第9話 鋼鉄の魔王と全星の魔王

「ほれ、さっさと説明せんか。」

 ワシはイライラしながら再度説明を要求したのじゃが、それでも中々口を割らない二人の魔王。

 何なのじゃ! 

 余程ワシに聞かせたくない理由でもあるのか?

「ええい!ワシをこれ以上怒らせるな!そんなんじゃから嫌いじゃと・・・」

「あああっ!ごめんなさい!言います直ぐ言います!」

「俺達が争っていた理由は・・・」

『森に隣接したこの大地の所有権をどちらが持つかです!』

 声を合わせて言う二人の魔王。

 何じゃ。

 息が合っておるではないか。

 実は仲が良いのか?

 しかしまあ・・・

 戦争の理由として領地を奪い合うというのはよくあることじゃと思うが・・・

 何で言い淀んでおったのじゃ?

 他にも理由がありそうじゃな。

「そうか。しかしな、元々ここは半分半分がそれぞれそなた達の領土ではないのか?それにそなた達の国土は魔国の中ではかなり広い方じゃろ。なのにこれ以上奪おうと言うのはかなり傲慢じゃと思うのじゃがな。」

 そう。

 エレパオとドワングの国は相当広い。

 どちらとも作物は良く育つし酪農も盛んじゃ。

 公益は勿論上々。

 民も満足しておったことじゃろう。

 なのにじゃ。

 こやつらは国を信頼している民達を先導して戦争を起こした。

 きっと民達はそこに正義があると思ったじゃろうな。

 かわいそうにのう。

 蓋を開けてみたら、魔王達の自己満足。

 ただの領土拡大じゃったといつわけじゃ。

 民達が不憫でならんぞ。

「もう争いは止めよ。これは命令じゃ。」

『そんな!』

 またしても声を揃えて驚愕する二人の魔王。

 仲が良いのか悪いのか。

 しかしこれは決定事項じゃ。

 拒否することは許さん。

「何じゃ?不服か?もうこれ以上ワシを怒らせるなよ?」

 そう言って圧をかけてやると、不満そうにしていた二人は黙りこんだ。

 ふん。

 ワシに逆らおうなど考えてもおらんようじゃな。

 ワシの力を知っている輩は扱いやすいわい。

 どれ、そろそろ説教タイムとするかの。

 ワシは二人を見据え、口を開こうとした。

 ・・・のじゃが。

「わかりました。お姉さまのおっしゃる通り、もう戦争は致しません。しかし・・・これはどうしても決しなければならない問題なのです。ですから・・・どうか、どうかこいつとサシで闘わせて下さい!それで勝敗を決めたいと思います。」

「!あぁ!望むところだ!やってやんよ!やってやんよー!」

 何故かまたしてもいがみ合う二人。

 何なのじゃ?

 どうしてこやつらはこんなにムキになっておるのじゃ。

 とっとと王都に帰れ!

「お姉さまに怒られるからもう領土をよこせとは言わないわ。だから・・・私が勝ったら好きなときに好きなだけこの領土に入ることを許しなさい!いいわね!」

「ああいいぜ!それじゃ俺が勝ったら同じことさせてもらうからな!」

 勝手に話を進め、勝手に報酬を決めていく二人の魔王。

 おいおい。

 こやつら全然反省してないな。

 この二人がここで闘ったらそれだけでどれだけの被害が出るか。

 勿論ワシの森にもそれなりの被害が出るじゃろう。

 全く・・・

 もうこうなれば力ずくで止めるしかないかのう。

「いいんじゃない?これで収まるなら万々歳でしょ。もし被害が気になるようなら私のスキル『闇の箱庭』の中に二人を投げ込むからさ。」

 つい今しがたまでミドリコとじゃれていたバシルーがワシに耳打ちをしてきた。

 うむ。

 それならば確かに被害は出んじゃろう。

 しかしな。

 この二人の力は拮抗しておるのじゃ。

 そうなると、もしかしたら間違って相手を死なせてしまうかもしれんじゃろ?

