第19話

「言われた通り、女を捕まえたぞ」猛の声がする。どうやら一郎は少し眠ったしまったようであった。


「よくやった。本当の事をいうと期待はしていなかったんだがな」声の主を探すとそこには、マントを羽織った素性のしれない男の姿があった。


「アンタらの目的はこの女なんだろう。コイツらを連れてとっとと地球から出ていってくれ!」猛は吐き捨てるように言い放った。


「うん?たしかに、この女を捕まえろとは

言ったが、地球から去るなど、そんな約束はした覚えはないな……」男は少し首を傾げたかと思うとゆっくりレオの側に近づいていき、しゃがみこむ。


「なんだと?お前達はこの女とあのロボットが狙いじゃないのか!?」猛は男のマントの肩の辺りを掴む。それをマントの男は振り払った。その勢いでマントが男の体から剥がれる。


「う、うわ!?」猛はその男の姿を見て驚愕する。それは、見たこともない等身大の昆虫のような姿であった。それはセクター人の姿であったが、一般の人々は彼らの姿を知らなかったのだ。


「なんだ?気持ち悪いか」セクター人が振り返り猛に詰め寄る。


「猛さん!どうかしましたか。あっ!?」中野と数人の男達が騒ぎを聞き付けて部屋へ飛び込んで来たが、セクターの姿を見て銃を構えた。


 セクターは中野達に向かって口から白い液体を吹き抜けた。


「うわー!」体にまとわりついた液体は空気に触れた瞬間に固定化したようで、中野達は身動き出来なくなってしまった。


「中野!?」一郎は思わず声をあげる。


「ああ、君は始末しておいたほうが良さそうだね」セクターが一郎に気がついて転がっていた銃を拾い上げて彼に向けた。


突然、レオが体をバネのようにしならせて起き上がる。彼女は縛られた両手の縄を引きちぎると両手を地についてから、両足でセクターの体を勢いよく蹴った。そして、着地した瞬間に両足の拘束を両手で解放し、猿ぐつわを外した。


「大丈夫ですか?一郎!」レオはセクター人から一郎を守るように両手を広げる。


「レオ!君こそ大丈夫なのか!?」狙撃によって致命傷を受けたと思われていた彼女が動き出した事に一郎は正直驚いた。


「私は一郎とシンクロしてる限りは無敵なんですよ」レオはニコリと微笑むと、後ろ向きに回転してからセクター人めがけて後ろ蹴りをおみまいした。セクター人はまともに腹部にレオの蹴りを受けて悶絶する。


「思っていた以上に……タフだな……」そう言い残すと、セクター人は部屋を飛び出して逃げていった。


「一郎!」レオはセクター人が姿を消した事を確認してから、一郎の体を拘束から解放した。


「ありがとう……レオ」そう言ってから一郎はゆっくりと中野の側に近く。彼は事切れようとしていた。


「い、一郎……、俺は、おばさん達を殺すつもりは……無かったんだ……。ただ、弟の事が……悔しくて……」中野は一郎の腕の中で涙を流す。


「ああ、解ってるよ……。俺こそ、すまなかった……。お前の弟を守れなくて……」一郎も瞳に涙が滲んでいる。


「解ってるよ、本当は解っていたんだ……、でも、お前を……、信じきれなかった……、俺は……、友達失格だ……な……」中野の体から力が抜ける。


「中野、中野!!」一郎は絶叫するが、中野が二度と答える事は無かった。


「一郎……」さすがにレオも、一郎の様子に声を掛けづらい様子であった。

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