第5話 依頼達成



 鰻重を食べて何やら精がついてしまったワシ達は今、ヨルハネル連邦国のトップが住まう城の前まで来ている。

 ・・・ハァ。

 鰻重、旨かったのう。

 あのフワフワな身。

 あのタレの染みたご飯。

 また食べたいのう。

 しかもじゃ。

 どうやらあの鰻重には更に上があるらしい。

 今はまだ魔力不足で出せないそうなのじゃが、そう焦る必要もないじゃろう。

 まだまだアオイのいた世界の料理は沢山あるらしいからの。

 それらを食しながらアオイのレベルが上がるのを待つのも一興じゃろう。

 あの後、グローラリアは満足したのか、また来るようなことを言い残して帰っていった。

 余計なことも言っていたが・・・

 何が『オデッセアと私が同格ならクロっちだって・・・』じゃ。

 わざわざそんなこと言わんでもよいわ。

 ワシはのんべんだらりと暮らしていきたいんじゃからな!

 火種になりそうなことは口走るな!

 ・・・全く。

 まあそれはさておき、キロイとバシルーとミドリコには留守番を任せ、これから両国のトップのお仕置きタイムが始まるのじゃ。

 というわけで、先ずはヨルハネル連邦国の連邦王を調教するかの。

 ワシ達はもうすでに連邦王の執務室の前まで来ている。

 というか初めから空間移動でここには来ていたがな。

 探知サーチで室内の生命反応を確認してみる。

 中には・・・うむ、どうやら連邦王一人でいるようじゃ。

 無用心じゃのう。

 まあよいか。

 取り敢えず殴り込むワシ達。

 ガンッと扉を開き、3人で執務室に飛び込んだ。

「ワシの名はクロア!均衡の森に住まう魔女じゃ!そなたの国が戦争を起こそうとしておることはわかっておる!今すぐ考えを改めるのじゃ!」

 ワシは連邦王に向かってビシッと言ってやる。

 まあそうは言っても簡単には聞き分けないじゃろうな。

 騒ぎ出す前にとっとと魔法をかけてしまおうか。

 ・・・と思っておったのじゃが・・・

「・・・わかった。やめる。」

 !!

 ん?

 何じゃ何じゃ?

 素直すぎるぞ?

 ワシが言ったことを聞き取れなかったのか?

 それとも・・・何かあるのか?

「やけに物分かりが良いな。」

 疑いながら聞くワシ。

 嘘を言ってワシ達を油断させるつもりかも知れんしな。

 じゃが連邦王は本気だったらしい。

「ああ・・・うちの神官にエルフがいるんだがな。そいつに口酸っぱく言われてるんだ。『均衡の森の魔女を絶対に敵に回すな』ってな。まあ確かに・・・実際に会って神官の言葉の意味が良くわかったよ。あんたには何を持っても絶対に勝てないだろうな。」

 ワシを見ながら身震いする連邦王。

 ちょっとワシに対して失礼な気もするが、何とも懸命な判断じゃな。

 どうやら思っていたような愚王ではないらしい。

「よし、ならばその言葉を信じよう。じゃがもし、裏切るようなら・・・わかっておるの?」

 ワシは威圧をかけながら釘を刺す。

 いくら長命のエルフがワシのことを知っていてこやつに言い聞かせたとしても、国の方向性の決定権は連邦王にある。

 ワシ達がいないときに心変わりされたらいかんからの。

「わかっているさ。俺もこの国の民達を皆殺しにされたくないからな。あんたを裏切る真似はしないさ。」

 連邦王は椅子の背もたれに深く沈み、そして軽くため息をついた。

「それに元々、私としては戦争などをする気は無かったんだ。向こうが変な気を起こさなければな。」

 どうやらこやつは好戦的な性格ではないらしいの。

 しかもちゃんと国民のことを考えておる。

 こやつが国のトップなら、今のところ問題ないじゃろう。

「うむ、ではワシ達は引くとしよう。この後もう1つ行くところがあるでの。」

 ワシは踵を返し、連邦王に背を向ける。

 勿論行くところとは帝国のことじゃ。

 こっちも聞き分けが良ければいいのじゃが・・・


 ・・・


 一瞬でヒルウゴク帝国の帝王がいるであろう部屋の前に転移したワシ達。

 ここでも最初にあのやることは先程と一緒じゃ。

 扉を開け名乗りをあげる。

 そしてそこから話し合いが始まるのじゃ。

 ということで早速扉をバンッと開け、室内に飛び込むワシ達。

 そして名乗りを上げようとしたのじゃが・・・

「よく聞け!ワシの名は・・・」

「何だ何だお前達は!出合え!出合え~!」

 ワシが名乗りをあげる前に騒ぎ出す帝王。

 騒がしいのう。

 確かにワシ達が突然現れて驚くのは分かるが、もう少し冷静な判断と行動が出来んもんか?

