第7話 達成報酬


 一度自宅に戻ったワシ達は、予めアオイに用意させていた朝食を異空間収納から取り出し食べた後、再び帝王のところへと向かった。

 ココン以外のこやつらにも発散させてやらんとな。

 連日の責め苦になるが、帝王が悪いのじゃから仕方ないじゃろう。

 思った通り、帝王はワシとアオイとココンの顔を見て酷く怯えておるわ。

 いや、そうではないか。

 この小刻みに震えておるのはもっと別の感情からきているものかもしれんのう。

 本当に・・・

 気持ち悪い奴じゃ。

 まあそんなことはどうでもよいか。

 ワシは異空間部屋を出現させ、帝王を中に放り込んだ。

 そしてアオイに指示をだし、ココン達と一緒に中に入れる。

 後はアオイが丁寧に教えるじゃろう。

 責め苦の与え方というものをな。

 部屋の外に残ったワシとバシルーとミドリコは、ワシの出した椅子に座り、茶を飲んだりおやつを食べたりした。

 そして2時間後・・・

「お待たせしましたぁ。」

 アオイがご機嫌に部屋から出てくる。

 そしてその後ろに続くココン達も皆、ツヤツヤの顔を見せて出てきた。

 空いたドアの向こうにはとんでもない姿の帝王が見える。

 こやつら、一体どんなことをしたのじゃ?

 恐ろしい娘達じゃわい。

「これを30日に一回出来るなんて・・・サイッコーじゃん!」

 ココンの仲間の一人、ペドースが喜びはしゃいでいる。

 どうなっておるんじゃ、今時の若い者は。

 血の気が多いと言うか何と言うか。

 他の面子もペドースと同じように喜びの表情を見せておるぞ。

 類は友を呼ぶというやつかの・・・

 未だワイワイ騒いでいるアオイ達。

 どうやら忘れておるようなので、ワシが帝王の傷を治してやった。

 ついでにもかけておく。

 あのままでは絶命しそうじゃったしの。

 取り敢えず気を失っておる内に執務室にでも放り込んでおくか。

 何はともあれ、どう責め苦を与えればいいかの申し送りは一通り済んだじゃろうし、場所を変えるとするかの。

 さて・・・

 どこにするか。

 ココン達の棲みかか?

 しかしあそこは寛げる所ではないしの。

 ワシの家でもいいが・・・

 う~む・・・

 そうじゃな。

 この際、こやつらに家を提供してやるか。

 これからも手助けしてもらうつもりでおるしの。 

 ワシはヒルウゴク帝国に面した森の端に獣人娘達が住める家を遠隔で、しかも秒で建ててやった。

「ほれ、ここで立ち話も何じゃし、移動するぞ。

 そう言ってワシは返事も待たずに皆を連れて空間移動を使う。

 一瞬で変わる風景。

 そして驚く面々。

「なぁ、何ですかぁ!これぇ!」

 まず驚きの声を上げたのはアオイじゃった。

 まあそうか。

 どこに連れて来られたのかと思うわな。

 しかしバシルーはあまり驚いていないようじゃ。

「さっき魔力使ってたのはこれを作ってたって訳か。全く、相変わらずあっという間にとんでもないことするわね。」

 呆れたように言うバシルー。

 何じゃその言い方は。

 それではまるでワシが迷惑な女みたいではないか。

 ワシはこの娘達の為に棲みかを建ててやっただけじゃというのに。

 まあ取り敢えず説明するかの。

「ここはココン達に提供する新しい棲みかじゃ。あの廃屋の地下室じゃ手狭じゃろうしの。どうじゃ?」

 ワシはココン達五人の顔を見てそう言った。

 ん?

 何じゃ?

 ポカーンとしておるぞ?

 気に入らんのか?

