第20話 仲間が増えました


 一瞬で風景が変わり、ワシ達はキサラム達の待つ我が自宅の庭へと帰ってきた。

 急に家の中に現れたら二人がビックリすると思っての。

 転移先を庭にしたのじゃ。

 フゥ。

 しかしまあバシルーを連れてくるということだけの簡単な依頼じゃったはずなのに、妙に疲れたわい。

「ここがあんたの家?」

 辺りをキョロキョロと見回し、落ち着かない様子のバシルー。

「そうじゃ。まあ中に入って寛ぐがよい。」

 そう言って玄関に向かうワシ達より早く、中からキサラムとキロイが出てきて声をかけてきた。

「お母様お帰りなさい。」

「お母さんお帰り!」

「おお、二人とも。遅くなってすまんな。」

 ワシも二人に声をかける。

 じゃが、このやり取りに驚いたのはバシルーじゃった。

「え?あんた子供がいるの?しかも二人?」

 信じられないものを見た、というような顔でワシの顔を見てくるバシルー。

 ああ~そうかそうか。

 そうじゃよな。

 そうなるわな。

 闇の神ならば、ワシが独身をずっと貫いていることを知っている。

 ならば説明してやらんとな。

 そう思っていたワシよりも早く、アオイはとんでもないことを口走った。

「はいぃ🖤私とぉ主様のぉ子供ですぅ🖤」

「ええええーーー!」

 口から出任せを言うアオイと真に受けて驚愕の声を上げるバシルー。

「ちゃうわ!この妹のキロイはワシの作った依り代に魂を移した存在なのじゃ。じゃからワシの娘と言ってよいじゃろう。そういう流れがあって、折角じゃから姉のキサラムもワシの娘としたのじゃ。」

 曲折にも程があるデマに真実を覆い被せるワシ。

 全く何てことを言うんじゃこの娘は。

 バシルーが本気にしたらどうするつもりなんじゃ。

 しかしバシルーはワシの言葉の方を信じてくれたようじゃ。

「あ~、なるほど。そういうことか。」

 何とか納得し、胸を撫で下ろすバシルー。

 何じゃ?

 何でそんなに安心しておるんじゃ?

 ワシが結婚しておると、何かバシルーに都合の悪いことでもあるのかのう。

「焦ったよ。あんたに恋慕の感情を抱く神達は大勢いるからね。もしあんたが結婚でもしてるようなら、その伴侶の命が危ないよ。」

 安心の理由を説明してくれるバシルー。

 どうなっておるんじゃ?

 神々はワシをどうしたいのじゃ?

 ワシは知らず知らずのうちに奴等に貞操を狙われておるのか?

 そう言えば数十年前に会った水の神はワシの肩や手にやたらと触ってきたな・・・

 ・・・

 結界をもっと強力なものにしておくか。

 しかしバシルーの話を勘違いして聞いておる者が約一名おった。

「えぇ、私ぃ危ないんですかぁ?」

 自分が何の迷いもなくワシの伴侶じゃと思っておるアオイ。

「そなたは別の意味で危ないわ!」

 全く!

 どうしてこやつはこうなのかの!

 黙っておれば可愛らしい娘じゃというのに。

 好意を寄せられて悪い気はせんが、話が拗れるようなことを言うのは止めてほしいのう。

 まあでも、いつまでも外で話しておる訳にはいかんな。

 取り敢えずワシは娘達を連れて家に入ることにする。


 ・・・


「では今後のことを考えるとしようかの。」

 皆をリビングの椅子に座らせ、バシルーのこれからのことを話すことにした。

 まあそうは言うても、ワシの頭の中ではある程度の構想は練られておるのじゃがな。

「バシルーや、そなた南東の一部の守衛をやってみんか?勿論給料は払うぞ。」

 そう、バシルーにはキサラム同様森の守衛に就かせるつもりでおるのじゃ。

 そうすればもう無闇に命を狙われることも無いじゃろうし、ワシとしてもバシルーを監視しやすい。

 これが今考えうる最善の手と言ってよいじゃろう。

 しかし・・・

「ええ~、労働はちょっとな~。」

 あからさまに嫌な顔と嫌な声を出すバシルー。

 こ、こやつは・・・

「わがまま言うでない。これはそなたを保護する為じゃ。ワシの森の守衛となればワシの加護を与えよう。そうすればこの森に生息する魔獣はそなたを攻撃しなくなる。この森の中で自由に過ごせるのじゃぞ。」