 そして早速駆けつける精鋭部隊。

 ふむ、見たところレベル50~80の集まりといったところか。

 まずまずの部隊じゃな。

 まあワシにとっては者の数にも入らんが。

「あぁっ、あの子ぉ可愛いですぅ。」

 アオイは帝王の直ぐ側にいる、精鋭部隊とは思えない程レベルが低い一人を指差してそう言った。

 む?

 あれは・・・

「ふむ、獣人族か。」

 この帝国は獣人族と共存している国なのじゃ。

 スピードも力も人族より高く、気性は魔族よりは穏やか。

 そんな獣人族は元々亜人の国にいたのじゃが、その国が自然消滅してしまったが故人族と共存せざるを得ない状態になってしまったのじゃ。

 初めの頃は迫害もあったのじゃが、そこはワシと三大神以外の他の神々達で上手く治めた。

 そして今は当たり前のように人族と一緒に生活出来るようになったという訳じゃ。

 勿論この帝国だけに獣人族がいるわけではない。

 ただ獣人族が最初に根付いたのがこの国だったというだけじゃ。

 それはいいとして・・・

 ワシは猫耳の獣人族を凝視した。

 ふむ。

 歳はアオイより4つ下か。

 ステータスは・・・

 ほう・・・

 これは・・・どうやらこやつも癖がありそうじゃな。

「まあよい。ともかく・・・『魂束縛ナイトメアキャプティブ』。」

 ワシはしょうがなく予定通りの魔法を愚王にかけた。

 それと同時に襲いかかってくる精鋭達。

 何か攻撃されたと思ったのかのう。

 じゃが・・・

「やめい!」

 帝王は精鋭部隊を止めた。

 ふむ、しっかりかかっておるようじゃの。

 ではしっかりワシの思い通りに喋ってもらうとするか。

 ワシは念話で帝王に指示を送る。

 そしてその通りに話始める帝王。

「その方達は客人だ。突然で驚いてしまってお前達を呼んでしまったが大丈夫だ。お前以外他の奴等はもう下がっていいぞ。あっ、それから連邦国には戦争を仕掛けないことにした。関係各所にその事を連絡せよ。」

