傲慢に呆れる魔女

第1話 デートのようなもの

 新緑が一層と濃さを増し、柔らかい日差しがその本来の力を発揮し始める季節が近付いてくる。

 もうすぐ夏になるのう・・・


 ・・・


 アオイがこの家に住むようになって二月が過ぎた。

 ここ暫くはまったり時間を堪能できておる。

 ワシとしてはこのまま自堕落に暮らしたいものじゃが、昨日の晩アオイがに街に出掛けたいと言い出しおった。

 どうやらワシの貸した観光名所の本を見て興味を引いたものがあるらしい。

 しかしこれは約束とは違くはないか?

 ワシは刺激を求めるなと最初に言ったはずだぞ?

 まあでも・・・

 たまには良いか。

 ワシとしても最近観光地なんぞには行っておらんかったからな。

 じゃが一つ問題もあるのう。

 確かあの観光名所の本は200年前のものじゃ。

 果たして今も変わらずあるものなのか。

 まあそれを確かめるために行ってみても良いか。

 と思い、ワシはアオイをそこへ連れていってやることにしたのじゃが・・・

 ワシは今、一時間程リビングでアオイが出かける準備を終えるのを待っている。

 全く、主人を待たせるでない!

 あやつはどうも主従関係というものが分かっていないように思えるのう。

 少し説教してやるべきか?

 そんなことを考えていると、ようやっとアオイがリビングにやって来た。

「お待たせしましたぁ!さぁ、いきましょぉ!」

 やっとのことでやって来たアオイは、気合いの入った服装をしている。

 なるほどの。

 どの服を着ていくか悩みに悩んでおったのか。

 よく見ると目の下にくまができておる。

 そういえば昨晩、衣装部屋から大量の服を自室に持っていっておったな。

 もしやとは思うが、寝ずに服を選んでおったのか?

 ふむ・・・

 可愛らしいところがあるのう。

 だとしたら・・・

 まあ、今回は許してやるとするかの。

「そうじゃな。行くとするか。で?どこに行きたいのじゃ?」

 そういえばまだ目的地を聞いておらんかったことに気付いたワシ。

 まあできれば人族側がいいんじゃがのう。

 ワシとアオイは見た目が完全に人族じゃからのう。

 変身の魔法で魔族の容姿に似せることはできるが、わざわざそこまでして出かけるものでもないじゃろう。

「えぇ~っとですねぇ。ヨルハネル連邦国にあるバンワ領に行きたいですぅ。そこに噴水があってぇ・・・それを主様とぉ一緒に見たいんですぅ。できれば二人きりでぇ。」

 アオイはすでに決めていたであろう行きたい場所をワシに伝える。

 おお、あそこか。

 確かにあそこは一度確認しておいてもよいかの。

 二百年前に一人で行ったが、あの噴水はワシの肥えた目にも綺麗じゃったな。

 ふむ、異論は無いな。

 しかし二人きりか・・・

 ということはミドリコは留守番じゃな。

「あいわかった。少し小腹は減っておるが、それは現地で調達しようぞ。ではミドリコ、シロク、留守を頼んだぞ。」

 2匹の従魔に声をかけ、家の警備を任せた。

 この2匹なら、例え魔王が来たとしても対処出来るじゃろう。

 なのでワシは何の心配もすることなく、直空間移動を使って目的地付近へと転移した。

 一瞬でワシとアオイはヨルハネル連邦国のバンワ街の入口近くに現れる。

 人気のない場所を選んだ為、誰にも見られずに済んだ。

 この転移術は使える者が極て少ない。

 なのであまり目撃されたくないのじゃ。

 まあ別に見られてもよいのじゃが、目撃者にやいのやいのと説明を求められるのは面倒じゃからな。

 落ち着いて買い物や観光したい時は、こうして人気のないところを選んで転移するのじゃ。

「よし。では街に入るとするかの。アオイや、行くぞ。」

「はいぃ!喜んでぇ🖤」

 歩き出すワシの後ろについてくるアオイ。

 何じゃ?

