第12話 悪役令嬢(?)現る


 非常識な時間に非常識な態度でワシの前に立つライグリとか言う女。

 すかさずステータスを見たところ、こやつはアオイの2つ年上で、職業はソーサラーじゃった。

 じゃがレベルはたったの5。

 こんなんでは低級の魔獣すら倒せんじゃろう。

 よくここまで辿り着けたものじゃ。

 まあその理由はわかっておるがの。

 ともかく、こんな失礼な態度をとる小娘にはしっかり言っておかんとな。

「コラッ!こんな夜遅くに非常識な奴じゃな!この家はやらんし住まわせてもやらん!とっとと立ち去れ!」

 ワシは圧を極力抑えて、ライグリとかいう小娘を追い払おうとした。

 きっと甘やかされて育ったのじゃろう。

 何でも自分の思う通りにしたいのじゃ。

 こやつの国ではそれでもよかったかも知れんが、他の国やこの森の中ではそうはいかん。

 自分基準の傲慢が、どこでも通用すると思うなよ?

 じゃが、ライグリの反応は予想外じゃった。

「えっ・・・あの・・・ごめんなさい。」

 驚いた顔から一転、素直に反省し謝ってくるライグリ。

 む?

 どうしたのじゃ?

 てっきりごねてくるとばかり思っておったのじゃが。

 素は大人しい奴なのか?

 まあそんなことはどうでもよいか。

 とっとと退場願おう。

「わかればよい。では朝にでも出直して来るんじゃな。」

 もう来てもらいたくはないが、こんな低レベルな奴がここまで来たんじゃ。

 話くらいは聞いてやらんでもない。

 じゃがライグリは引き下がろうとしなかった。

「お願いしますわ!せめてこの敷地内にいることを許して頂けませんと・・・」

 そう言ってライグリは振り返り、結界の外に目を向ける。

 ・・・なるほど。

 そういうことか。

 ワシもエビルオーガではないからの。

 ・・・仕方無い。

「わかったわかった。ではも中に入れるようにしてやろう。」

 ワシは結界の外で待機している、おそらくライグリの従者であろう女も入れるようにしてやった。

 それがわかった従者の女は、草影から姿を現し結界の中へと入ってくる。

「かたじけない。もう限界だったのです。」

 長い黒髪を靡かせ、浅黒い肌の女がワシに感謝の言葉を述べた。

 その様子に、ライグリは安堵の表情を浮かべ駆け寄っていく。

 ほう。

 こやつ、人族にしてはレベルが高いのう。

 121か。

 ん?

 年齢が171歳じゃと?

 スキルか・・・

 おっ、あったあった。

 スキル『老化遅延』。

 絶対に老化しないわけではないが、極端に遅らせるスキルじゃな。

 珍しいものを習得しておるわい。

 まあワシやキサラム達が持つ不老に比べればレア率は低いがの。

 ついでに魔法も確認しておくか。

 ・・・

 おっ、やはりあったの。

 この魔法があれば、森を進んでここまで来ることは出来そうじゃ。

 じゃがそれでもかなり頑張らんと来れんじゃろうがな。

 実際二人を見てみると・・・

 身なりはボロボロ。

 正に満身創痍といった装いじゃ。

 顔色も悪いしの。

 数日間、ろくなものを食べておらんのじゃろう。

 それに寝不足もあるか。

 大したレベルでもないこやつ等が、この森で安眠できるとは思えんからな。

 う~む・・・

 ・・・

 ええい!

 仕方がない!

 ワシは敷地の結界ギリギリ内側の場所に魔法で小さな家を建ててやる。

「そなたら、一先ず今夜はそこの家で休むがよい。風呂もトイレも完備しておるからの。事情は後で聞いてやる。」

 とにもかくにもこやつらが万全の状態でなくてはの。

 こんなフラフラされたまま話されても、色々と心配になって頭に入ってこん。

「おーほっほっほっ!いいでしょう。使って差し上げますわ。まあこんな小さな小屋では私の高貴さが・・・あいた!」

 またもや高飛車な態度をとったライグリの頭を侍女がポカッと殴った。

 いや、侍女というよりは傭兵のような出で立ちじゃな。

 ・・・元冒険者か?