 帝王の言葉にギョッとする面々。

 勿論一人だけ残れと言われた獣人娘も驚いておる。

 しかし帝王の言葉は騎士達には絶対なのじゃろう。

 思うところがあるような表情を見せながらも、獣人娘以外の騎士達は皆退室していった。

 そしてワシは探知サーチでワシ達以外、他の気配が周りにいなくなったことを確認し、帝王にかけた魔法を解除する。

 すると帝王はワシに心酔している顔から一転、狐につままれた表情に変わった。

 そして徐々に正気を取り戻していく。

「お、俺は何を・・・貴様ぁ、怪しい術を使いやがって・・・許さん!いでよ!炎の神、カグラ!」

 魔法が解けた途端、息巻いて奥の手を使ってくる帝王。

 するとその直後、広間の一角で炎が立ち上がりその中から一人の女が出てきた。

「我を呼び出したのはお前か。」

 女は威厳を振り撒きたいのか、帝王を見もせず上を見上げて様々な形の炎を操っている。

 ・・・派手じゃのう。

「はい!我が国の守護神である貴女にお願い申し上げます!この国の敵を討ち滅ぼして下さい!」

「ほう・・・」

 そこでようやっとワシ達に目を向けるカグラ。

 そしてワシと目が合うと目と口を大きく開き固まってしまったわ。

「何じゃ?ワシとやろうと言うのか?カグラよ。」

 ワシはカグラをギロリと睨み付けた。

 勿論こやつとは面識がある。

 何なら昔、ワシがこやつを鍛えてやったのじゃからな。

 つまり、簡単に言うとこやつはワシの弟子にあたる。

 そんな奴じゃからのう・・・

「あっ、いえ・・・そんな・・・滅相もない・・・」

 見る見る萎縮していくカグラ。

 まあワシの力を理解している奴ならばこうなるじゃろう。

 別にワシは戦意の無い奴を痛ぶる趣味はない。

 それにこやつはただ呼ばれて出てきただけじゃしの。

 許してやるか。

「何もせんのならとっとと帰れ。この国とそなたの間に結ばれている契約は解除しておいてやるでの。」

 ワシはパチンと指を鳴らし、カグラと帝国の間にある『国防契約』を解除した。

 これは国に危機が及んだとき、或いは国のトップ、つまり帝王が何らかの要因で危険だと判断したときに炎の神カグラを呼ぶことが出来るというものじゃ。

 そしてカグラに命じることが出来るのはただ1つ、敵を殲滅させることだけ。

 しかしそれも完全に強制出来るわけではない。

 今回のように明らかに勝てない相手には攻撃しないし、虚偽の危機では動かない。

 カグラが行うのはあくまで国防なのじゃ。

 じゃが今回で帝王は、いや、帝国はもうカグラを呼び出すことすら叶わなくなった。 

「で、ではご指示の通り帰らせて頂きます。ごきげんよう・・・」

 そう言って神々の世界に帰っていくカグラ。

 このやり取りを見ていた帝国は酷く狼狽しておる。

「カグラ様!おい!どうなってる!」

 状況が飲み込めない低能な帝王。

 この国はこんなやつが王なのか?

 やれやれ・・・

 国民達が可哀想じゃな。

 ともかく、ここからは当初の予定通りにいくとするか。

 ワシは取り敢えず帝王の回りの空気の流れを操り、声が出せないようにしてやった。

 これで再び誰も呼び寄せることは出来んじゃろ。

「後は・・・アオイ、キサラム、そなた達に任せるとするかの。それと・・・そこの獣人娘よ。そなたもアオイ達に混ざるがよい。」

 ワシがそう言うと、猫獣人の小娘はキョトンとしてしもうたわ。

 今までのやり取りも踏まえて、理解が追い付いていないようじゃな。

「は、はい・・・でも・・・何で?」

 ふむ、まあそう思うわな。

 じゃがこれには理由がある。

 こやつのステータスを見て気付いたのじゃが・・・

「これはワシの勝手な推理だと思って聞くがよい。そなた・・・この帝王に恨みがあるじゃろう?」

「な、何でそれを・・・」

 驚く猫獣人の小娘。

 どうやら図星だったようじゃな。

 ワシは言葉を続けた。

「そなたのステータスじゃ。スキルで上手く隠蔽しておるようじゃが、ワシが見れば瞬時に見破れるぞ?職業を変え、敢えてレベルを低くして隠し、隙を見せることで帝王を上手く誘惑して取り入ろうとしたのじゃろ?」

 こやつの本当の職業はアサシン。

 それを職業ロイヤルナイトと偽っていることから、こやつが帝王の命を狙っていることは分かっていた。

 そして決定的だったのはこやつの隠蔽されたスキル、『獣の呪い』じゃ。

 これは獣人族特有のスキルで、同じ種族の身内が虐殺されたとき、生き残ったものが授かるスキルなのじゃ。

 つまり、この帝王によってこの小娘の身内の誰かが殺されたことになる。

 このスキルを持ち、ステータスを隠蔽しているのであれば自ずとこの答えに辿り着くのは至極当然のことじゃろ?

「そして帝王に夜伽ぎに誘われるように誘導して、寝室で二人きりになったときに暗殺しようとしたのじゃろ?カグラを呼ばれては厄介じゃろうからな。」

 猫獣人は押し黙り、俯いてしまう。

 どうやら図星だったようじゃな。

 諦めたように軽くため息をつき、ワシに顔を向ける。

「・・・お見通しですか。そうです。あたしはこの男を殺すつもりでこの城に就職しました。半年かけて上手く気に入られることは出来たのですが・・・」

 どうやら手違いがあったようじゃな。

 これだけの可愛らしさがあれば、男を手玉にとることなど簡単に出来そうじゃがのう。

 まあ勿論、こんな幼子に手を出そうとすればロリコン確定じゃがな。

 そしてやはりそれが問題だったらしい。

「どうやらあたしが幼すぎるらしく、後3年後に妾にすると言われました。別に二人きりにさえなれればこんなクズ、あたしの肌を触れさせることもなく殺してやるつもりでしたが、我慢を余儀なくされてしまったのです。しかし・・・貴女達が来てくれてよかった。そうですよね。こんなクズでも直ぐに殺処分してしまってはどうせまた同じようなクズが帝王になってしまいますもんね。ならばしっかりと責め苦を味わわせて、調教したほうが良さそうです。あたしを参加させて頂きましてありがとうごさいます!」