 らしくないのう。

 いつものアオイならもっとグイグイワシに寄ってくるのに・・・

 仕方無いの。

「!?あぁ、主様ぁ?」

 ワシはアオイの手を握って歩く。

 全く世話が焼けるのう。

 別に同性なんじゃし、これくらいどうってことは無いじゃろ。

 何をそんなに意識するのかのう。

「ありがとうぅ・・・ございますぅ・・・」

 いつもはあまり見せん照れた顔をして、うつむき歩くアオイ。

 いつもこれくらい初ならよいのじゃが。

 ワシ達は街の入口を過ぎ、大通りを歩く。

 おお、相変わらず賑わっておるのう。

 噴水まではまだ少し歩くようじゃが、この街並みを見るのも楽しいわい。

 隣のアオイも喜んでおる。

「主様ぁ、この世界の観光地もぉ凄く活気づいてますねぇ。私のぉ世界でもぉ人気観光地はぁ凄いんですよぉ・・・何かぁ・・・懐かしくてぇ、涙が出ちゃいますぅ。」

 そう言うアオイの瞳には、確かに涙が浮かんでいた。

 そうか・・・

 いつも何だかんだ元気に振る舞っておるが、やはり元の世界が恋しいのじゃな。

 それはそうか。

 齢16の娘がいきなりこの世界に放り込まれたのじゃからな。

 家族とも離れ離れになり、さぞ寂しい思いをしておるのじゃろう。

 ・・・

 ・・・

 今日くらいは少し甘えさせてやるかの。

「アオイや、何か欲しいものはないか?今日は何でも買ってやるぞ。」

 ワシは優しく微笑みながらアオイに言った。

「そんなぁ!いいですよぉ!自分のものは自分でぇ・・・あぁっ・・・でもぉ・・・私ぃお金持ってませんでしたぁ。」

 肩を落とすアオイ。

 自分が無一文だということに気付いてガッカリしてしもうたわ。

 いや、ワシが悪いか。

 家にいるときは金なんぞ使うことは無かったからな。

 うっかりアオイに渡す給料を失念しておったわ。

「おお、すまんすまん。そなたには今まで散々料理を出してもらったからの。それ相応の給料を払おうと思っておったのじゃが忘れておったわ。ほれ、受け取れ。」

 ワシは異空間収納から金の入った小袋を取り出し、アオイに渡した。

「わぁ、重いですぅ。開けていいですかぁ。」

「よいぞよいぞ。ついでにこの世界の通貨について教えてやろう。」

 アオイは小袋の紐を緩め、中を除き込んで確認した。

「金色のぉ硬貨が1枚とぉ銀色のぉ硬貨が5枚とぉ銅色のぉ硬貨が20枚位入ってますぅ。でもぉ、銅色と銀色の硬貨はぁ形と大きさが違うのがありますぅ。」

「うむ、この世界の通過はロイと言ってな。1ロイがその一番小さくて円形の銅貨じゃ。で、10ロイが四角い銅貨、100ロイが一番大きくて円形の銅貨となる。そして1000ロイは一番小さくて円形の銀貨、10000ロイが四角い銀貨、100000ロイが一番大きくて円形の銀貨なのじゃ。そして金貨は形も大きさも一種類しかなく、その1枚で100万ロイの価値があるのじゃ。」

 簡単ではあるが分かりやすく説明したつもりじゃ。

 しかし何故だか動かなくなるアオイ。

 ん?

 どうしたのじゃろうな?

「主様ぁ・・・因にぃ、この世界の人ってぇ一般的にぃ一月どれくらいお給料貰ってるんですかぁ?」

「う~む・・・職業によって変わるが、多分手取りで20万から30万ロイ位じゃなかったかのう。」

「ええぇーー!」

 ワシの答えに驚きの声を上げるアオイ。

 何じゃ何じゃ。

 うっさいのう。

「主様ぁ!これは貰いすぎですぅ!私ぃまだこの世界に来てぇ二か月位しか経ってないんですよぉ?なのにぃ、この小袋の中にはぁざっくり数えてもぉ112万ロイ以上入ってますぅ!」

 うむ、まあ正確には112万3235ロイじゃがな。

 しかしこれは正当な報酬じゃと思うぞ?

 何せワシの侍女なのじゃからな。

 金を使う機会は少ないかもしれんが、貯めておいても損は無いじゃろ。

「まあそう言わず受け取ってくれんか。もしかすると今後、そなたに買い出しを頼むかも知れんしな。その時ついでに自分の物を買う金は必要じゃろ?」

「でもぉ・・・」

 まだ納得のいっていない顔を見せるアオイ。

 こやつもキサラムと同様の考えを持っているのかのう。

 ・・・

「よし、わかった。貰いすぎだと言うのであれば、これからは小遣いという形で少額の金を渡そう。それならよいか?」

「はいぃ!そうして下さいぃ!私はぁ主様のぉ奥さんなのにぃお給料なんて貰うわけにはいきませんからぁ。お給料なんてもらったらぁ、何かぁ上司と部下みたいでぇいい気分はしないですぅ。」

 やっと明るい顔を見せるアオイ。

 こやつ・・・

 そんなことで渋っておったのか。

 もう突っ込むのも面倒じゃわい。

「取り敢えず、小遣い制度にするのは次回からとして、今回のこの金は受け取ってくれんか。」

「はいぃ。今回だけですよぉ。」

 言って直ぐにアオイはワシがあげた広域空間収納バックに小袋をしまう。

 ん?

 ちょっと待て。

 何かワシがアオイに許してもらった形になっておらんか?

 ・・・

 ハァ・・・

 もうどうでもよいかの。

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