第19話 バシルーという女


「どれ、ここからは少し歩いて行くとするかの。」

 頭上に生い茂る緑のカーテンの隙間から覗く光を受けて、ワシはアオイ達を引き連れ森の出口まで歩いていく。

 このまま森を出れば、草原に着くはずじゃ。

 そしてそこから10分程でハヨウ村に辿り着く。

「主様ぁ、これってぇ何かぁ・・・デートみたいですねぇ🖤」

 アオイは突然訳のわからんことを言い出してきた。

 この状況で一体何を言っておるんじゃ。

 ワシ達は人助けに向かっておるんじゃぞ?

 しかも事は一刻を争うというのに・・・

「手ぇ・・・繋いでもいいですかぁ?」

 言いながら少しモジモジしているアオイ。

 おいおい。

 こやつは本当に何を考えているおるんじゃ。

 まあでも女同士じゃし、別に手を繋ぐくらいは構わんが。

「ほれ、これでよいのか?」

 ワシは歩きながらアオイの手を握った。

「はうぅぅ🖤主様ぁ、大好きですぅ🖤」

 少し卑猥な声を発するアオイに、頭を抱えるワシ。

 ハァ・・・

 やれやれ。

 普通に好いてくれるのはよいが、行きすぎはちとキツイのう。

 ともかく、そんなこんなで歩いていると、もう村の入り口にたどり着いてしまった。

 特に頑強な壁があるわけでもなく、弱々しい木の柵があるだけの村の出入口。

 辺境の村とはいえ、この程度の守備でよいのかのう。

 ワシが、例えばこの国の王なら、辺境の村や街にこそ強固な守りを設置するがのう。

 まあそんなことを考えても仕方無いか。

 取り敢えずここからは闇の気配を探るとするかの。

 といっても、もうこの村に着く少し前から場所は特定しておるのじゃがな。

 ということでバシルーの元に向かおうとワシ達は村に足を踏み入れた。

 と同時に・・・

「待て!あんたら何者だ!どこから来た!」

 門番らしき男二人に止められてしもうた。

 ほう、ちゃんとその辺はしっかりしておるのじゃな。

 しかし参ったな。

 もし素直に森から来たといってしまっては魔物扱いされ、面倒くさいことになるじゃろうし・・・

 仕方ない。

 ワシはこの場に適した魔法を使うことにした。


 『悪夢ナイトメア催眠ヒプノシス


 ・・・


 どれ、もうよいかの。

「ワシ達は旅のものじゃ。ここを通すがよい。」

 ワシは当たり前のようにそう命じた。

「・・・はい。わかりました。どうぞお入りください。」

 男達は道を開け、ワシ達を丁重に快く通す。

 うむうむ。

 やはりワシの『ナイトメアシリーズ』は最強じゃな。

 わざわざこの二人を亡き者にするという面倒くさいことをせずともよいしの。

「便利な魔法ですねぇ。」

 アオイはワシが使った魔法がどんなものなのか解ったらしい。

 うむ。

 しかしな・・・

 確かに便利な魔法ではあるが勿論制約もある。

 いくら強制力のある催眠じゃからといって、何でもさせてしまっては人道的に反するからじゃ。

 例えば命令で自傷行為をさせることは出来ん。

 当然じゃろ?