 迷いの無い爽やかな笑顔を見せる猫獣人。

 よしよし。

 いい顔じゃ。

 こんな可愛らしい娘なら笑顔のほうが似合うのは間違いない。

 何があったのかは知らんが、こんな低能な奴に恨みを募らせて感情を曇らせなくてもよいじゃろう。

 そういう感情は、命を奪わんでもこやつに散々責め苦を与えて発散させればよい。

「あなたも一緒にやるんですねぇ。たっぷり楽しみましょうぅ♪」

 やっと自分の役割がきたことが嬉しいのじゃろう。

 アオイは満面の笑顔で猫獣人の肩に手を置いた。

「そうですね。本来は私とアオイさんだけでやるつもりでしたが、3人いれば更に責め苦を与えることが出来るはず。一緒に頑張りましょう。」

 アオイもキサラムも猫獣人の参加を拒まない。

 うむ、何故だか特殊な絆が生まれそうじゃな。

 3人は肩を組み、何やら話し合っている。

 そして・・・

『いってきまーす(ぅ)!』

 前もって打ち合わせしていた通り、アオイ達は帝王を連れてワシの作った異空間部屋の中へと消えていった。


 ・・・


 ・・・ 


「ふぅぅ・・・スッキリしましたぁ。」

 3時間後、ワシが暇潰しに読書をしておると、いい顔でアオイは拷問部屋から出てきた。

 その後に出てきたキサラムと猫獣人もスッキリしたのか、顔をツヤツヤさせておる。

「終わったのか?」 

 ワシは分かりきったことを聞いた。

 こやつらの表情を見る限り、調教は上手くいったのじゃろう。

「はいぃ。滞りなくぅ調教完了致しましたぁ。もうぅ、絶対にぃ戦争したいなんてぇ考えないと思いますぅ。」

 自信満々といった様子のアオイ。

 他二人もウンウンと笑顔で頷いている。 

「ふむ、ならばここにはもう用は無いな。しかし・・・」

 ワシはキサラムと猫獣人の話に耳を傾けた。

 そこでは黄色い声の女子トークが繰り広げられておる。

 ・・・が、内容はとんでもないものじゃった。

「それにしてもアオイさんって凄い方ですね。あんな責め苦の与え方なんて見たことも聞いたこともないですよ。」

「そうね。まさか最初にあの男のアキレス腱を両方切って動けなくした後、何の迷いもなく手足の生爪を全部剥ぎ取りそこに塩を練り込むなんて・・・苦痛に悶えるあの男のあの顔、傑作だったわ。」

「ですよね♪その後あたし達も混ざってあいつに目隠しした後、あいつの顔に順番で・・・」

「楽しかったですよねぇ。あの男ぉ、一時間後にはぁ私達のことぉ女王様ってぇ言ってましたよねぇ。自分は帝王なのにぃ。あれだけぇ切り刻まれたりぃ辱しめを受けたのにぃそれで興奮するようにぃなっちゃったんですよねぇ。まあぁキモかったけどぉ、これであの豚はぁもう女性にはぁ絶対に逆らえないはずですぅ。」

「そうですよね。〇〇〇を〇〇〇されてΧΧΧされ続けたらもうまともな精神じゃいられませんよね。」

「あ、後ΧΧΧを〇〇〇して□□□したのも印象的でした。勉強になります!」

「いやいやぁ、照れますねぇ♪」

「あ、あれも凄かったです。あの・・・」

 その後もワイワイ話している3人の娘達。

 ・・・こやつら。

 そんなことしておったのか。

 アオイの回復魔法があるから死ぬことは無いと思って安心しておったが、どうやらとんでもない目に合わせたようじゃ。

 フゥ・・・キロイを連れてこなくてよかったわい。

 教育に悪いからの。

 まあともあれ、これで依頼は達成じゃ。

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