 ワシとしては何も命まで奪おうとは思っておらん。

 何だかんだ言っても可愛い妹分と弟分じゃからな。

 バシルーの考えは正しいかもしれんが、ワシはどちらかを失うのが嫌なのじゃ。

 やはりここはしっかり止めよう。

 そしてそれから説教じゃ。

 そう考えをまとめて、二人に向かって束縛の魔法を使おうとしたその時。

 アオイがいがみ合うふたりの間に割って入った。

「まあまあぁ。お二人のぉ気持ちはわかりますよぉ。そうですよねぇ。自分の気持ちがぁ一番だってぇ思いたいですよねぇ。だからぁ主様の住むぅこの森に隣接したぁこの領土を独り占めするためにぃ争ってたんじゃないですかぁ?」

 アオイがニタニタしたがら言うと、二人はギョッとした顔をする。

 何じゃ?

 図星か?

 そんなくだらんことで戦争を起こしたというのか。

 慕ってくれるのは嬉しいが、これはいくらなんでも行き過ぎじゃぞ?

「でもぉ・・・」

 二人を見据えニタリと笑うアオイ。

 その顔は何故か得意満面じゃった。

「諦めてくださいぃ。主様はぁ私の主人なのでぇ。私という妻がいる以上ぅ、あなた達弟妹の出る幕はありませんからぁ。」

「な!」

「な!?」

 驚愕の表情で同時にワシを見てくるエレパオとドワング。

「戯けが!誰が誰の妻じゃ!」

 何を言っておるんじゃ!

 誰がワシの妻じゃ!

 ワシは誰とも結婚なぞしておらんぞ!

 もういい加減わかれ!

 お主だけでなく、誰にもワシと結婚する見込みなど無いわ!

 まあしかしじゃ。

 アオイのこんな嘘、誰も信じんじゃろ。

 と思っておったのじゃが・・・ 

「お姉さま!そんなわけないですよね!お姉さまの貞操は私のものですよね!」

「姉さんは俺と結婚してくれるんじゃなかったのかよ!俺、小さいときに何回もプロポーズしてたよね!」

 ワシに詰め寄ってくるエレパオとドワング。

 こやつらも何を言っておるのじゃ。

 ワシは貴様等のものでもないぞ!

 ライガルといいこやつらといい・・・

 ワシをちゃんと姉として見んか!

「現実をちゃんと見ましょぉ。あなた達はぁそれぞれえ自分のお城があってぇそこで暮らしてるじゃないですかぁ。でもぉ私はぁ主様と一緒に住んでるんですよぉ。同じ家でぇ、同じ屋根の下でぇ、寝起きを共にしてるんですぅ。私のぉ出す料理もぉ美味しいって言って食べてくれますしぃ。これを婦婦ふうふと言わずにぃ何て言うんですかぁ。」

「侍女と主じゃ!」

 アオイの台詞の後、直ぐ様ツッコミを入れたが、二人の魔王の耳には届かんかったようじゃ。

 わなわなと震えておるわ。

 そして憎しみの籠った目でアオイをキッと睨み付けた。

「ぜっっっっったいに許さない!あんた!どんな手を使ったかわかんないけど、私からお姉さまを奪うなんて絶対に許さないんだから!粛清してあげるわ!ドワング!一時休戦よ!あんたも手伝いなさい!」