 それにそんなことまで出来るようにしてしまっては制約の力が脆弱になってしまうからの。

 制約が多ければ多いほど催眠状態は深くなり、命令の強制力が上がるのじゃ。

 従って実はこの魔法、命令できることがかなり限定されている。

 使い勝手が良いのか悪いのか。

 じゃがその反面、三大神とアオイ以外の者にはほぼ間違いなくかけることが出来る魔法なのじゃ。

 そうは言ってもそう軽々しく使うものでもないがな。

 まあそれはともかく、とっととバシルーの家を目指すかの。 

 少し村を歩くとアオイは何か気になったのか、突然足を止めた。

「主様ぁ、あれは何ですかぁ?」

「おお、あれはグレンガルーの串焼き屋じゃな。この世界では有名な肉料理じゃ。」

 アオイが来る前、よく世話になった食べ物じゃ。

 今食べても旨いと思うじゃろうが、やはりアオイの出す料理を求めてしまう今日この頃。

 また焼き鳥(タレ)が食べたくなってきたのう。

「あそこは何を売っているお店なんですかぁ?」

 少し歩いてまたワシに質問してくるアオイ。

 あれは・・・

「アミュレットを売っているところじゃな。まあ大した効力もない物ばかりじゃが。」

 実際にそうなのじゃ。

 見た目の華やかさや綺羅びやかさに比べ、付与されている効果は殆ど低レベルのものばかり。

 これなら自分で作った方がよい。

 じゃがアオイの考えは違うようじゃ。

「これぇ、かわいいですぅ。」

 どうやらアオイが求めているのは効果ではなく、見た目だけのようじゃ。

 ふむ、気に入ったっぽいのう。

「アオイや、欲しければ買ってやろうか?」

 何気に言った言葉じゃが、アオイは目を輝かせてワシを見てくる。

「ほんとですかぁ!欲しいですぅ!」

 大きい目を更に大きくさせてワシを見てくるアオイ。

 お、おぅ・・・

 そんなに欲しかったのかの。

 ワシは店主に金を払いアオイの欲しがったアミュレットを購入した。

 そして買って直ぐにアミュレットをアオイに渡す。

「ほれ、受けとるがよい。」

「ありがとうございますぅ🖤初デートでこんな可愛い物頂けるなんてぇ・・・私ぃ愛されてるんだぁって再確認出来ましたぁ🖤」

 アオイはアミュレットを胸に当て、うっとりとした顔をしている。

 ん~、まあワシにとってアオイは大事な女子おなごじゃし、否定しきれんところがあるのう。

 まあ何はともあれ、喜んでくれたなら良いか。

 その後もアオイは事ある毎に立ち止まり、ハヨウの村を存分に楽しんだ。

 アオイがこの世界に来て少し経つが、こういう場所に来たのはそういえば初めてじゃったな。

 はしゃぐ気持ちもわからんではないが。

 しかし・・・

 目的を忘れておらんか?


 ・・・


「フゥ・・・やっと着いたか。バシルーは家の中にはいるみたいじゃな。」

 気配を探ると、中では闇の気配があちこちに動いていることがわかる。

 さっさと用を済ませるため、ワシとアオイは早速玄関まで行こうと歩き出した。

 ワシ達は今家の裏側にいる為、正面玄関の行くにはぐるっと歩かねばならん。

 そしていざ玄関が見える所までやって来るとワシらが行く前に扉が開き、中から一人の少女が洗濯物を持って出てきた。

「あの子はバシルーさんの知り合いなんですかねぇ。」

 明らかに自分と歳が変わらなさそうな娘を見て、アオイは疑問を抱いているようじゃ。

 まぁ普通はそう思うか。

 ワシはアオイの疑問を解いてやることにした。

「奴がバシルーじゃ。濃い闇の気配はあの小娘から発せられておるからのう。」

「ええええぇー!だってぇあの子ぉ、グズ男よりも年下っぽいですよぉ。叔母さんじゃないんですかぁ?」

 ふむ、まあそうじゃな。

 ワシも何となくこんなことじゃないかなとは思っておったが・・・

 おそらくこやつは・・・

 闇の依り代というより、元々生まれたときから闇の神じゃったのじゃろう。

 そして自分が一番気に入った年齢で肉体の成長と劣化を止めたのじゃ。

 おそらくその時じゃろうな。

 肉体の方にスキルとして『闇の依り代』が発現してしまったのは。

 そしてそれは闇の神にとって予想外のことじゃった。

 スキルがばれ、王城内で爪弾きものになってしまったのじゃからの。

 最初こそ我慢したがいよいよ限界が来てしまい、男達の誘いに乗るふりをしてそいつらを皆殺しにしたのじゃろう。

 つまり怖いとか恐れるという感情は最初からなく、単に腹が立ってストレスを発散させただけというわけじゃ。

 まあそれが悪いわけではないがな。

 悪いのは男達の方で間違いないしの。

「な~に?あんた達は・・・って、あれっ?何で入ってこれてんの?」

 ワシ達に気付いたバシルーはワシ達が家の敷地内に入っていることに驚きを現していた。

「ああ、あの脆弱な結界のことか?あんなもん、無いようなもんじゃろ。」

「ぇぇ~・・・マジっすか・・・っつーか、うわぁ・・・均衡の森の魔女じゃん。災害が歩いてやって来たよ。」

 ワシのことを知っているバシルーはさぞガッカリしたようにそう言った。

 失礼じゃな。

 誰が歩く災害じゃ!