「全く貴女という人は・・・話をややこしくしようとしないで頂きたい。それに・・・もういい加減演技はやめてもよいのですよ?」

「うう・・・そうは言っても、もう何年もこの態度だったから・・・中々直りませんわ。」

 侍女の言葉に頭を擦りながら答えるライグリ。

 なるほどの。

 ライグリのこの性格は地ではないらしい。

 しかし何故じゃろうな。

 おそらく根は素直な良い淑女なのじゃろうに。

 ・・・その辺がこの森にいる理由になるのか。

 まあ何はともあれ話はまた後でじゃ。

 とっとと眠りたいからの。

「兎も角じゃ。今はゆっくり休むがよい。おっと、そうじゃ。腹も減っておるじゃろう。これを持っていけ。」

 ワシは異空間収納からクッキーを取り出すと、侍女の方に渡した。

 大丈夫だとは思うが、ライグリが独り占めしてしまうかもしれんからの。

「何から何までありがとうございます。では私達はご用意してくださった家で休ませて頂きます。さあ、行きますよ。」

「わ、わかっていますわ!だからそんなに引っ張らないで!」

 ライグリのカールがかった長い髪を引っ張り、侍女は小さい家に向かって歩いていった。

 うむ・・・

 力関係は侍女の方が上なのかもしれん。


 ・・・


 ・・・


 眩しい太陽の光で目を覚ますワシ。

 中途半端な時間に一度起きてしまったからいつもより二時間も遅い起床になってしまったわい。

 ともあれ、顔を洗ってリビングに行って朝食でもとるかの。

 アオイはもう起きておるじゃろうし、直ぐにでも朝食にありつけることじゃろう。

 ・・・と思っておったのじゃが。

 リビングに着いたワシを待っていたのは、どんよりとした空気を放ちながら椅子に座っているアオイの姿じゃった。

 何じゃ何じゃ?

 何があったのじゃ?

 こんな空気の中、流石に朝食を食べたくなかったワシはアオイに理由を聞いた。

「どうしたのじゃ。元気がないのう。」

 ワシの言葉に肩をピクリと動かしたアオイは、ボソリとその口から音を発した。

「女のぉ匂いがしますぅ・・・主様ぁ、昨晩何かしましたぁ?」」

 未だ顔を俯かせているアオイは、何かを疑うようにワシに聞いてきた。

「ああ、よくわかったの。実は夜中に女二人が来てな・・・」

「食べちゃったんですかぁ!こんなに汗の匂いが残るほどぉ!その二人をクタクタにしてぇ!ヘロヘロにしてぇ!何回も何回もぉ!絶頂に次ぐ絶頂を味わわせてぇ!酷いですぅ!完全に浮気ですぅ!私をぉ夜の相手にしてくれたことなんてないのにぃ!うわぁぁぁぁん!」

 全く見に覚えのないことを散々言ってきた挙げ句、勝手に泣き出してしまうアオイ。

 何を考えておるんじゃこやつは。

 というかどれだけ鼻がいいんじゃ。

 確かにあの二人は数日風呂にも入っておらんそうじゃったから汗の匂いはしたぞ。

 しかしそれほど匂っていたわけではない。

 それに何なんじゃ。

 その勝手な推理は。

 まず主であるワシを頭っから疑うな!

 ワシがそんな女に見えてるのか!

 失礼にも程があるぞ!

 じゃが・・・

 ここまで泣かれてしまっては怒るに怒れんのう。

 う~む・・・

 ・・・ハァ。

 仕方無い。

「アオイや。何を勘違いしておるのじゃ。その二人の女は夜中にここを訪ねてきた不届きものじゃ。そんな奴等にワシが好意を寄せるわけがなかろう。じゃが・・・あまりにもボロボロの身なりじゃったからな。ちと温情を与え、結界の中にいさせてやっておるのじゃ。何故この森にいるのか。面倒じゃが、朝食を摂った後にでも詳しい事情を聞きに行かねばならん。アオイや、ワシについてきてくれるか?」

 ワシは簡単に昨晩の説明をし、アオイを食後の用事に誘った。

 何とか伝わったのじゃろう。

 アオイから発せられていた負のオーラは消え、目からは涙が止まる。

 そしてガバッと顔を上げ、ワシに笑顔を見せてきた。

「はいぃ!喜んでぇ!」

 元気のよい、いい返事が返ってくる。

 どうやらいつものアオイに戻ったようじゃ。

 やれやれ。

 何故ワシがここまで気を使わねばならんのか。

 まあよい。

 一先ず朝食じゃ。

 ・・・

 ちょっと待てよ?

 どうせならライグリ達と一緒に食べるか。

 そうなると・・・

 アオイにはいつもの異世界料理を出させる訳にはいかんな。

 まだあの二人のことを信用しておらんからの。

 言いふらされては厄介じゃ。

 となると・・・

 ふむ。

 たまにはワシが腕を振るうか。

「アオイや、今朝の朝食はワシが作るからの。ちょっと待っておれ。」

 そう言ってワシは台所に足を向ける。

 さて、何を作るかの。

 まあ腕を振るうと言っても、ほとんど魔法で作ってしまうのじゃがな。

 ・・・

 リビングからキラキラした視線が飛んでくるのう。

 ちと鬱陶しいぞ。

「主様のぉ手料理ぃ🖤主様のぉ手料理ぃ🖤」

 小声でブツブツ言っておるようじゃが、全部聞こえておる!

 ああもう面倒じゃ。

 ワシは火の魔法と水の魔法と風の魔法を駆使し、あっという間に料理を作り上げた。

 勿論食材は異空間収納から新鮮なものを取り出しておる。

 アオイの出す料理に勝らんが、食材がよければ多少味気なくとも旨味は増すからの。

「出来たぞ。ガンジャガとワルードリを使ったサンドイッチとギルギースープとその他諸々じゃ。」

 ワシはリビングのテーブルの上に大量の料理を並べ、アオイの向かいの席に座った。

「わぁぁ。主様ぁ凄いですぅ。美味しそうですぅ。こんなにいっぱい作って頂いてぇ。感無量ですぅ。」

 アオイは、それはもう喜び、早く食べたさそうにヨダレを垂らしておる。

 ん?

