第17話

「くー、いい女だな!こんな上玉なかなかいないぜ!!俺、やっちゃってもいいっすか?」男はズボンのベルトをガチャガチャ弄っている。今にも下半身を露出させて飛びかかりそうな勢いであった。


「別に構わないけど、そいつ普通の女かどうかも解ったもんじゃねえぞ。もしかしたら、お前の如意棒、食いちぎられるかも知れないぜ」猛はニヤリと笑った。


「そ、そんな……」男は猛の言葉に意気消沈して下を向いた。


彼らの目の前には、口に猿轡、後ろ手と両足を縄で縛られたレオが転がされていた。彼女は気を失っているようであった。長い銀髪が顔を覆っている。その側には椅子に体を固定された一郎がいた。彼もぐったりと頭を項垂れており、気絶している様子である。


「そろそろ、起きろよ!」猛はバケツの水を一郎の顔目掛けて叩きつけるように勢いよくぶちまけた。


「う、ううう……」一郎は、苦痛に顔を歪めながらゆっくり目を開ける。狙撃されたショックが体に残っていて、全身に痛みが駆け抜ける。


「どうだ、よく寝たかい?」猛は、一郎の髪を鷲掴みすると無理やり彼の顔を上に向けた。


「なんなんだ……、あんた達は?」一郎は状況が飲み込めないようであった。


「お前とその女に聞きたい事があるんだよ」猛はレオを指差した。


「レオ!彼女は大丈夫なのか!?」一郎は目の前に無造作に転がるレオの姿に驚く。いまだかつてこんなに無防備な姿を晒した彼女の姿を見た事は無かった。


「この女は死んじゃあいないぜ。いいか、お前らのせいで俺らの家族や知り合いが、たくさん死んだんだ。なぜだ!なぜ死なないといけなかったんだ!?」猛は一郎の髪を引きちぎるのではないかという勢いであった。


「猛さん、冷静になってください」別の男が猛を静かな口調でなだめるように諭した。


「ああ、解ってる」猛は一郎の髪から手を離した。


「お、お前はどうして……!?」一郎はその男の顔を知っていた。



セクターとの戦いを終えて、エクスは町の上空に移動した。エクスの体から発せられた光に乗って一郎とレオの二人は地上に降り立った。


「一郎、大丈夫ですか?」少し長めの戦闘によって、一郎は少し疲れた様子であった。レオは心配そうに彼の頬に手を触れる。


「あっ、ありがとう。俺は大丈夫だよ。レオも被害を出来るだけ出さないように、頑張ってくれてるし、俺も頑張らないと……」一郎は少し無理をして微笑む。


「はい、一郎との約束ですから」レオも微笑んだ。最近は、彼女も一郎の気持ちを汲んでくれたのか、彼が言わなくてもレオは被害を出さないように攻撃方法と場所を選んでセクターと戦ってくれてるようであり、その気持ちが彼には嬉しかった。


「さあ、帰ろう」一郎がレオに声をかける。二人の生活している施設はすぐ目の前であった。


政府の中でも、相変わらず一郎達を日本に滞在させ続ける事に反対する意見は多々あるのだが、二人を日本から追い出した事によってセクター達の攻撃が無くなるとの確証も持てないというのが本音であった。敵の目的が把握出来ない事が歯がゆいといったところであろう。


「一郎!危ない!!」唐突にレオの声が響き渡る。


「えっ!?」一郎は何が起きたのか解らなくて動転する。その彼の体を庇うようにレオが覆い被さった。


「ギャー!!」聞いたことの無いレオの悲鳴が響き渡る。遠くから何かで狙撃された様子であった。それは弾丸では無く、光線のようなもので、彼女の体は感電したように震えながら一郎の目の前に転がっていた。


「レ、レオ!!」一郎は、彼女の体を揺さぶるが返答は無かった。


「ふう、呆れるぜ、この銃でも死なねえんだな」建物の影から猛が現れた。その手には先日、見知らぬ男から渡された銃があった。


「お前がレオを!」一郎は、勢いよく飛び出すと猛に殴りかかろうとする。しかし、その前に別の男が飛び出して制止する。


「お、お前は……!?」その男の顔を見て、一郎は目を見開いた。


「久しぶりだな……、天野」彼は一郎の名を呼んだ。


「中野!?どうしてお前が!」一郎が怯んだ瞬間、先程の銃で彼の体も撃ち抜かれた。激しい衝撃で気を失ってしまった様子であった。


「ちっ、こいつも人間じゃねえな!」猛は吐き捨てるように良いながら、一郎の体を軽く蹴飛ばした。


「一郎……いや、こいつら……、どうするつもりですか?」中野は猛に問いかける。


「そうだな。とりあえず縄で縛って俺達のアジトに運ぶんだ。こいつらを交渉材料にして宇宙人を地球から追い出せたら万々歳なんだけどな」猛は銃を天秤棒のように肩にかけた。


中野は他のメンバーを呼び、二人の体をバイクに縛り付けると、ガイダーズの隠れ家に運んでいった。



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