第12話

「ここは何なのですか?」二人は夜の動物園にいた。レオに地球の生き物達を見せたかったのだ。もちろん、閉園時間は既に過ぎており誰もいない。


「ここは動物園っていうんだ。俺が子供の頃によく両親に連れてきてもらった場所だ。この時間は飼育員さんに見つかると厄介だから、静かにね」一郎は人差し指を自分の唇に当てた。


二人は、ゆっくりと歩きながら様々な動物を見ていく。


猿、鳥、ペンギン、さすがに眠っている動物が多いようで、空の檻が多い。昼間に見学出来るように、夜行性の動物は屋内にいる事が普通だから仕方がない。


「あれは、なんですか?」レオがある動物に興味を示す。それは、高い檻に囲まれてはいるが、小さな草原に見立てた広場に横になって眠る雄のライオンの姿であった。


「あれはライオンって言うんだ。百獣の王、動物の中で一番強いんだ」ありきたりの説明をする。


「百獣の王ですか……」レオはポツリと呟くと、軽くしゃがんでから宙を舞ったかと思うとライオンのいる檻の中に飛び込んだ。


「おっ、おい!?」彼女の唐突な行動に驚いて大きな声をあげてしまう。


レオはライオンの側に近くとその目の前に片膝をつくと観察するようにマジマジと見る。


ライオンの尻尾がパタッと地面を叩いたかと思うと、やんわりとその頭を上げてレオの顔をじっと見た。


レオも微動だにせず、ライオンを見ている。


「ちょっと、逃げろ!」一郎は予想もしない展開に気が動転している。さすがのレオもライオンには勝てないであろう。


しかし、一郎の心配をよそにライオンはゴロリと転がるとその腹を上に向けて、まるで大きな猫のような姿になった。それは、絶対服従の意識表情。


レオはライオンの側によるとその腹を優しく擦った。「ゴロゴロ」ライオンも猫のように、喉を鳴らしているようである。一郎は、ライオンのこのような姿を見たのは初めてであった。


「百獣の王も……、形無しか……」呆れるように苦笑いする。



「いくら君が強いからって……、動物に不用意に近づいたら危険だよ」あまり、説得力の無い言葉だなと一郎は思った。この地球上で彼女を傷付ける事が出来るものは無いのかもしれない。


「ライオンって可愛いですね。連れて帰りたいくらいです」コクリと頭を傾けて笑う。


「駄目!駄目!駄目!それは駄目!」一郎はあわてて止めに入る。


「冗談です」女の子らしく両手をあわせて爆笑する。


「冗談なのか……」彼の額を汗が流れた。


「ここは、地球の生物を保存する保護施設なのですね」彼女はわ後ろに手を組んで、一郎の前を逆向きに歩いている。


「まあ、そう言えばそうとも言えるかもしれないけど……、たしかに日本ではライオンなんて生息していないからな。動物園でなければ見れない動物がたくさんいるんだよ」


「そういえば、人間の保護区域はないのですか?」興味深そうな顔をして質問してくる。


「何を言っているんだ。人間なんて保護しなくてもそこら中にいるじゃないか」彼女の質問に一郎は思わず吹き出してしまう。


「それじゃあ、数が減ったら人間の動物園を作らないと駄目ですね」彼女は適当に言ったつもりのようであったが、一郎はレオの言葉になぜか少し戦慄を覚えた。


「ちょっと誰かいるのか!?」唐突に職員らしき男性の声が聞こえた。遠くから懐中電灯の光が、近づいてくる。


「まずい!レオ、逃げよう!!」一郎がそう言うと、彼女は軽く頷いたかと思うと一郎の腕を掴んで空に飛び上がった。


「あれ?気のせいか……」職員は、少し疲れ気味の両目を擦った。

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