第8話 魔王Χ魔王


「・・・というわけで、これからも皆頼んだぞ!」

『はい!』

 ワシはココン達獣人娘達に今後の指示を出し終える。 

 30日に一度、この娘達にはあやつを痛めつけてもらわねばならんからな。

 帝王を調教する方法は・・・

 何、簡単なことじゃ。

 あやつには既に強制時限転移の魔法がかかっておる。

 つまり30日に一度、帝王は必ず異空間部屋に強制転移させられるのじゃ。

 そしてこの家にココン達がその日に異空間部屋へ入れるように扉を設置してやった。

 これでストレス発散がしやすくなったじゃろう。

 それに帝王には以前魔貴族の男にかけた魔法『ナイトメア・リバイバル』もかけておいたからのう。

 即死でもさせん限りうっかり殺してしまうこともないじゃろう。

 後は好きなだけ責め苦を味わわせてやればよいのじゃ。

 勿論、面倒なことを頼んでおる訳じゃから普通に生活するのに困らん程度の給料は払うつもりじゃ。

 こんな可愛らしい娘達には何事もなく暮らしてもらいたいからの。

 ここの立地は森の外れじゃから獰猛な魔獣は寄ってこんし、人族達も外れとはいえ森の中に足を踏み入れんじゃろ。

 襲われることは少ないはずじゃ。

 しかし・・・

 少ないと言うだけで絶対に何も起きないという保証はない。

 心配じゃから結界を張っておくかの。

 まあ取り敢えずこれで大体の用事は済んだわけじゃが・・・

 腹が減ってきたのう。

「どれ、アオイや。昼食にしようぞ。ここにいる全員分用意してくれんか?」

「はいぃ!お任せ下さいぃ!『食料フード』ぉ!」

 ワシの指示でアオイが出したのは、何ともいい匂いの料理じゃった。

「わ!何々!?どこから出てきたの?」

「見たこと無い食べ物。でも・・・いい香り🖤」

「美味しそう~♪」

「これは・・・スキルなんですか?食べ物を自在に出せるスキル・・・だとしたら・・・これは究極に近いものがあるんじゃ・・・」

 獣人娘達が各々感動の声と驚きの声をあげる。

 初見なら皆そういう反応になるわな。

 その中でも、どうやらココンだけは核心をついておる。

 確かにこのスキルは究極のスキルじゃろう。

 ワシも使うことが出来んしな。

 しかしこのスキルを世に出すわけにはいかんのじゃ。

 アオイがスキルで美味い料理をいくらでも出せるのに対して、この世界の料理人達は自分達の技量で食事を作り、提供し、金銭を稼がねばならんのじゃからな。

 ワシがこの有り余る力で世のパワーバランスを変えないよう森に籠っているように、アオイにも世界の食事情を変えないようにワシと共にいてもらうしかないのじゃ。

 そういうわけでアオイに料理を振るってもらうのはごく親しい者達だけ。

 じゃからあまり口外せんようにココン達にも言っておかんとな。

「これはぁ、カレーライスって言いますぅ。甘口とぉ中辛をぉ用意しましたのでぇ、辛いのが苦手な人はぁ甘口をお取引下さいぃ。」

 どうやら二種類用意してくれているアオイ。

 見た目にはほとんどわからんがのう。

 う~む・・・

 では中辛をいただくかの。

 因みにワシは辛いものも全然大丈夫じゃ。

 ワシが最初に選んで取ると、その次にバシルーとミドリコが選び取り、後は一斉に取っていった。

 そして最後に残った中辛をアオイが取る。

 アオイは性癖はアレじゃが、こういった気遣いができるところは好印象を持てるのう。

 本当に性癖はアレじゃが・・・

「よし、皆席についたな。ではいただくとしようぞ。」

『いただきまーす!』

 挨拶早々、獣人娘達は勢いよくカレーライスにがっついた。

『おいしーー!』

 歓びの声を揃えて上げる獣人娘達。

 そしてそのまま手を止めることなくカレーライスに夢中になってしまった。

 バシルーとミドリコもよほど美味いのか、黙々と食べておる。

 ふむ。

 どうやら旨いことには違いないらしい。

 どれ、ワシも食べるかの。

 スプーンで米とタレを同時にすくい、口に運んだ。

 モグモグ・・・

 ・・・

 ん!

