔を青くしカタカタと震えてしまう。

 ふん!

 そんなドラゴンに狙われた小魔獣のような態度をとってももう遅いわ。

 これからたっぷり説教してやるからの!


 ・・・


 ・・・

 

 フゥ・・・


 いかんいかん。

 勢い余って三時間も説教してしまったぞ。

 アオイとバシルーとミドリコは途中で飽きてしまったのか、バシルーの魔法で作った『ダークボール』で遊んでおる。

 そして説教を受けていた側の二人の魔王は・・・

 泡を吹いて気絶してしまった。

 ワシが圧をかけながら話していたせいじゃろう。

 しかもついついヒートアップしてしまって途中、加減も間違えてしまったからの。

 魔王二人でも耐えられんかったか。

 ・・・

 まあよい。

 一先ずこれでこの二人が争うことは暫く無いじゃろう。

 ワシは指をパチンと鳴らし、二人の魔王と兵士達をそれぞれの家に帰してやった。

 じゃが恐らく、エレパオとドワングは後日ワシに謝りに来るじゃろう。

 その時はもてなしてやろうかの。

 何だかんだでワシはこの二人がかわいいのじゃ。

 ワシの妹分と弟分じゃからな。


 ・・・

 

 ・・・


 魔王達の争いを止めたワシ達は一度ココン達の家に行き、そこで少しの食料と金銭を渡した後、我が家へと帰って来た。

 フゥ・・・

 やはり自分の家が一番落ち着くの。

 もう数百年は何事もなく今まで通りのんびりだらだら過ごしたいものじゃ。

「アオイや、小腹が減ったでの。何か出してくれんか。」

「はいぃ。わかりましたぁ。食料フードぉ!」

 ワシの要望に応えたアオイは、紙にくるまれた見たことのない食べ物を出した。

「今日のおやつはクレープですぅ。甘くて美味しいからぁ皆さん是非ぃ食べてくださいぃ。あぁでもぉこの包んでいる紙は食べないで下さいねぇ。」

 アオイはワシとバシルーには手渡し、ミドリコの分はテーブルの上に置いて紙を取ってやった。

 ふむ。

 甘くて美味しいとな。

 どれ、一口いってみるか。

 ワシは紙から少し出ている部分を一噛りする。

 !

 ん!

 これは!

「おいしー!アオっち、これメチャクチャ美味しいよ!」

「ピー!ピー!」

 アオイの出した料理に感動したバシルーとミドリコは、ワシが言う前に声を出して喜んだ。

 それを聞いたアオイはニコニコ笑顔じゃが、ワシのことをチラチラ見てくる。

 うむ。

 ワシの感想を聞きたいのじゃな。

「アオイや。これまた旨いものを出してくれたな。ありがとうの。」

 正直な感想じゃ。

 だってこの食べ物を食してみぃ。

 誰でも旨いと思うじゃろ?

 このクレープと呼ばれる食べ物。

 皮と中のクリームの相性が良く、そしてクリームと一緒に入っている果物がまた絶妙なアクセントとなっておる。

 クリームが口の回りに付いてしまうのが難点じゃが、それすらもこの食べ物の食べ方の一つなのじゃろう。

 これならワシでも2つ位はいけそうじゃ。

「私はぁ、主様がぁ喜んでくれればぁそれだけで幸せなんですぅ。主様はぁ私のぉ全てですからぁ。」

 そう言って笑顔をワシに向けてくるアオイ。

 目の端には涙が光っておる。

 む~・・・

 重いのう。

 別にそこまで思い詰めんでもよいじゃろうに。

 ワシに拾われた恩がそんなに大きいのか?

 まあ慕われるのは悪い気はせん。

 これから数百年、数千年先も共に生きる訳じゃしな。

 侍女としての在り方が徐々にわかっていけばよいのじゃ。

 そんなことを考えていてワシにも多少隙があったのじゃろう。

 それにアオイに対する好感度も一時的に高くなっておったからな。

 アオイのこの行動を予期出来んかった。


 ペロリ


 ワシの頬に感じる生暖かい感触。

「そなた!何をするんじゃ!」

「えへへぇ🖤ご馳走さまですぅ🖤」

 アオイがクリームの付いているワシの頬を舐めたのじゃ。

 ゾクゾクッとしたぞ!

 全く!折角上げてやった好感度が駄々下がりじゃ!

 それにこやつも同じものを食べておるではないか。

 何故にワシから、ワシの身体に付いた食べ物まで奪おうというのか。

 こやつはある意味強欲なのかもしれんな。

 取り敢えず説教をしてやろうとしたのじゃが、アオイは何故だか急いでトイレに駆け込んでしもうた。

 ん?

 我慢しておったのか?

 それともワシに怒られるのを察して逃げたのか?