 破格の条件じゃ。

 ワシの加護を受けられるものなぞほんの僅かしかおらんのだからな。

 しかもこの森に侵入者なぞ殆どおらんし、手当ても貰える。

 例え侵入者が入ってきたとしても、人族の領土から入ってくる輩であればバシルーなら簡単にはあしらえるじゃろう。

 ハッキリ言ってここまでの条件で断るなぞ持っての他じゃ!

「う~ん・・・もう一声。」

 更にワシから何かを得ようとするバシルー。

 もうこれはガツンと言わねばならんかな。

 そう思い口を開こうとしたその時、何ならワシよりも激昂しておるキサラムがバシルーにガツンと言葉を叩きつけた。

「あなた!これ以上の要求はお母様に失礼ですよ!闇の神とはいえ許せません!」

 敵意の魔力を身体に纏わせ、キサラムはエンペラーオーガの様な形相でバシルーを睨む。

「おぉ・・・こわ~・・・」

 流石に怖じ気づくバシルー。

 確かにこれは怖いのう。

 しかしキサラムはワシの為に怒ってくれているのじゃ。

 ありがたいことじゃの。

 そしてキサラムのこの迫力に、バシルーは考えを改めざるを得ないようじゃ。

 肩を落とし、観念したような顔を見せる。

「わかったよ。安全が保証されてて、その上給料も貰えるんならこんなおいしい話ないからね。その話、受けるよ。」

 正直嫌々やられるのは困るのじゃが、今のバシルーの顔はやる気に満ちている。

 ということはつまり、最初から条件を飲むつもりでおったが、もう少し何か得られるかもしれないと思って吹っ掛けてきたというわけか。

 やれやれ。

 こやつもこやつで癖があるのう。

 じゃがまあ何はともあれ納得したようじゃし、良しとするか。

「うむ、よくぞ決断した。ならば国王とマルタスに報告しに行くとするかの。キサラム、キロイ。もう暫く留守を頼むぞ。アオイとミドリコは・・・そなた達も留守番でよいかな。」

 別にバシルーを森の守衛にするということを話に行くだけだしの。

 アオイ達まで連れていく必要はないじゃろう。

「ダメですぅ!私もついて行きますぅ!主様をぉグズ男の穢らわしい目線から守りますぅ!」

 余程マルタスが嫌いなアオイは、断固としてついてくる気でいる。

 いやいやいや・・・

 ついてきてどうするのじゃ?

 もしマルタスが不埒なことをしたら八つ裂きにでもするつもりか?

 今日はもうこれ以上、血生臭いことは勘弁してもらいたいものじゃ。

「ん?グズ男って誰?」

 聞きなれない言葉と新たに出てきた登場人物に疑問を持つバシルー。

 ああ、そうか。

 バシルーは知らんのじゃな。

 アオイが誰のことを言っているのかを。

 グズ男とはつまり・・・

「マルタスのことじゃ。」

「ええぇ・・・私の甥っ子をグズ男呼ばわり?一応あの子、王位継承権を持つ王子様なんだけど。」

 もう何とも言えない表情でアオイを見るバシルー。

 まあそうじゃな。

 あれでも一国の王子じゃからな。

 もう少し憧れられても良いとワシも思うぞ?