 これは旨いぞ!

 スパイシーじゃが野菜の旨味や甘味も感じられる。

 このタレだけでもそのままいけそうなくらい旨いが、それではおそらく後々くどく感じでしまうじゃろう。

 そこでこの米じゃ。

 米と合わせることでよりマイルドな旨さに変わり、何度でも口に運びたくなるような中毒性を引き出させるのじゃ。

 よく考えられた料理じゃな。

 ワシも思わず感想も言わんで黙々と食べてしまっておるわ。

 アオイが不安になるじゃろうから何か言ってやるか。

「アオイや。そなたの出す料理には毎度驚かされるが、今回のこれも相当な美味じゃわい。ありがとうの。」

 ワシは素直に感謝の言葉をアオイに伝えた。

 すると・・・

 アオイは真顔のまま、ツーっと涙を流す。

「お?どうしたのじゃ。具合でも悪いのか?」

 わけがわからんワシは心配してそう声をかけた。

 状態異常無効スキルがあるから体調が悪くなることは無いと思うが・・・

「すみませんん・・・嬉しくてぇ・・・私のぉ出した料理でぇ主様からぁありがとうって言ってもらったことがぁ嬉しくってぇ・・・こちらこそぉありがとうございますぅ・・・」

 何故かアオイも感謝の言葉を言ってきた。

 大袈裟な奴じゃのう。

 ワシだって感謝したときはありがとうくらい言うぞ?

 ・・・

 ん?

 そういえばアオイに言ったことあったかのう。

 う~む。

 ・・・

 これからはもっと感謝の意をキチンと言葉で伝えてやるとするかの。

 まあこやつの場合は注意することの方が多いからな。

 ついつい忘れてしまうかも知れんが。

 

 ・・・


 昼食を食べ終えたワシ達は、そのまま獣人娘達の家出談笑していた。

 アオイはココンと仲良くなったらしく、ずっと何やら話しておるわ。

 まあ半分は物騒な話っぽいがな。

 そしてバシルーは・・・

 犬獣人のイダヤに言い寄られているようじゃな。

 あの時、イダヤの命を救ったのは確かにバシルーじゃからの。

 命の恩人として好意を寄せられるのは仕方ないことじゃろう。

 他の二人も何やらチャチャをいれておるしの。

 見ていて微笑ましい光景じゃ。

 ミドリコは腹を満たして寝ておるわ。

 フゥ・・・

 平和じゃな。

 このまま何事もなく、またのんびり暮らせる日々が続けばよいのう。

 ・・・・と思っておったところなのじゃが・・・

 ん?

 何じゃこの気配。

 まさか・・・

 ・・・

 ハァ・・・

 やれやれ。

 こっちの問題が解決したと思うたら、今度はこっちか。

 全く、何をやっとるんじゃ。

 あの魔王二人は!