 ・・・


 30分後、トイレから出てくるアオイ。

 その顔は何やらツヤツヤしておった。

 しかし永かったのう。

 少し心配じゃわい。

「どうしたんじゃ?腹でも壊したか?」

 もうすっかり怒る気も失せてしまったワシはアオイを心配する。

 じゃがアオイには『全状態異常無効』があるからの。

 病気や病原体、呪いや魔法による腹痛は考えられんのじゃが。

「ご心配ぃありがとうございますぅ。でもぉ大丈夫ですからぁ。ちょっと勢い付いて2回しちゃっただけですぅ。」

 頭をポリポリ掻いて、少し照れ臭そうに言うアオイ。

 そしてアオイのその様子を見て頭を抱えるバシルー。

 ?

 何じゃ?

 2回?

 やはり腹でも壊しておるのか?

 心配になるのう。

「もうよい。アオイや、部屋で休んでおれ。」

 ここ数日は急がしかったからの。

 疲れが出たのかもしれん。

 ここはこやつの主として気を配ってやらねばな。

「いやいやいやぁ。今部屋に行っちゃったらぁ止まらなくなっちゃいますよぉ。バカになっちゃったらぁ困りますぅ。」

 何故かワシの心配を受け入れないアオイ。

 何なのじゃ?

 何を言っておるんじゃこやつは。

 アオイの考えがわからんワシの元に、バシルーは首を振りながら近付いてきた。

「クロっち、もういいから。アオっちがトイレで何をしていたかなんて知っても、クロっちには何の特も無いよ。それよりさ、さっき食べたクレープっていう食べ物気に入っちゃった。家に帰ってからも食べたいからさ、一つ持ち帰らせてよ。」

 バシルーはまるで話を反らすようにワシとアオイの間に入り、そしてアオイにクレープを所望する。

「いいですよぉ。あぁ・・・でもぉ主様の許可がないとぉ・・・」

 アオイはチラッとワシの顔を伺う。

 ほう、ちゃんとその辺は侍女として弁えておるようじゃな。

 よいぞよいぞ。

 うむ、気分がよい。

「アオイや、一つとは言わず3つ持たせてやれ。そやつには時間停止効果のある収納スキル『ダークボックス』があるからの。多目に持たせても腐らせることは無いじゃろう。」

 バシルーが闇のスキル全般を使えることは知っておるからの。

 当然『ダークボックス』も使えるじゃろう。

 それにこやつにも自分の生活がある。

 そんなにちょこちょこここには来んじゃろうからな。

 世話にもなったし、少し多目に持たせても罰は当たらんじゃろう。

「主様がぁそう言うんならぁ。食料フードぉ!」

 アオイがスキルを使うと、クレープが、今度は一つ一つ袋に入って出てきた。

 ふむ、そんなことも出来るのか。

 状況に応じて器を変えられる。

 これは使い方を考えれば、更なる可能性を引き出せるかもしれんな。

 まあ今はよいか。

 ともあれアオイはバシルーにクレープを渡し、それをバシルーは予定通り『ダークボックス』に収納した。

「じゃあ私は帰るね。また何か面白い事があったら呼んでよ。アオっちの料理食べがてら協力するからさ。」

 どうやらバシルーもしっかりアオイに胃袋を掴まれてしまったらしい。

 わからんではないが、それではこの世界の食べ物に物足りなさを感じてしまうぞ?

 まあそんな心配をしても仕方無いか。

 クレープを貰ったバシルーは満足した顔でスキル『闇繋ぎ』を使い自宅へと帰っていく。

 これで今この家に居るのはいつもの顔ぶれだけじゃ。

 ふぅ・・・

 やっといつもの日常になるかの。

 日も沈みきった部屋の中を魔法の光が優しく照らしておる。

 さて、今日はもう風呂に入って寝るだけじゃしな。

 明日からいつも通り過ごすか。

 

 ・・・


 ・・・


 ドンドンドン!


 玄関の扉を叩く音が聞こえる。

 何なんじゃ!

 やかましいの!

 今何時じゃ?

 ・・・

 まだ深夜ではないか!

 非常識じゃぞ!

 

 ドンドンドン!


 まだ叩くか!

 ふざけおって!

 よし!

 わかった!

 この行いは万死に値する!

 ワシは寝起きの身体を気だるく起こし、玄関まで足を進めた。

 何者がいるのか、ワシにはもうわかっておる。

 勿論初対面じゃが、その魔力の波長とエネルギーで大体わかるのじゃ。

 もっともワシがスキル『千里眼』を使えることもあるのじゃがな。

 玄関に着いたワシは勢い良く扉を開いた。

「やかましいぞ!今何時じゃと思っておるんじゃ!どっか別のところへ行け!」

 ワシがそう怒鳴ると、は不気味に高笑いする。

「ほーっほっほっほっ!私は公爵令嬢ライグリ!今日からここに住まわせなさい!」

 

 

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