第4話 理の女神
その日の夕方。
ワシは計画を立てるためキサラム達を家に招き、リビングで作戦会議を開くことにした。
今は何も置かれていないテーブルを囲い、それぞれ椅子に座っている。
「どれ、皆集まったことじゃし、ちと相談に乗ってもらうとするかの。」
ワシは取り敢えず今日起きたことを簡単に話そうとしたのじゃが・・・
「な~に~?あんたが相談なんて穏やかじゃないわね。もしかしてこの世界滅んじゃうの?」
気の無い声でとんでもないことを言ってくるバシルー。
何でワシの相談だとそうなるんじゃ!
「ちゃうわ!人族の国同士の争いをどう治めるか話し合いたいのじゃ。」
ワシはサヴァインから受けた依頼の内容を皆に説明する。
その間、アオイはずっと肩をすぼめておった。
「すみませんん・・・私が勝手に引き受けてしまったんですぅ。」
反省した様子で肩を下げ、俯くアオイ。
まあ反省してくれたのは良いが、今回は引き受けて正解だったかもしれないの。
戦争など起こってしまっては騒音が気になって、ワシもおちおち安眠できんからのう。
治めておくにこしたことはないじゃろう。
「全く人族というのは・・・お母様やアオイさんの手を煩わせる何て不届き千万ですね。私が両国共に焼き払いましょう。」
「お姉ちゃん、あたしも手伝う!」
姉妹は顔を見合わせてコクリと頷いた。
おっと何じゃ?
いきなり暴力的なことを言い出しおったぞ?
キサラムはワシのこととなると直ぐに暴力に訴えようとするのう。
ここは止めねばなるまい。
「これこれやめんか。たかだか2つの国を滅ぼすことなど造作もないが、そうしない為に策を練ろうとそなた達に集まってもらったんじゃ。何とかしてあまり血を流さず、穏便に解決する方法を考えようぞ。」
もう一度振り出しに戻し、皆に思案を求める。
そして次に案を出してきたのはバシルーじゃった。
「じゃあさ、あんたが国のトップの首をすげ替えればいいんじゃない?そうすれば二人だけで済むんだしさ。」
半ば面倒くさくなったのじゃろう。
安易な案を言ってきおったわい。
「そんな簡単なことではなかろう。また新しい愚能がトップの座についてしまっては何も変わらん。それよりも何か良い手はないか?」
その後もバシルーを中心に色々な案が出たのじゃが・・・
中々これといった良い案が出んのう。
・・・腹が減ってきたわい。
「じゃああんたが・・・」
「ちょっと待ちなさい!」
バシルーが何かを言おうとした瞬間、キサラムが怒りを込めた声でそれを遮った。
「黙って聞いていればお母様のことをあんたあんたって・・・無礼ですよ!もっと敬意を持って呼びなさい!」
どうやらワシに対してのバシルーの態度が気に食わなかったようじゃ。
凄まじい殺気を放っておる。
そしてその鬼のような形相にバシルーはたじろいでしまう。
「おおぅ・・・こっわ・・・でもさ、いいの?昔の呼び方で呼んで。」
チラッとワシを見てくるバシルー。
いいも悪いも無いが・・・
「おお、構わんぞ。」
取り敢えずワシはバシルーに許可を出した。
別にこやつには呼ばれ馴れておるからの。
今更じゃ。
「そう・・・じゃあクロっちが・・・」
『クロっち!?』
これにはキサラムだけでなく、キロイとアオイも声を上げた。
ん?
バシルーは何かおかしなことを言ったか?
