第11話
「どうして、あの二人をホテルに収容するのですか?素性も解らない怪しい奴らなのに……」今晩の警備担当の新人が納得いかない様子である。
「いいか、あの女は要警戒だ。信じられないが空も飛べるらしい。それになにかとんでもない力を持っているそうだ。収容所での監禁って話もあったが、逃げようと思えば簡単に逃げられるそうだ。それに変に機嫌を損ねてみろ……、どうなるか」先輩らしき男が小声で返答した。彼らは、どうやら要人警護専門のSPのようであった。彼は言いながら昼間の○○市の惨状を思い出した。
「本当に昼間のロボットを、あの二人が操縦していたんですか?まだ子供なのに……」
「でも、その子供が動かしたロボットと宇宙人の戦いで、100人弱の被害者が出たんだ」昼間の戦いで現在死亡が確認された数は118人、行方不明者も多数出ているとの報道があった。死者の数がもっと増える事は間違いないであろう。
いきなり、レオの部屋の扉か開いた。たしか鍵をかけていた筈であったが、彼女には関係ない様子であった。
「ちょっ、ちょっと何処へ!?」後輩SPは、突然の事に声が上擦っている。
「一郎の部屋へ行きます」レオは、軽く目配せをすると当然の事のようにいい放つ。
「そんな勝手に!」レオの行く手を阻もうとする。それを彼女は威嚇するような目で睨み付けた。
「よせ!……ちょっと待ってください!」そういうと先輩SPは耳元のイヤホンを押さえながら何かを報告している様子であった。「はい……、了解しました……。彼の部屋はこちらです」彼は何処かに許可を取ったようで、レオを一郎の部屋へ先導し、ドアの鍵を開けて中に誘導した。レオはニコリと微笑むと一郎の部屋へ入っていった。
「先輩、いいんですか?あんな勝手な事させて……」
「お前、さっきあの女に殺されてたぞ。いいか、この仕事は相手の力量を測る能力も必要だ。それに俺達の仕事は、マルタイを守る為に壁になる事なんだ。無駄に命を使うな」真剣な顔をして先輩SPは叱咤した。
「は、はい……」殺されると言うのはさすがに大袈裟だとは思ったが、先ほどの女の迫力に恐怖で身が震えたのは確かだった。
「一郎!」レオが唐突に部屋に現れる。その顔は久しぶりの恋人に会ったかのように嬉しそうであった。
「えっ、どうして?」一郎は、ちょうどシャワーを浴びて服を着替えたところであった。ノックも無しに入ってきたレオに驚く。
「私、一人では寂しい。一郎と一緒にいたいのです」レオは女の子の表情を見せる。その顔を見て一郎は、なぜか鼓動が少し早くなるような気がして少し愛しくなった。二人はベッドに並ぶように座る。
少しの沈黙が続く。その間も、レオは真っ直ぐに一郎の顔を直視している。見られている事は解っているのだが、一郎は目を合わせる事が出来ないでいた。一郎は、何か会話の糸口を探した。
「レオは、地球を守る為にやって来たって言ってたよね……」
「はい、そうです」
「それは、星を守るって意味で、人類の命を守るって訳ではないのかい?」彼は昼間の、エクスの戦いを思い出していた。あの惨状を思い出しただけで少し背中が寒くなる。
「どうして、この星に、ただ偶然繁殖しただけの下等な生き物を守る必要があるのですか?それに、地球の環境破壊を繰り返す人類は、むしろ滅ぼしても良いぐらい存在かもしれません」レオは悪びれる事もなく至極当然の事のように話した。
「いや……、そんな、みんな生きて、生活しているんだ。滅んでもいいなんて……」一郎は大きく目を見開いて驚く。
「では、極端な話をしましょう。一郎の家をシロアリやゴキブリが占拠して破壊しようとします。あなたはどうしますか?」彼女の言う通りひどく極端な事を言い出したなと思った。
「まあ、確かに……、駆除するか……、家を建て直すか……」
「それと同じですよ」レオはニコリと笑う。
「で、でも、人には知性があるんだ。害虫と一緒ではない!」同じと言われて少しだけ憤慨する。
「彼らを害虫と呼んでいるのは、誰なのですか?知性がなければ彼らを殺してもいいというのですか?」
「そ、それは……」なぜか言い返せない。確かに、考えた事など無かったが、害虫と呼ばれる彼らには自分が害虫などという自覚はないであろう。
「一郎の言っている事は、人類初サイドの言葉なのです。我々から見れば地球は蝕む人類は、害虫なのかもしれません」まるで真理を語る修道女かと錯覚させるような口振りであった。言葉と裏腹に、微笑みを投げ続けてくる。
「それでも……、今日のような戦い方は……、もう、やめて欲しいんだ……。もう、人が犠牲になるところは見たくないんだ」もう、この少女を説き伏せる事は無駄のような気がした。
「はい、一郎がそう言うのならそうします。今後、人類は殺しません」案外簡単に了承したので、一郎は逆に驚いた。
「ありがとう……」彼女の考え方を改めるのは困難なようであるが、ひとまず自分の提案を素直に受け入れてくれた事が嬉しかった。
「それより、また散歩しませんか?」レオはベッドから立ち上がると窓際に立ち、はめ殺しの窓を軽いパンチで粉砕した。そして、微笑みながら、一郎に右手を差し出した。
「あらら、また大井戸さんに怒られるぞ……」そう言う一郎の顔も笑っていた。
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