 ワシは天災であって災害じゃない。

 ん?

 同じようなものだって?

 全然違うわ!

「っで?何の用?私は忙しいの。この洗濯物干して、その後キノコ取りに行かなきゃならないからね。」

 ワシ達に一切興味がなさそうな顔をしているバシルー。

 ふむ、ワシがたまたま暇潰しに来たと思っておるのかのう。

 それはそれで何か腹が立つわい。

 折角助けに来てやったというのに・・・

「ワシ達が来たのはそなたを保護する為じゃ。じゃからとっとと家に戻って支度をしてくるがよい。」

 何か色々と面倒になったワシは、必要最低限のことだけ伝えた。

 遠回しに言っても仕方無いからの。

「えっ、何々?もう決定事項?私の考えとか気持ちとか・・・」

「知らん!早くせよ!」

「ぇぇぇ・・・こっわ・・・」

 怯えるというよりも、ドン引きしてしまったバシルー。

 こやつの態度がワシにそう言わせたのじゃ。 

「そなたは今現在、命を狙われておるのじゃ。」

「えっ、あんたに?」

「ちゃうわ!保護すると言っておるじゃろ!そなたの命を狙っておるのはこの国の教皇じゃ!」

「ぁぁ~・・・うん、それはわかってるよ。私に敵意のある集団が近付いてきてるのは。でも・・・あんな連中が私をどうこうできるとは思えないけどね。」

 これまた特に興味無さそうに言うバシルー。

 思っておることはわかるがの。

「まあそうじゃろうな。じゃがな、奴等を皆殺しにして困るのは国王とマルタスじゃぞ。それでもよいのか?」

 そう、教皇達を殺して一番被害を受けるのはこの国のトップ達なのじゃ。

 なのでそう簡単に力付くでは解決せんのじゃよ。

「う~ん・・・そうだねぇ。それは問題だねぇ。でもな~・・・」

 バシルーは腕を組んで何やら考え始めた。

 何か思うところがあるらしい。

「何じゃ。何かここを動けない理由でもあるのか?」

「何か逃げるのってカッコ悪くない?」

 何じゃその理由は!

 カッコいい悪いの問題じゃなかろう。

 まあ気持ちは分からなくないがな。

 こちらに非がない上に、自分より遥かに弱い奴等から逃げなければならんのだからの。

 しかしこれが一番面倒臭くない手段なのじゃ。

 四の五の言わせんぞ。

「もうよい!こうなったら力付くでも来てもらうぞ!」

 ワシはほんの少し魔力を表に解放する。

 普通ならこれだけの魔力を見てしまっては恐怖におののくことじゃろう

 しかしバシルーは怖じ気づくどころか待ってましたと言わんばかりに嬉々とした笑みを見せる。

「やっと本性を現したわね!出来るものならやってみなさい!そこのお嬢さん!」

 ビシッとアオイに向かって指を指すバシルー。

 ん?

 どういうことじゃ?

 勿論一番驚いたのはアオイじゃろう。

「えぇ!私ですかぁ!」

「そうよ。あなたが私に勝てたら一緒に行ってあげるわ!」

 バシルーは胸を張って高らかにそう言い切った。

 いやいやいやいや・・・ 

「待て待て待て。さっきまでの話の流れなら勝負するのはワシじゃないのか?」

「あんたなんかに勝てるわけないでしょ!私だって命は惜しいのよ!」

 何か逆ギレされてしまった可哀想なワシ。

 まあ己の力量がわかっていることは喜ばしいことじゃが。

 仕方無い・・・

「まあよい。では戦うがいい。その代わり、アオイが勝ったら大人しく付いてきてもらうぞ。」

 ワシはライガルに続き、勝敗のわかりきった闘いを了承する。

 ・・・まぁすぐに終わるじゃろ。

「いいわよ。じゃあ始めましょうか。」

 バシルーは早速闇魔法、しかもその最上位の魔法を使おうとする。

 ほう、これは・・・

 闇の魔力を広範囲から集め圧縮し、高圧力で打ち出す魔法『ダークロスレーザー』か。

 これは術者の魔力量で威力が変わる。

 つまり闇の神が使えば・・・どういうことかわかるの?