「おお!二人でこの女をけちょんけちょんにしてやろうぜ!」

 一致団結した魔王二人は殺気をアオイに飛ばす。

 常人なら気圧されて倒れてしまうじゃろう。

 しかしアオイはその辺の輩とは違う。

 ケロッとした顔で二人の挑戦を受けた。

「いいですよぉ。望むところですぅ。私としてもぉ、ライバルはぁ少ないに越したことはないのでぇ。」

 ヤル気満々とばかりに腕を組んで胸を張るアオイ

 はぁ・・・

 これは何を言っても無駄かのう。

 仕方無い。

 ライガルの時同様、どちらが勝つか分かりきっておる勝負じゃが、これなら被害は最小限で済むかの。

 いや、アオイが二人を惨殺してしまうかもしれんから油断は出来んか。

 ともかく、そうは言ってもここでは周りに被害が出るからの。

 ワシがやってもよいが今回はバシルーに頼むとするか。

「やれやれ、もう勝手にするがよい。バシルーや、スキルを頼む。」

「はいよー。」

 ワシの指示にバシルーは応え、スキル『闇の箱庭』を使った。

 バシルーの身体から発せられた濃い闇が辺りに広がり、ワシ達を包み込む。

「これは・・・闇のスキル。こんな高位のスキルを使えるなんて・・・まさか闇の神か?」

 ドワングはバシルーの力を見てその人物像を推測する。

 まあ正解じゃな。

 それにこの闇が攻撃ではなく空間系スキルだということも察知したようじゃ。

 黙って飲まれておるからな。

 さて・・・

 そろそろか。

 すっかり辺りは真っ暗闇じゃ。

「バシルーや、もうよいぞ。景色を変えてくれんか。」

「オッケー。」

 バシルーは闇の魔力を変換させ、風景を何もない荒野に変えた。

 うむ、これなら闘いやすいじゃろう。

 この一連のスキルに一番関心を持ったのはやはりドワングじゃった。

「素晴らしい。これだけのスキルを扱える魔力量。そして魔力の使い方。お前はやはり闇の神だな?」

「うん、そうだけど?このスキルでわかっちゃった?うん、でもまあまだ転生して100年も経ってないからさ。まだまだ全盛期より劣るけどね。」

 別に自分が闇の神であることを隠そうともしないバシルー。

 まあ隠したところで魔王にはバレてしまうじゃろうからな。

「やはりそうか・・・見た目も美しい・・・どうだ?俺の第二夫人にならないか?」

 いきなりバシルーを妻に迎えようとするドワング。

「え?嫌だけど?」

 一切考えるまでもなく断るバシルー。

 まさか断られるとは思っていなかったドワングは驚きの表情を見せる。

 自分の見た目に絶対の自信を持っているが故、ショックもひとしおじゃたらしい。

 ピクリとも動かんわ。

 でもそうじゃな。

 姉の目から見てもこやつは中々の美青年じゃ。

 今まで良い相手もおったじゃろうに。

 何故にいつまでもワシに依存しておるのか。

 全くわからんわい。

「じゃあ私は?私の側室に入ってよ。」

 負けじとエレパオもバシルーにアプローチする。

 何で張り合っておるんじゃ?

「あっ、ごめん。私そっちじゃないので。」

 こちらもきちんと断るバシルー。

 ふむ、わかっておったことじゃが、バシルーは同性に恋愛感情を持たないらしい。

 いや、バシルーの場合、同性異性に関わらず興味がないような感じじゃな。

 当然エレパオもショックを受けておる。

「っていうかさ・・・さっきから第二とか側室とか言ってるけど、今現在本妻はもういるってこと?」

 バシルーはワシも気になっていた疑問を二人に聞いた。

 もう決まった相手がおるのに第二夫人を娶るのはその相手に失礼ではないのか?

「本妻は決まってる。それは・・・姉さんだ!」

「お姉さまが本妻よ!」

 ほぼ同時に言うものじゃから聞き取りづらかったが、どうやらワシが決まった相手じゃと言う戯け二人。

 何を言っておるんじゃ?

 こやつらの頭の中はアオイとどっこいどっこいじゃな。

 もう相手にしておれん。

 とっとと闘わせて、その後説教じゃ。

「アオイや。殺すでないぞ。」

 ワシはアオイにそう耳打ちすると闘いの合図を鳴らす。

「ではとことんやり合うがよい!そなたら二人がワシの侍女とどこまで渡り合えるか見せてもらうぞ!」

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