 う~む。

 やはり突然は無理・・・

「いいんですか!?ここに住んで!」

 大きな声を上げるココン。

 良いも悪いも最初からやると言っておる。

 ワシは頷き、信じられないといった表情のココン達を安心させる。

「うむ、よいぞ。そなたら五人が住めるように広めに作ったからの。それぞれのプライベートが守られるように寝室も5つある。遠慮なく使ってよい。」

 ワシの好意が余程嬉しかったのか、ココン達は皆大喜びした。

 うむ、満足したようじゃな。

「どれ、では中に入ろうぞ。必要な家具なんかもあれば用意してやるからな。」

 そして新築の家に入るワシ達。

 その直後に聞こえる獣人娘達の歓喜の声。

「わぁ~・・・凄い!広い!キレイ!」

「ここでこれからも生活出来るなんて・・・夢みたい。」

「もう夜怯えながら眠ることはないのね。なんて有り難いのかしら。」

「ここお風呂もトイレもあるよ!しかも贅沢にお風呂は2つにトイレは3つ。これなら毎日清潔に過ごせるね。女の子としてはとても嬉しいことだよ!」

 獣人娘達はそれはもう喜んでおる。

 しかしココンだけは・・・

「大雨が降っても強風が吹いても大丈夫そうね。作りがしっかりしてるもの。でも・・・あたし達なんかがこんなところに住んでいいのかな・・・」

 どうやら自分がこの家に相応しくないと思っているらしい。

 全く・・・

 幼子がそんな気を使わんでもよかろう。

「ココンや。そんなことは言うな。そなた達は十分苦労した。肉親を殺され、村を追われ、その幼さで何年もその日を生きるのがやっとの生活を続けてきたんじゃろ?もうそろそろ報われてもよいと思わんか?それにな、ワシもそれなりの思惑があってそなた達にこの家を提供しようとしておるのじゃ。気にせず使ってよい。」

 ワシはココンの頭を優しく撫でながらそう言った。

「うっ・・・うっ・・・ありがとう・・・ございます・・・」

 泣き出してしまうココン。

 辛かったのじゃろうな。

 苦しかったのじゃろうな。

 そう・・・

 こやつは、こやつらは本当に良く頑張ったのじゃ。

 こんな幼い娘達が身体を寄せ合いながら毎日を過ごし、ココンに至っては敵地の中で命を懸け、五人の代表として懸命に悲願をやり遂げようとしていたのじゃ。

 ・・・考えただけでも心がギュッとなるのう。

 じゃからワシとしては遠慮なく使ってほしいのじゃ。

 これは頑張ってきたこやつらへのワシからの報酬じゃ。

 ・・・

 ・・・そうじゃ。

 報酬と言えば・・・

「そなた達はここで寛いでおるとよい。後で必要なものを相談しようぞ。してアオイや。今からサヴァインのところに行くからそなたも付いてまいれ。」

 ワシは獣人娘達に椅子とテーブルと茶菓子を出してやり、バシルーとミドリコを残してアオイと一緒にヨルハネル連邦国へと転移した。


 ・・・


「サヴァインや、起きろ。」

 ワシとアオイは今、サヴァインの寝室にいる。

 可愛らしい小物がそこかしこに置かれた乙女の寝室。

 そこで普通の少女のように眠っているサヴァインをワシは起こした。

「あ・・・おはようございます・・・!え!あれ!魔女様!?」

 寝惚けているかと思いきや、一気に覚醒するサヴァイン。

 まあ寝起きで突然ワシ達がいたらびっくりするわな。

 しかし時刻はもう昼前じゃぞ?

 いつまで寝ておるんじゃ。

 昨夜夜更かしでもしたのか?