「ハァッハッハッハッーー!喰らいなさい!ダークロスレーザー!」

 放たれた魔法の一閃。

 当然素早さの低いアオイはまともに正面から受けてしまった。

 立ち上がる魔力の柱と砂埃。

 全く派手じゃのう。

 バシルーが魔法を放つ直前に、この家の敷地周りに結界を張っておいた為村に影響はない。

「ハハハー!どうだ見たか!私の力を!」

 砂埃でアオイの安否はわからんが・・・いや、わかりきっておるか・・・バシルーは確実に自分が勝ったと思っているらしい。

 何てったって闇の神、渾身の一撃じゃ。

 そう早とちりもするわな。

 砂埃が薄くなってきたの。

 そして見える人影。

 勿論それは・・・

「わぁぁ。凄いですねぇ。ミドリコのぉ、ブレスみたいな感じですかぁ。」

 アオイが全くの無傷で立っていた。

 しかも魔法の派手さに感動したのか、目をキラキラさせておるぞ。

「ぇぇぇ・・・何これ?」

 もう驚くというより気味悪そうにアオイを見るバシルー。

 しかしこれでもうアオイに攻撃が通じないのはわかったじゃろう。

 後は・・・

「アオイや、あの物置にその剣で攻撃せい。」

「はいぃ!」

 少し離れた物置小屋に、アオイは細剣による風刃を飛ばした。

 一瞬で大破する物置小屋。

 それを見てバシルーは戦慄する。

「そ、それって・・・カーリアズ・レイピアじゃない。そんなのどうやって手入れ・・・って元の持ち主が一緒にいるじゃない!」

 バシルーは細剣の正体を知っている為、あっという間に戦意を消失した。

「ムリムリムリムリ!そんなの持ってる相手に勝てるわけないって!」

 あっさり敗北宣言をするバシルー。

 ふむ、懸命じゃな。

 まあこれで大人しく付いてくるじゃろ。

「よし。勝負はついたの。それじゃ・・・」

「待って待って待って。このままじゃ終われないわ。そのドラゴンとも勝負させなさいよ!」

 今度はミドリコをターゲットにしたバシルー。

 勿論ミドリコもアオイの時同様、驚きを隠せないでおるわ。

 しかしわかっておるのか。

 もう時間が無いのじゃぞ?

「駄目じゃ。約束は約束じゃからの。とっとと支度を・・・」

「ヤダヤダヤダヤダー!私は強いんだもん!これじゃ全然カッコ良くないじゃない!負けっぱなしなんてヤダーー!!」

 地面に寝転びバタバタと手足を動かして駄々を捏ねるバシルー。

 60歳越えの、いや、闇の神のこんな姿見とうなかったわ。

 全く・・・

 このままでは埒があかんの。

「わかったわかった。じゃあ闘わせてやるがの。もうあまり時間もないし、一発勝負としよう。お互いに自身の持つ最強の攻撃を放って、その威力の高い方が勝者ということでどうじゃ。」

「わかったわ。じゃあそうしましょう。私は闇の神。シャドウドラゴンに遅れをとることなんてあり得ないからね。」

 そう言うとバシルーは先程と同じ魔法、ダークロスレーザーをミドリコに向けて放った。

 それと同時にミドリコもダークブレスを放つ。

 ぶつかり合う2つの魔力。

 そして・・・


 バシュン!


