第18話

「どうして!中野……?」一郎は頭が混乱していた。数少ない友人で、彼にとっては親友と思っていた中野が目の前にいる。その目は今まで自分に向けられた事の無い、敵意を剥き出しにしたものであった。


「そうか、お前達、友達だったんだよな。まあ、可愛さ余って憎さ100倍ってやつか」猛は中野の肩に手を乗せると小馬鹿にするように笑った。中野は相変わらず、真っ直ぐ一郎の顔を睨み付けたままであった。


「中野!答えてくれ!どうして、お前がこんな事を!?」一郎は激しい口調で聞く。


「お前……、変わったな。俺が知っている一郎は、そんな荒んだ性格じゃなかった……」一瞬、中野の表情が悲しそうに見えた。


「そ、そんな事……、今はどうでもいい!レオは大丈夫なのか!?」彼らの背後に転がるレオの心配をする。彼女は自分を庇って光線銃の光線をまともに喰らった。普通の人間なら生きていないかもしれない。


「ああ、大丈夫だ。気絶しているだけだ……」中野は自分用の椅子を引っ張ってくるとそれに腰を下ろした。


「良かった……、でも、どうして中野がこんな奴らと?」言いながら猛の顔を見る。


「こんな奴らとは、結構な言い種だな。俺達はガイダーズだ。あのロボットと宇宙人を地球から追い出すのが俺達の願いだ」猛は中野と同じように椅子を持ってくると、後ろ向けにして股がるようにして座った。


「ロボットって……、エクスの事か?エクスはセクターから皆を守る為に……」


バキッ!


猛は、一郎の顔面を拳で殴りつけた。


「俺達を守るだって?何言ってやがる!てめえらのせいで何人死んだと思ってるんだ!」言葉を吐きながら一郎の顔を繰り返し殴った。椅子に座ったままであったので実際は、それほどダメージは無かった。


「あれは……、確かに亡くなった人はいたかもしれない。でも、戦わなければもっと酷い事に……なって……」一郎は口ごもる。


「お前さ、家族や恋人無くした人達に同じこと言えるのか?」今度は胸ぐらを掴む。両手両足の自由を奪われている一郎は抵抗する事が出来なかった。


「そ、それは……」返す言葉が見当たらなかった。


「お前も、自分の母親が死んだら少しくらい俺達の気持ちも解ったんじゃねえか?」猛はほくそ笑みながら言った。


「なんだと……!?」思いもよらない言葉に一郎ら目を見開いた。


「家、焼けてたろ?」猛は嬉しそうに微笑む。


「まさか……、お前が母さん達を!」一郎は心臓が破裂しそうな衝動に襲われる。縛られた両腕が痙攣するように震える。


「おお、怖!その縄は切れねえよ。登山用のロープを何重にも編み込んでるから見た目より丈夫なんだぜ」得意気に猛は語る。


「中野!どうしてこんな奴らと一緒に行動してるんだ!?この縄をほどいてくれ!!」一郎は中野に懇願する。


「何にも知らないんだな。お前達の戦いのせいで、こいつの弟も死んだんだよ。俺の両親と妹もな……!」猛は椅子から立ち上がると、もう一発一郎の顔面を殴り付けた。一郎はその反動で固定されたまま、椅子と一緒に床に転がった。


「ちぃ……」抵抗出来ない一郎は、歯ぎしりをしながら猛を下から睨み付けた。


「あっ、それから、お前の家に火を点けたのは、こいつだぜ」猛は言いながら中野を指差した。指差された彼は微動だなかった。


「な、なんだって……、母さん達を、中野が……?嘘だ!そんなの嘘だ!!」一郎は激しく否定しながら首を振る。


「本当だ。俺が……やった」中野が静かな口調で認めた。その言葉を聞いた瞬間、一郎は魂を吸いとられた脱け殻のように呆然としてしまった。


「まあ、そういう事だ。残念だったな」猛は高笑いしながら部屋を出ていった。そして、その後を中野はゆっくりと追随していった。


「そんな……」一郎はぐったりとして動かなくなった。


その両目から涙が少し流れ落ちた。

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