 そう、ワシの感じ取った気配。

 それは魔族領で魔族同士が争っている気配じゃった。

 つまり、戦争を始めたということじゃ。

 おそらく水面下で、ワシに覚られんように準備しておったのじゃろう。

 大きな動きがあったならば気付いておったはずじゃからの。

 そしてこやつらは・・・

 フゥ・・・

 面倒な奴等じゃ。

 仕方無いの。

 とっとと治めにいくか。

 当然喧嘩両成敗。

 二人とも説教じゃ。

「すまんの。ちと用事が出来たでの。ワシ達はもう席を外すぞ。アオイ、ミドリコ行くぞ。」

「ちょっと!私も連れてけ!」

 ワシ達が転移する為に作った空間の揺れにバシルーが飛び込んできた。

 その直後一瞬で変わる景色。

 全く危なっかしいのう。

 何も一緒に来んでもこやつなら転移くらい出来るじゃろうに。

 闇のスキルに似たようなものがあるからの。

 確か『闇繋ぎ』じゃったか。

 特定の場所に闇の魔力を残すことで、どこにいても直ぐにその場に戻ることが出来るのじゃ。

 あっ、そういうことか。

 あのまま残っていたら、自分の家には帰ることができてもワシ達と一緒の場所に行くことは出来んかったな。

 そうなればバシルーはアオイの夕飯にありつけんところじゃった。

 ふむ、気付いてやれんで申し訳なかったの。

 まあ何はともあれじゃ。

 ワシ達は今、魔族領の国境付近の森の中におる。

 そして森の木々の切れ間から覗く光景に頭を抱えた。

 やれやれ、早速始まっておるではないか。

 血の気が多いのう。

 武装した兵士達が入り乱れ、剣やら魔法やらで戦っておるわ。

 その最後方で戦況を見ているそれぞれの大将。

 つまり魔王達じゃ。

 魔王達は各々高いところに砦を築き、高みの見物をしておるわ。

「うわ~、戦争してるじゃん。しかもあれって『鋼鉄の魔王』の国の軍と『全星の魔王』の国の軍でしょ?仲が悪いのは知ってたけど何も国同士でやりあうことないよね。やるんなら魔王同士だけでやんなさいって話でしょ。」

 この状況に呆れながら言うバシルー。

 その通りじゃ!

 全くなっとらんのう!

 そんなに喧嘩したいなら誰にも迷惑をかけないところで貴様らだけでやればいいじゃろ!

 最初は少し様子を見るつもりじゃったが我慢できん。

 こっぴどく説教してやる。

「主様ぁ・・・お顔が怖くなってますぅ。」

「クロっち!どうどう!」

「ピィーー!」

 困った顔をしているアオイと、ワシを落ち着かせようとするバシルーとミドリコ。

 おっと。

 ワシとしたことが、殺気を駄々漏れさせていたようじゃ。

 しまったの。

 魔王二人に気付かれたか?

 まあ別にワシがいることを報せても問題は無いがな。

 お?

 早速動きがあったぞ?

 両陣の大将達が慌てて砦から外に飛び出しおったわ。

 こっちを見ておるのう。

 どれ、どちらからいくかの。

 ふむ・・・

 やはり先に行くのはこっちかの。

 ワシはアオイ達と共に鋼鉄の魔王の砦に転移した。

 そして目の前にワシ達が現れて驚愕する鋼鉄の魔王。

「久しぶりじゃな。エレパオ。」

「お・・・お姉さま。」

 ワシが軽く挨拶をするとエレパオは膝まずき、深く被っていたフードを取った。

 現れる美しい女性の顔。

 そう、鋼鉄の魔王は女なのじゃ。

 魔王と呼ばれる存在は13人いるが、その中でも大魔王とされる存在は4人。

 ライガルもその中の一人じゃが、この鋼鉄の魔王エレパオと全星の魔王もその中に入っておる。

 そして4大魔王の中でエレパオは紅一点。

 その美貌と高い防御力で今の地位に君臨し続けておるのじゃ。

 まあエレパオの説明はこのくらいにしておいて・・・

 本題に入るかの。

「そなた・・・何をやっておるのじゃ?ワシに隠れてコソコソと。ハッキリ言うがの。ワシはこんな実の無い戦争を起こす奴なぞ嫌いじゃ。」

 ズバッと言ってやるワシ。

 じゃがそうじゃろ?

 こんなことをして一体いくつの命が失われると思っておるんじゃ。

 まだ開戦間もないから完全に命を絶たれたものはおらんが、それも時間の問題じゃろう。

 というわけで・・・

「『フィールド・キュア』。『ストータイ』。」

 ワシは戦場に向けて魔法を放った。

 兵士達は傷が全回復し、そしてそのまま動きを止める。

 回復魔法と時間が止まったように動きを封じる魔法を同時に使ったのじゃ。

 これでもう無闇な殺し合いを今は回避出来るじゃろう。

 まあそれも魔王達こやつら次第じゃがな。

「どれ、これから説教タイムじゃ。覚悟は良いか?」

 ワシが軽く圧をかけてやると、それまで何故か固まってしまっていたエレパオが慌てた様子でワシの足にしがみついてきた。

「ごめんなさい!ごめんなさい!嫌いにならないでー!」

 泣きながらワシに懇願してくるエレパオ。

 何じゃ何じゃ?