バシルーが転生する前はそう呼んでおったからワシとしてはあまり気にならんのじゃがな。
「な、何だよぉ・・・本人の許可は取ったぞ?いいじゃんか。」
オロオロとそう言うバシルーに、キサラムはさっきより更に怖い表情で詰め寄る。
「いいわけないでしょう!いくら闇の神とはいえお母様をあだ名で呼ぶなんて・・・」
「わ、私だけじゃないぞ?上司だって・・・」
「上司って誰です!そんな言い訳・・・」
「私だよ。」
いつの間にか空いている席に座っている女が二人の話に割り込んできた。
ギョッとして声の方向を見るキサラム達。
ショートヘアで丸眼鏡をかけ、この世のものとは思えない程の整った顔とスタイルの女が当たり前のようにそこにいたのじゃ。
そりゃギョッとするわな。
しかし・・・
ああ・・・
ワシはこの女を知っている。
全くこやつは・・・
いつも突然現れるのう。
「グローラリアか・・・そなた・・・相変わらずじゃな。」
ワシは呆れながらグローラリアの顔を見て言った。
その名前を聞いて驚きを隠せないキサラム。
「グローラリアって・・・あの三大神のですか?」
震える声で言うキサラムに、ワシはコクリと頷いた。
そう。
こやつはあの三大神の一柱、
本来、この世界の生きとし生けるものは中々会うことの叶わない存在。
そんな奴が目の前にいるのじゃからな。
まあ驚きもするか。
「よ~、クロっち。お茶くれ~。」
こちらは何も気にした様子もなく、ワシに茶を求めてくる。
久しぶりに会ったというのに・・・
変わらんな、こやつは。
「何でそなたがここにいるのじゃ。今取り込み中じゃ。帰れ。」
こやつが来てからワシとアオイ以外の面々は萎縮してしまったからの。
このままでは話にならん。
しかしどうやらこやつは疲れているらしい。
「ええ~、息抜きくらいさせてよ~。」
そう言いながらテーブルに突っ伏すグローラリア。
まあこの世界を統括している神の一人じゃしな。
大変なのはわかる。
じゃが今この場では邪魔なのじゃ。
そんなグローラリアはゆっくりと顔を上げ、今いるこのメンバーを見回した。
「で?何の集まりなの?そうそうたるメンバーじゃない。闇の神と妖精の女王、シャドウドラゴンと禁術体、異世界人とクロっち。何?いよいよ世界でも滅ぼすの?やめてよ?私の仕事が増えちゃうじゃない。やるんならちゃんと申請してから・・・」
「そんなことせんから安心しろ!この集まりもそうせんための相談をしておるのじゃ。」
仕方なくワシは今日あった経緯をグローラリアに話す。
それを聞いたグローラリアは肩肘を付き、軽くため息をついた。
「へぇ~、そんなことになってんだ。っていうか簡単に解決できるじゃん。クロっちのあの魔法使えばさ。」
グローラリアはニヤニヤした顔を作ってそう言ってくる。
こやつはこの世界の全ての生命のステータスを管理しておる神じゃ。
従って、ワシのステータスの中身も勿論知っている。
つまり、こやつには収得魔法やスキルを隠すことなど出来んのじゃ。
・・・全くやりづらい奴よの。
「う~む・・・まあそうなのじゃが、あまり使いたくないのう。後が面倒じゃしな。」
正直その魔法は最後の手段にするつもりじゃった。
確かにそれを使えば簡単にこの問題は解決出来るじゃろう。
しかしのう・・・
「主様ぁ、あの魔法って何ですかぁ?」
やはりそれは気になる様子のアオイ。
そうじゃよな。
そんな魔法があるんなら早く使えっていう話じゃよな。
じゃがこれは・・・
「相手をワシの虜にする魔法じゃ。確かにそれを使えば双方の国のトップに言うことを聞かせることが出来るじゃろう。じゃがそれと同時にそやつらはワシに執心してしまって付け回すようになるのじゃ。直ぐ魔法を解いてしまってはまた同じことを考えるじゃろうしのう。魔法を使って『はい終わり』とはいかんのじゃよ。」
そう、その後のアフターケアがつくづく面倒なのじゃ。
