第10話 アオイVS魔王二人


 距離を取り、向かい合うアオイと二人の魔王。

 緊張感が漂ってくる。

 魔王達はアオイの力量を知らないからの。

 それにワシの侍女じゃということもある。

 警戒するのは当然じゃわい。

 じゃからじゃろう・・・

『鑑定。』

 二人は取り敢えずアオイのステータスを確認するスキルを使った。

 じゃが・・・

「な、何これ!?」

「文字化けが酷すぎて読めねぇ!」

 二人ともアオイのステータスが読めなくて困惑しておるわ。

 当然じゃな。

 アオイには『慈愛の女神の加護』があるからの。

 ワシですら容易にはアオイのステータスを盗み見ることは出来ん。

 因みに『均衡の森の魔女の加護』も同じような効果がある。

 こういった規格外のスキルを与えることが出来るのは三大神とワシだけじゃ。

 おっと。

 どうやら魔王二人が動くようじゃぞ。

 しかし結局ステータスが見れないだけに、先程よりかなり警戒しておるわ。

「こうなったら先手必勝だ!喰らえ『マグナ・フレイム』!」

 ドワングは炎の上級魔法をアオイに放った。

 最上級魔法に比べて威力は劣るが、ドワングの魔力は魔王一。

 従って他の者が使うよりは遥かに強力じゃ。

 そんな高威力の紅蓮の炎が一気にアオイに迫り、そして直撃した。

 景色を焼く臭いが辺りに漂う。

 ドワングは更に追い討ちをかけるため次の魔法の準備に入っていた。

 こやつらにとって、アオイは得たいの知れない相手じゃからな。

 様子見も手加減もするつもりはないのじゃろう。

 まあ一見正しい判断じゃと思うが・・・

 様子見は必要じゃったな。

 ドワングは両手を上げ、振り下ろした。

「『ガイアログ・メテオ』!」

 空間魔法と土魔法の会わせ技。

 世間一般で言うところの禁術というやつじゃ。

 宇宙から隕石を一つ空間魔法で移動させ、土魔法でそれを操り落下させる。

 この星で無いものを強制的に転移させること。

 そしてそれを大して操れる訳でも無くただ落下させる行為。

 やっていいわけがない。

 下手をすればこの星のバランスが、生態系が崩れるからの。

 この魔法に関してもドワングには説教追加じゃ。

 そして隕石は炎に包まれるアオイに直撃する。

 

 ドッゴーーーン!!


 派手な音と共に大地が激しく揺れた。

 ここが『闇の箱庭』内でよかったわい。

「どうだ・・・一気に片付けてやったぞ。」

 肩で息をしながらアオイの方に目を向けているドワング。

「ちょっと!私の出番は?」

 見せ場もなく全てが終わってしまったと思っているエレパオはドワングに文句を言った。

 しかしまあそう言わんでもまだまだ終わらんぞ?

 ワシの侍女を侮るでないぞ。

 炎や土煙が晴れていく。

 そこには・・・

「いやぁ~、凄かったですねぇ。」

 自分に当たって粉々になり散乱した隕石の欠片を眺めながら感動しているアオイが無傷で立っていた。

「なっ!?」

 驚きのあまり言葉を詰まらせるドワング。

 そりゃそうじゃろうな。

 先程の禁術はドワングのとっておきと言ってもよいじゃろう。

 倒せないまでもある程度ダメージを与えられると思っておったはずじゃ。

 いや、一気に倒すつもりでおったかもしれん。

 じゃが現実は・・・

 アオイは全くの無傷。

 寧ろ面白いものが見れたことで生き生きとピンピンしておるわ。

 その反面、ドワングは禁術を使った影響でマジックポイントの半分を消耗してしまった。

 もうこの段階で勝負が見えているような気もするが・・・

「じゃ・・・じゃあこれはどうだ!『ラグナ・フォール』!」

 ドワングが魔法を放つと、アオイの真下の地面が無くなった。

 これは最上級土魔法の一つじゃ。

 地面に奈落の穴を開け、尚且つそこに吸い込ませるという魔法。

 例え空を飛べる者でも、その穴の吸引力に抗う魔力がない限り落ちていってしまうじゃろう。

 勿論アオイはドワングに勝る魔力は持ち合わせていない。

 真っ逆さまに落ちていった。

「あぁ~~れぇ~~・・・」

 間抜けな声が穴の奥に吸い込まれていく。

 うむ。

 大分落ちていったな。

 ・・・そろそろか?

「ハァ・・・ハァ・・・どうだ。俺の勝ち・・・」

「ただいまですぅ。」

 転移の指輪の力を使い、何のこともなくワシの側に現れるアオイ。

 まるで楽しい遊戯でもしてきた後のような笑顔を見せておるぞ?

 きっと見たことの無い魔法を見ることができ、そして体験したからじゃろうな。

 これでは死力を尽くしておるドワングが少し可哀想じゃわい。

 驚きのあまり呆然としておるぞ。

「おそらく魔法を無効にするような対策をとってるに違いないわ・・・次は私がやる!ドワング!」

「ああ!任せろ!『ゴッス・ブースト』!」

 ドワングはエレパオに身体強化魔法をかける。

 なるほどの。

 次は肉弾戦で行くつもりか。

 しかしな。

 この二人は勘違いしているぞ。

 魔法対策も何も、アオイは素で防御力が高いだけじゃ。

「ハァァーー!」

 エレパオは一気にアオイとの距離を詰めると少し跳び、アオイの脳天に右拳を叩きつけた。

 

 ドン!