 それはそれとして。

 ワシはバシルーだけではなく、アオイとミドリコも仕方無く連れて、アサワハヤイ王国の王城へ転移した。

 そして事の成り行きを説明するため、王のところまで行く。

 都合良く王の間にはマルタスもいた為、ついでにバシルーのこれからのことを話してやった。

 王は黙ってワシの話を聞く。

 マルタスはワシとアオイとバシルーに熱い視線を送ってくる。

 そして全部話終わった後、納得した二人の王族は安心したように軽いため息をついた。

 うむ。

 王とマルタスにとってはバシルーの安全が確保されたことにより抱えていた悩みが解消され、ワシとしては新たに守衛を獲得できた。

 結果、双方にとって良い結果になったのじゃ。

 どれ、報告も済んだことじゃし帰ろうかの。

 と思ったその直後、悩みが解消された王とマルタスはワシの前にシュタッと膝まづき、あからさまに口説き文句であろう言葉を繰り出してきた。

 こやつら・・・

 誰の前でこんなことしてるのかわかっておるのか?

 王としては姉で、マルタスとしては叔母にあたるバシルーの前じゃぞ。

 そんな身内がドン引きした目で見ておるのに恥ずかしくないのか?

 いや、それよりも・・・

 アオイがまずいな・・・

 もう我慢の限界といったところか。

 これはなる早で帰らんといかん。

 ワシは王族の男二人にハッキリと脈なしの意思を伝えると、急いで空間移動を使った。

 ・・・が。

 少し遅かったようじゃ。

 空間を移動する直前に、アオイの出現させたホーリーランスが目に写ったのじゃ。

 ワシ達はもう自宅に帰ってきてしまったが、あのホーリーランスは王達に向かって放たれてしまったことじゃろう。

 全くアオイは相変わらずとんでもないことをする娘じゃのう。

 まあやってしまったことは仕方無い。

 これも天罰として受け入れてもらわんとな。

 しかしバシルーは気が気ではないようじゃ。

「ちょっとあんた!転移の直前にホーリーランス使ったでしょ!何であの子達を殺しちゃったのよ!」

 悲痛な声を上げるバシルー。

 これは何事かと、玄関前にいるワシ達に、キサラムとキロイが駆け寄ってきた。

 じゃがアオイは不敵な笑みを浮かべている。

「大丈夫ですよぉ。ちゃんと威力は調整しておきましたからぁ。今回はバシルーさんに免じてぇ命は勘弁してあげましたぁ。でもぉ、次主様を口説くようなことがあったらぁ・・・どうなるかわかりませんよぉ。」

 まるで脅迫の様なことを言うアオイ。

 これには流石のバシルーも、背筋にゾッとしたものを感じたらしい。

「こ、今度二人に会ったら、しっかり注意しておくわね。」

 弟と甥っ子をアオイという脅威から守るにはそれしかないじゃろうな。

 近くで聞いていたキサラムとキロイも顔を引き吊らせておるぞ?

 おそらく、アオイという女の狂気を再確認したのじゃろう。

 しかしの、これはワシの為にアオイがしてくれたことじゃ。

 ワシとしては少し嬉しいぞ?

 まあ多少やり過ぎだとは思うがな。

 このような少女に王族を襲わせてしまうこの魅力・・・

 ワシは何て罪な女じゃ。

 ・・・なんてな。

 何はともあれ、ここいらでやらればならんことがあるな。

 ワシは皆を再びリビングに集めた。

 こうやって揃うと、とんでもない顔ぶれじゃな。

 異世界人のアオイ。

 ダンジョンボスのミドリコ。

 妖精の女王キサラム。

 魂魄連動魔導兵器のキロイ。

 闇の神バシルー。

 ワシを含めなくてもこの面子なら国を滅ぼせるんじゃないか?

 まあ面倒事の種になる様なことさせんがな。

 ともあれ、今後の為にしっかりとこやつらの事を確認しておかねばならん。

 つまりやらねばならんことというのはは・・・

「どれ、皆それぞれステータスを見せてみよ。今現在どれだけのことが出来るのか確認するぞ。」

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