 ワシに嫌われて、しかも説教されるのがそんなに怖いのか?

 しかしやってしまったことは取り消せんからの。

 観念して・・・

「説教ならいくらでも聞くからぁ。どんな罰でも受けるからぁ。嫌いにだけはならないでぇ。」

 更にワシの足に強くしがみつくエレパオ。

 な、何じゃ?

 どういうことじゃ?

 説教が嫌で泣いておるんじゃないのか?

 う~む・・・

 やりずらいのう。

 じゃが罰はちゃんと受けると言うておるからの。

 取り敢えずこやつは後に回してもよいか。

 次は全星の魔王じゃな。

 ・・・

 もう行くのも面倒じゃし、こっちに呼ぶか。

 ワシは空間転移の応用技で、全星の魔王を強制的にエレパオの砦前に転移させた。

「あっ・・・え!?」

 突然景色が変わり、ワシ達の前にいることに驚きを隠せない全星の魔王。

「ドワングや、久しぶりじゃのう。何故ここに来させたかわかっておるな?」

 ワシは全星の魔王ドワングに圧をかけながらそう言った。

 狼狽えるドワング。

 黒のローブで全身を包んでいる、見た目青年のこの男は魔族一の魔法の使い手じゃ。

 しかもその使える魔法はワシの創作魔法以外の全属性に渡る。

 それにこやつは全属性の魔法が使えるだけでなく、魔王の中で一番魔力が高い。

 つまり、魔法の威力も強いということじゃ。

 じゃからじゃろうな。

 この驚きは。

 魔力が高い自分が、まさか誰かに、しかも強制的に転移させられるとは思わなかったんじゃろう。

 魔力が高ければ魔法やスキルによる干渉を防げるからの。

 見事に魔王としての自信を挫いてやったわけじゃ。

 観念したドワングはワシの前で縮こまり、子犬のように震えている。

 そしてチラッとワシの足を見た。

「エレパオが姉さんに泣きついてるってことは・・・俺達を殺しに来たんでしょ?」

 恐怖に潤んだ目でワシを見てくるドワング。

「そこまではせん。じゃが少し説教はさせてもらうぞ。ワシはこんなことするそなたらが大嫌いじゃからな。」

 面と向かってワシがそういうとドワングは固まってしもうた。

 エレパオに続きこやつもか。

 全く面倒くさいのう。

「主様ぁ。ちょっと言い過ぎですぅ。もう少しぃご自分の魅力をぉわかってくださいぃ。」

 アオイがワシに注意してきた。

 ん?

 どういうことじゃ?

 自分の魅力がどうとかは知らんが、言い過ぎというほどでもなかろう。

 何ならこれからの説教の方がもっと酷いことを言うぞ?

「アオっち。無駄だよ。クロっちは天然だから。」

 何かを諦めたように言うバシルー。

 何じゃと?

 誰が天然じゃ!

 失礼じゃな!

 まあよい。

 兎に角説教を始め・・・

「うわーー!ごめん!ごめん!許して!嫌いって言わないでくれーー!」

 土下座して何度も何度も地面に頭をくっつけて謝るドワング。

 この二人、そんなにお姉ちゃんに嫌われるのが嫌なのか?

 まあそれはそれで悪い気はせんが。

 説教はキチンとするぞ?

「ワシに嫌われたくなかったら今回のことを深く反省せい!一体何がどうなってこういう事態を招いたのじゃ!」

 ワシは二人に説明を求めた。

 すると泣きじゃくっていたエレパオとドワングはピタリと動きを止める。

 そして罰の悪そうな顔でワシを見た。

「あのね。え~っと・・・何て言うか・・・その~・・・」

「ん~・・・それは・・・えっと・・・」

 どうも歯切れが悪いのう。

 しかし・・・

 無理やり聞き出したその理由にワシは頭を抱え、呆れてしまった。

 

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