 まあそれはともかく・・・

「突然すまんな。そなたからの依頼を達成したのでの。その報告にきたのじゃ。」

 ワシは簡単に昨日と今日の出来事をサヴァインに話した。

 もうこれでこの2つの国の間では向こう百年、戦争など起きんじゃろう。

 まあ代替わりしたらわからんがな。

「は、早いですね。しかし・・・あなた方の力量なら可能なのでしょうね。ありがとうございます。これでむこの民達が無闇に命を落とすという事態は回避されました。本当にありがとうございます!」

 サヴァインは重ね重ねワシに感謝を述べる。

 うむ、こやつは貴族として真っ当な奴らしいの。

 中には傲慢が服を着て歩いてるような輩もおるからな。

 こういう奴がもっと増えればいいのじゃがの。

 おっと。

 それよりも報酬の話をせねば。

「よいよい。それでな報酬の噴水の件なのじゃが・・・」

「はい。あの噴水はもうあなたのものです。父上には口出しさせません。あっ、でも。戦争を止めて頂いたのに噴水だけでは報酬として少ないような・・・そうだ!報酬は噴水と・・・僕でどうですか?」

 顔を赤らめ、口元に手をおいて恥ずかしそうに言うサヴァイン。

 しかしそれを聞いて黙っていないのはアオイじゃった。

「何を言ってるんですかぁ!それじゃぁ自分がご褒美もらうだけでしょぉ!それは報酬になりませんからぁ!」

 サヴァインに詰め寄るアオイ。

 その形相は怒っているのか焦っているのかわからんものじゃった。

 しかし・・・

 ふむ。

 報酬はサヴァインか。

「それもいいかもしれんな。」

 ワシがボソッといった言葉に、唖然とするアオイと嬉々とした表情を見せるサヴァイン。

 そしてサヴァインはあっという間に衣服を脱ぎ去り一糸纏わぬ姿になった。

「はい!どうぞ!あっ、でも僕初めてなんで優しくしてくださいね。」

 そう言ってサヴァインはベッドの上でワシのことを誘うように見つめてくる。

 隣で悔し涙と歯軋りをするアオイ。

 何じゃこの地獄絵図は。

 それに何を勘違いしておるのじゃ?

「違うわ!ワシが求めておるのはそういうことじゃないぞ!おい!ちゃんと聞け!」

 ワシが話しておるのにも関わらず、今度はアオイも服を脱ぎ出してサヴァインの隣にいき、当たり前のようにワシに熱視線を送ってくる。

 フゥ、やれやれ。

 こやつらのペースに付き合ってられんな。

「ワシが言いたいのはな、噴水はこのままこの領地に置いておくからその管理をサヴァインに任せたいということじゃ。ワシもそんなにしょっちゅうここに来るわけでもないし、噴水を森に持っていっても景観に合わんじゃろうからな。どうじゃ?頼めるか?」

 ・・・

 暫しの沈黙。

 そしてワシが言わんとしたことがやっと理解できたのか、サヴァインは顔を真っ赤にして急いで毛布にくるまり身体を隠した。

「わわわわわかりました。すみません、勝手に勘違いしちゃって。お見苦しいものをお見せしました!」

 自分の早とちりを改めて、ちゃんと謝罪を言ってくるサヴァイン。

 うむ、わかればよいのじゃ。

 しかし・・・

 アオイはいつまでその格好なのじゃ?

 誤解は解けたじゃろう?

 ・・・

 ・・・

 いや、だからいつまでその格好なのじゃ!

 何かしゃべれ!

 足を広げるな!

 もっと恥じらいを持て!

 全く・・・

 ワシは指をパチンッと鳴らし、有無を言わさずアオイに服を着させた。

「ああぁ・・・」

 残念そうな声を出すアオイ。

 何がああぁじゃ!

 こやつの奇行は相変わらずじゃな。

 安定した奇行っぷりじゃ。

 まあそんなところは安定せんでよいのじゃが・・・

 ともかく、報酬の件はきちんとサヴァインに伝えたしの。

 大丈夫じゃろう。

 最初の予定では、取り敢えず噴水はこのままにしておくから見たいときに勝手に見させてくれればいいとだけ言うつもりじゃった。

 しかし管理も任せられるようになったのは実にありがたいことじゃ。

 本来は所有者のワシがやらねばならんことじゃったしの。

 これはいい報酬になったものじゃわい。

 さて、用事も済んだことじゃし帰るとするかの。

 ワシはサヴァインに服を着させを授けた後、ココン達に提供した家へとアオイと一緒に転移した。

 あやつらに今後の話もせんといかんからな。

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