 どちらの魔法も二人の中間地点で消滅した。

「ふむ、引き分けじゃな。」

「うそ・・・でしょ・・・」

 間違いなく自分が勝つと思っていたバシルーは顔を引き釣らせておる。

 闇の神じゃしのう。

 プライドもあるじゃろうが、しかし負けたわけではないんじゃ。

 そんなに肩を落とさんでもよいじゃろ。

「まあそうガッカリするな。そなたは十分に強い。今回は威力勝負じゃったが、普通の戦闘となればおそらくそなたが勝っていたじゃろう。それにその体にもっと馴染むことが出来れば、今よりもっと強くなれるぞ。その為にもワシのところに来て訓練を積むのじゃ。」

 何もワシはバシルーが嫌いなわけではない。

 寧ろ気に入っている方じゃ。

 負けず嫌いで我が儘。

 しかし家族を思いやる優しい心を持っている。

 闇の神として前に会ったときよりも大分性格的にも砕けておるしの。

 付き合いやすくなったわい。

「ふ、ふん。じゃあそうしてあげるわ。あ、ありがたく思いなさいよ。」

 バシルーは腕を組んでプイッとそっぽを向いた。

 それを見たアオイは手を口に当て、クスッと笑う。

「ツンデレってやつですねぇ。」

「ち、違うわよ!デレてないでしょ!」

 顔を真っ赤にするバシルー。

 やれやれ、やっとまとまったかの。

 ワシについてくるつもりになったバシルーは身支度をするため早速家の中に入っていった。

 どれ、少し待ってやるかの。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 ・・・ながいの!

 とっとと済まさんか!

 もうそこまで敵が来ておるぞ。

 まだ出てくるようすもないし・・・

 このままでは間に合わんな。

 ほれ、そうこうしているうちにもうそこに来てしもうたわ。

 ぐるっと家の敷地を取り囲む聖騎士達。

 どうやら逃げ場を無くそうとしておるようじゃが・・・

 ワシの結界の中に入った時点でこやつらの方こそ退路が絶たれたのじゃ。

 わかっておらんのかの、この鼠どもは。

 そんな自分の置かれた立場など露知らん教皇とおぼしき輩が、ワシ達に向かって口上を垂れる。

「我はこの国の教皇。光の神に愛されし者だ。闇の神とその仲間達よ。貴様等は害悪である。聖なる力で滅されるがよい!」

 正しく自分が正義であると言わんばかりの態度を示す教皇。

 これにはワシだけでなく、アオイもミドリコも面白くない顔をしている。

 こんな勘違いのゴミにはビシッと言ってやらねばならんな。

「人族達よ!よく聞け!バシルーは均衡の森の魔女であるワシが預かることにした!ワシの庇護下になったこやつに、もし害を与えるというのであればワシが直々に相手してやる!覚悟せい!」

 ワシは拡声魔法で教皇並びに聖騎士全員に聞こえるように言った。

「お前があの森の魔女か。悪しき存在の権化め。丁度いい!お前もまとめて成敗してやる!皆のものかかれ!」

 各々が一斉に剣を抜き、構えをとる。

 フゥ、やれやれ。

 相手の力量が測れん輩達は全く持って救えんな。

 ワシは異空間収納からただ硬いだけの鉄の棒を取り出した。

 こんな奴等、魔法を使うまでもない。

 飛び掛かってくる3人の聖騎士。

 ワシは軽く鉄の棒を振ってそやつらの武器と防具を粉々に砕いてやった。

 フゥ、力加減が難しいのう。

 ウッカリ防具だけでなく骨も所々砕いてしまったわい。

 まあ殺さず制圧するのが今回の目的じゃからの。

 瀕死の重症はギリギリセーフじゃろう。

 どんどん攻めてくる聖騎士の群れ。

 いくら来ても無駄なのじゃがのう。

 こんな奴等、ウォーミングアップにもならんわ。

 そう言えばさっき、『我こそは聖騎士最強・・・』とかほざいておる奴がおったが、ワシからしたらここにおる奴等などどれも変わらんぞ?

「こんなことが・・・この・・・悪魔め。」

 教皇は悔しそうに言葉を絞り出した。

 悪魔とは・・・言ってくれるのう。

 ワシは聖騎士達を叩き飛ばすついでに教皇の腕を殴打してやった。

「グヒャン!!」

 気持ち悪い叫び声を上げて地面に尻を付く教皇。

 余程痛いのじゃろう。

 口を大きく開け、白目を向いておるわ。

 じゃがまだ終わらんぞ?