 もしかしてこの量を二人と一匹だけで食べると勘違いしてはいないか?

 というかミドリコはどうした?

 姿が見えんが・・・

「ピィ、ピィー。」

 アオイの部屋から飛び出してくるミドリコ。

 どうやらかなり腹を減らしているようじゃ。

 なるほどの。

 さっきまでのあの雰囲気に耐えられず、部屋に引き下がっていたというわけか。

 可哀想にのう。

 腹一杯食べさせてやりたいのは山々じゃが、これはワシらの分だけではないのじゃ。

 先ずはその説明をせんとのう。

「そなたら、勘違いするなよ。これはワシらだけの分ではないぞ。昨晩来た二人組にも分けるからな。」

 ワシがそう言った直後、リビングの空気がピリッと張り詰める。

 アオイとミドリコの仕業じゃ。

 二人とも面白くないような顔をしておる。

「何じゃ。ワシのすることに不満でもあるのか?」

「大有りですぅ!」

「ピィッ!ピィーッ!」

 バンッとテーブルを叩き立ち上がるアオイと、不機嫌そうに飛び回るミドリコ。

 何じゃ?

 何がそんなに不満なんじゃ?

 別にいつも通りの施しではないか。

 まあ今回はアオイの料理ではなくワシの料理じゃがな。

 寧ろ味の質は落ちておるし、過度の施しではないのじゃからいいではないか。

 じゃが、どうやらワシの料理というのが問題だったようじゃ。

「私ぃ、数ヶ月もこの家に居てぇ主様の手料理ぃ今日が初体験🖤なんですよぉ。なのにぃ、ポッと出のぉよくわからない女の人達がぁ、私と同じ日にぃ主様から初体験をもらえるなんてぇ我慢なりませんん!」

「ピィピィ!ピィピィ!」

 何やら訳のわからん理屈でアオイとミドリコに責められる可哀想なワシ。

 何を言っておるんじゃ?

 確かにアオイが来てからというもの、殆ど料理などしたことがなかったが・・・

 しかしの。

 そんな大層なものでもあるまい。

 アオイがスキルで出す料理の方が間違いなく美味いからな。

 何故にそこまで特別に思ってしまうのか。

 まあこればかりはそれぞれ個人の感情があるから仕方無いのかの。

 ・・・

 最近のミドリコはアオイに似てきたな。

 まあともあれ、このままでは話が進まん。

「ああ、わかったわかった。ではこれはそなたらが食べるがよい。じゃが食べきれるのか?そなた達のことも考えて多目に作ったのじゃぞ?ワシは少食じゃから一人分しか食べられんし・・・二人分は異空間収納にしまっておくか?」

 残すのは勿体ないからの。

 異空間収納に入れておけば、後ででも今の鮮度で食べられるからな。

 うむ、それがよかろう。

 ワシがアオイ達の返事を聞く前に動こうとすると・・・

「ああぁ、待ってくださいぃ!全部食べきれますからぁ!」

「ピィッ!ピィッ!」

 大慌てで止められてしもうたわ。

 本当に大丈夫なのか?

 結構な量があるぞ?

 しかしそんな疑念も束の間、アオイ達は食べ始めてしまう。

「いただきますぅ!」

「ピィーー!」

 ミドリコはガツガツとサンドイッチを貪り、アオイは丁寧によく味わいながら口の中にサンドイッチを入れていった。

「ああぁ🖤主様のぉ味がしますぅ🖤幸せですぅ🖤」

 うっとりした表情を浮かべるアオイ。

 そんな大したものではないのだがの。

 でもまあこれだけ旨そうに食べてくれるんなら悪い気はせん。

 見る見る減っていくテーブルの上の料理達。

 じゃがそろそろ流石に腹一杯になるじゃろう。

 ・・・と思っていたが、一向にスピードが下がらん。

 どんな胃袋をしておるんじゃこやつらは。

 気付けばもう殆ど食べ終えておるぞ。

 半ば呆れながらこの様子を見ておると、アオイが不意にワシを見つめ、照れくさそうに言ってきた。

「主様ぁ🖤このサンドイッチのパンとパンの間をぉ主様を想像しながらぁ舐めてもいいですかぁ🖤」

「やめい!」

 何を気色悪いこと言ってくるんじゃこやつは・・・

 久しぶりに鳥肌が立ったわい。

 こやつの変態さ加減もついにここまで来たか。

 一体ワシのどこを想像して・・・

 ・・・

 うむ、やめよう。

 わかったところでワシに何のメリットも無いわ。

 とはいえ、一応出したワシの制止も特に効果は無かったようで、アオイはジュルジュルいいながらサンドイッチの具材を啜るように舐め始めた。

 最初っからやるつもりなら、わざわざワシに許可を取ろうとした意味はあるのか?

 本当に・・・

 気持ちが悪いのう・・・

 

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