 盛大に砕けるアオイの下の地面。

 風圧がここにまで届いてくるわい。

 じゃがそれほどまでの威力があるにも関わらず・・・

「お姉さんん・・・いい匂いしますねぇ♪」

 余裕の笑みで変態染みたことを言うアオイ。

「なっ!?」

 おちょくられたと思い、顔を赤らめ怒りを露にするエレパオ。

 頭に血が上り、アオイを乱打する。

「ふざけるな!お前は・・・何なのよ!」

 一切ダメージの通らない攻撃。

 それでも殴り続けるしかなかったのじゃろう。

 何せ、こやつらにはもう打つ手が無いのじゃから。


 ・・・


 どれくらい続いたじゃろうか。

 そろそろ今の状況に飽きてきたアオイは、ワシの与えた異次元バッグの中から例の武器を取り出そうとする。

「そろそろぉ私もぉ攻撃ぃしますねぇ。」

 攻撃を受けておるのに、それを何の意にも返さずすんなりバッグから取り出した一振りのレイピア。

 それを見てエレパオは驚愕の声をあげる。

「カ、カーリアズ・レイピア!?」

 驚きのあまり、一瞬手を止めてしまうエレパオ。

 その隙をアオイは見逃さなかった。

「はいぃ、一人目ぇ~。」

 アオイの振るった一振りでエレパオは切り刻まれてしまう。

 今回放たれた風刃は7つ。

 こやつめ。

 どんどんレイピアを使いこなせるようになっておるぞ。

「キャャーーー!」

 風刃により飛ばされ、悲鳴を上げるエレパオ。

 そして地面に叩きつけられると、そのまま動かなくなった。

「エレパオ!!」

 ドワングは悲痛な声でエレパオの名前を叫んだ。

 何やかんや言っても、根っこのところではやはりエレパオのことを想っているのじゃろう。

 それはそうじゃよな。

 何てったってこやつらは実の姉弟なのじゃから。

「貴様!よくもエレパオを!許さん!「マジック・ブースト』!『ゴッス・ブースト』!」

 強化魔法を自身にかけ、ドワングはアオイに飛びかかった。

 そして・・・

「『エレメントソード』!」

 四大属性の魔力を凝縮した剣を魔法で顕現させ、全マジックポイントを込める。

「お姉ちゃんを返せーー!」

 大気をも切り裂く一撃がアオイに振り下ろされた。

 魔力もスピードも攻撃力も申し分ないじゃろう。

 しかし・・・

 それでもアオイの防御力を越えることは出来なかった。


 パリーーン


 ドワングの握っていた剣はアオイに当たるのと同時に粉々に砕け散ってしまう。

 何をやっても届かなかった。

 頭が真っ白になってしまったドワングは、その場で呆然と立ち竦んでしまった。

 もう諦めるしか無いからじゃろう。

 自分の命も、エレパオの命も・・・

 アオイはそんなドワングの首元にレイピアを突きつけ、勝利宣言をした。

「チェックメイトですぅ。降参すればぁ命は助けて上げますよぉ。」

 情けをかけるアオイをキッと睨むドワング。

 しかし、その申し出を受ける他あるまいな。

「・・・参った・・・降参だ・・・だから・・・早くエレパオに回復魔法をかけさせてくれ・・・頼む!」

 負けたということよりも、エレパオを助けたいという気持ちが勝っているドワング。

 うむ。

 中々の姉弟愛じゃ。

 じゃがまあ問題ないじゃろう。

 何せエレパオは・・・

「彼女ならぁ大丈夫ですよぉ。あの美しい身体には傷一つつけてませんからぁ。」

 そう、アオイの言う通り。

 エレパオは無傷なのじゃ。

 先程のレイピアによる攻撃はエレパオの衣服だけを刻んだに過ぎない。

 それを自分の身体が切り刻まれたと錯覚してしまったエレパオは、ショックで気を失ってしまったのじゃ。

 全くアオイの戦闘センスは底が知れんの。

「無事・・・なのか・・・よかった・・・」

 安心したドワングはその場で膝から崩れ落ちてしまう。

 うむうむ。

 こやつは今回、いい経験が出来たようじゃな。

 どんなに憎み合っていたとしても、やはり血の繋がりというのは絶ち切れんし、絆というのは消せんもんじゃ。

 これからは二人手を取り合って、お互いの国を発展していってもらいたいの。

 まあそれに、これで暫くはこやつらも争わずに済みそうじゃしな。

「私はぁ、無闇にぃ女性を傷つけるようなぁ女じゃ無いですよぉ。女性って言うのはぁ尊いのですぅ・・・まぁ例外はありましたけどぉ。」

 アオイはミドリコを見て申し訳なさそうに頭を下げた。

 そういえばそういうこともあったか。

 まあミドリコはあまり気にしてないようじゃがの。

 ワシとしても、アオイのその性格を知っておるから今回任せることが出来たのじゃ。

 どういうわけかこやつは女に対してあまりにも甘すぎるところがあるからの。

 それにエレパオはアオイ好みの美人じゃ。

 アオイなら絶対にエレパオを傷つけずに何とかすると思っておったわい。

 見事に期待に応えてくれたものじゃ。

 後で何か褒美でもやるかの。

 ・・・

 それにしても・・・

 やはり結果はこうなったか。

 圧倒的な力で魔王二人を倒してしまうアオイ。

 これでは・・・

「どっちが魔王かわからないわね。」

 ワシが考えていたことと同じことをボソッと言うバシルー。

 全くその通りじゃな・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る