 今度はもう片方の腕にも鉄の棒を当ててバキバキに折ってやった。

「ッッッデェーー!!」

 教皇は最早叫び声かもわからんような声を上げる。

 ふん、痛がる余裕は与えてやっておるのじゃ。

 感謝してもらいたいの。

 ワシはのたうち回る教皇を尻目に、残りの聖騎士達を死なん程度に叩き潰してやった。

「ようもワシに喧嘩を売ってくれたの。こうなっては貴様らの命だけでは足らん。国そのものを・・・いや、人族全てを滅ぼそうかの。」

 ここでワシは魔力を3%解放する。

 最早座っていることすら叶わんようになった教皇と聖騎士達。

 そこにタイミング悪く支度を終えて外に出てきてバシルーが尻餅をついた。

 おっと、ビックリさせてしもうたかの。

「ななな何よ。騒がしいと思ったら・・・これじゃ私がこいつらやっつけても同じだったじゃない。」

 まあ・・・そうかもしれんが・・・そうではない。

 もしバシルーがこやつらと闘ったら死人が出ていたじゃろう。

 しかしこの今の現状はどうじゃ?

 ワシがしっかり手加減したお陰で死人が出ていないのだぞ?

 まあ再起不能者が過半数を越えておるのはたまに傷じゃがな。

「うぁぁぁ・・・やめてくれ・・・やめてください・・・もうしませんから・・・」

 教皇は目の前の圧倒的強者、つまりワシを見て必死に命乞いをしてきた。

 最早傷の痛みを感じておる場合では無いのじゃろうな。

 まあ元から命を奪うつもりは無いし、これで許してやってもよいが・・・

 傷が癒えたらまた馬鹿なことをしでかすかもしれん。

 しっかり釘を刺しておかんとな。

「信用出来んの。おお、そうじゃ、こうしよう。そなた達が信じてやまない光の神にそなた達の国を滅ぼさせようかの。」

 そう言ってワシは光の神を呼び出す魔方陣を空中に描いた。

 間もなくして魔方陣から現れる光の神。

 そして直ぐ様ワシの前に片膝をつき頭を下げた。

「クロアさん、お呼びですか?」

「うむ。こやつらは光の神であるそなたのことを崇拝しておるようなのじゃが・・・ワシに喧嘩を売ってきおった。どう思う?」

 ワシは教皇達を一瞥し、光の神にそう問うた。

「愚かな・・・貴女を敵に回して得なことなど何もないでしょう。何せ貴女はあの最上位神達の・・・」

「それ以上はもうよい。それよりも、こやつらはそなたの信者じゃ・・・わかっておるな。」

 ワシは光の神に話ながら横目で教皇と聖騎士達を見る。

 ふん、信仰する神にも見放され、ぐうの音も出ないようじゃな。

 当然の報いじゃ。

 言わんとしたことがわかった光の神はワシに再び頭を下げた。

「はい。後のことはお任せ下さい。それと・・・闇の神、久しぶりですね。元気そうで何より。」

「あんたもね。私がこっちに来てからは会いに来てくれないし、ちょっと心配してたんだぞ?」

「フフッ、いつもコッソリ貴女を見てましたよ。王城にいる頃は心配でしたが、ここに来てからの貴女は幸せそうでしたね。」

「まあね。元々私はこういう生活がしたくてこっちに来たわけだし。楽しいよ。」

「これからはクロアさんの庇護の下、更に幸せに暮らしてください。もう、こんな輩達に貴女の生活を踏みにじられないようにしっかり教育しておきますので。」

「ありがとう。また会おうな。」

「はい!・・・クロアさん、闇の神を宜しくお願い致します。」

 光の神はワシに深く頭を下げる。

 やはりこやつは礼儀正しくて好感が持てるのう。

 こやつの頼みならしっかり受けてやらんとな。

「うむ、任せておけ。ワシに一つ考えがあるからの。」

 ワシは事後処理を光の神に任せると、空間移動を使ってその場を離れ自宅へと戻った。

 勿論アオイもミドリコもバシルーも一緒じゃ。

 教皇達はこれから光の神の調教と洗脳を受けるじゃろうな。

 ・・・

 いい気味じゃ。


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