第16話

「ここは一体?」突然襲来してきたセクターの宇宙船によって南達はこの場所に連れられてきた。暗く広いスペース。

あちらこちらから悲鳴や泣き声が聞こえる。どうやら、連れてこられたのは女性ばかりのようであった。



南は両親と一緒に町を離れて母の故郷に疎開をする為に、父が運転する車に乗り渋滞する道路を移動していた。なかなか前に進まない事に父はイラついていた。母は助手席に、南は後部座席に一人で座っていた。


「一郎くん……」南は遠くの景色を眺めながら自然とその名前を口にしていた。


「しかし、あの天野って奴らのせいで、こんな馬鹿げた騒動になって、本当に迷惑な話だ」父は車のハンドルを人差し指で何度も叩きながら吐き捨てた。


「一郎くんが、悪いんじゃないわ。一郎くんは私達を守ろうとして……」南はそう言いながらも完全な確信は持っていなかった。


「でも皆、あのロボットのせいで、宇宙人が攻めて来たんだって言っていたわよ」母は後部座席に座る自分の娘を振り返り確認した。その顔は疲れきったような表情であった。


「そんな事、嘘よ……」その噂は南も聞いていた。状況的に考えれば誰でもそう思うのが普通である。それでも南は一郎を信じたい気持ちが残っていた。


「お前、たしかその天野って奴と、同じ学校だったな」父は車が前に進まない事にイラつきながら大きなため息をついた。


「だから……、なによ」南は窓枠に肘をつき、車の外を見る。となりの車を運転する男性も父と同じようにイライラしているようで、無声映画のように怒鳴り散らしているようだが、その声は全く聞こえない。


「まさか、何か関係があったりするんじゃないだろうな!そんな奴と関わるのはやめておけよ」父はまるで結婚でも反対するような勢いであった。


「……」南は答えるでも無く深いため息を吐いた。再び、外を見ると、他の車に乗る人達が空を見ながら怯えた顔をしているように見えた。


「ちょっと、お父さん!あれ!!」母が恐怖で目を見開きながら、父の肩を激しく叩いた。


「あっ、あれは!?」その視線の先には、セクターの物と思われる宇宙船が浮かんでいる。


「早く逃げて!」母が叫ぶが、車が渋滞していて動きようが無かった。外は観念した人々が車を捨てて走って逃げている。


「くう!俺達も走って逃げよう!!」父はシートベルトを外すと車外に飛び出して、妻と娘に早く逃げるように即した。二人も父に追従すべく車を飛び出した。


「きゃー!」辺りから女性の悲鳴が響き渡る。

振り返ると宇宙船から発射された光によって、人が吸い込まれるように、飛んでいく。


「はっ早く逃げるんだ!!」父が二人に激しい口調で指示する。


「お父さん!!」南は父の後を必死に追いかける。


「み、南!?」母の悲痛な声が響き渡る。南の体に向けて先程の光が照射されたかと思うと、空高く飛んでいった。


「南!」父も娘の名前を絶叫する。しかし、それに何も答える事もなく彼女は、宇宙船の中に吸い込まれていった。


そして、数十の人々を確保すると、宇宙船は何も無かったかのように、姿を消してしまった。


残された家族達は、茫然と空を見つめるしか出来なかった。


連れ去れた南は気を失ってしまい、自分が連れ去られた事さえ解らなかった。



「皆様、お静まりください」突然、南達の耳に優しい女性の声がする。次第に部屋の明かりが点灯して中の様子が確認出来るようになってきた。声の主は、笑顔の素敵な女優のような人物像であった。恐ろしい宇宙人が姿を表すと予測していた南達は少しの安堵を感じた。


「私達は、セクター。皆さんの敵ではありません。私達にご協力頂ければ、すぐにでもご家族の元にお返しいたします」自分をセクターと名乗る女は優しい声で語りかけてくる。帰してもらえるという言葉で一部の女性達から喜びの声が聞こえる。


南にはその言葉を信用する事が出来なかった。


「皆様には、私達が地球人を知る為の、お手伝いをして頂きたいと思います。後程、ご案内致しますので、順番にとなりの部屋へ移動ください。ご安心ください。あなた達に危害を加えるつもりはございません」女は頭を傾げながら微笑む。


その微笑みが南にはマネキン人形のような、作り物のように見えて背中に悪寒が走るような気がしたのだった。






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