この魔法にかかってしまうと、ワシの寵愛を受けたいが為に他のことは全て投げ出してしまうからの。
国のトップにかけようものならその国が破綻してしまうじゃろう。
じゃからこの魔法を使うかどうかは慎重に考えねばならんのじゃ。
「そうですかぁ・・・そうですねぇ・・・ならこういうのはどうですかぁ?主様がぁ魔法を使って言うことを聞かせた後ぉ、直ぐに魔法を解いてもらってぇ私がぁ軽く拷問しますよぉ。もう二度と戦争なんてするような気が起きないようにぃ。」
何の悪びれも見せずに言うアオイ。
こやつは本当に恐ろしい娘じゃな。
ミドリコを傷付けた時に見せたあの優しさはどこへ行ってしまったのか。
・・・いや、こやつは元から男には厳しい奴じゃったな。
きっと2つの国のトップは男であると確信しておるのじゃろう。
こんな馬鹿げた戦争などを起こそうとするのは絶対に女ではないと。
・・・まあ確かにあの2つの国のトップは男なのじゃが。
・・・差別が半端ないの。
「それだと最初からアオっちがそいつら拷問した方が早くない?」
まだ少し萎縮しておるようじゃが、どうしてもツッコミたいバシルーは口を開いてアオイにそう言った。
それを聞いてアオイはポンッと手を叩く。
「そう言われればそうですねぇ。わかりましたぁ。私に任せてくださいぃ。」
自分が勝手に受けた依頼を自分で解決出来ると思ったのじゃろうな。
やけに生き生きとやる気になっておるわ。
「アオイさん。私も手伝います。」
そこに何故だかキサラムも乗ってきた。
きっとワシの助けになりたいからじゃろうな。
決意のこもった目をしておる。
「ありがとうございますぅ。二人でぇ頑張りましょうぅ。」
二人は手と手をガッチリ掴み、まるでそうするのがもうすぐ決定事項の様に微笑みを交わしておる。
「待て待て待て待て。何を物騒なことを言っておるんじゃ。ここにはグローラリアがいるんじゃぞ。そんなこと許すわけが・・・」
「いいんじゃない?」
いいんかい!
ワシは思わず心の中でツッコんでしまった。
しかしここでこやつが許可してしまってはダメじゃろ。
三大神ならもう少し1つ1つの生命に優しさを持たんと。
「こら!そなたがそんなこと許して良いのか!少しは慈悲の心を・・・」
「私はオデッセアじゃないし、世界の情勢が劇的に変わらなければそれでいいよ。それより私はそこのアオイちゃんが出す料理に興味があるの。早く皆で食べようよ。」
もう人族の争いには完全に興味を無くしてしまった、というよりワシが解決出来る魔法を持っていて、しかもそれを使うであろうことを確信しているグローラリアは、今はそれよりも何よりもアオイの出す料理を所望している。
「フゥ・・・仕方ないの。取り敢えず拷問はさておき、最初はワシの魔法で何とかするかの。その後でなら少々力ずくになっても良いか。」
仕方無く妥協するワシ。
確かにグローラリアの言う通り、早くアオイの料理が食べたいしの。
腹が減っては何とやらじゃ。
「アオイや、ここにいる皆に料理を食べさせてくれんか。」
「はいぃ、わかりましたぁ。
ワシの指示に従い、人数分の料理を出現させるアオイ。
「おお!これが噂の異世界料理ね!」
グローラリアはワクワクが止まらないといった表情で目の前に置かれた料理を凝視している。
これは・・・
これまた初めて見る料理じゃのう。
「今日はぁオデッセア様とぉ同格の方がいらっしゃるのでぇ、今ぁ私の出せるぅ最高級品の食材の料理を出しましたぁ。」
胸を張ってそう言うアオイ。
どうやら気を効かせてくれたようじゃな。
見たところ魔力も大分使っておるしの。
もう殆ど今日分のマジックエネルギーは残っておらんわ。
ここまでして出した料理か・・・
これはこれは期待できそうじゃな。
そしてアオイは満を持してこの料理の名前を紹介した。
「鰻重ですぅ!どうぞお召し上がりくださいぃ!」
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