第6話

「あーぁ!」一郎は大きく欠伸をした。昨晩はレオと二人少し日が差す頃まで夜空を眺めていた。少し前までは恐怖の対象であった少女に少しずつ魅かれている自分がいる事を彼は自覚しつつあった。


「昨日の夜は遅くまで二人で楽しい時間を過ごしたようだね」一郎は前の席に座る声の主を見た。それは自動車の助手席を陣取る大井戸であった。一郎とレオは後部座席に座っている。


「えっ、楽しい時間って・・・・・・・、なぜ知っていいるんですか!?」一郎は少し焦った顔を見せた。相反するようにレオは小由美が無いようで窓の外を眺めていた。


「申し訳ないが、君の身の安全を考えて、一郎君にはGPSをつけさせてもらってたんだよ。でも、まさか空を飛んでいくなんて予測もしてなかったし、追いかける訳にもいかないし、まさかあのまま行方を眩ますのではないかと少しハラハラしたよ。お陰で、僕も少し寝不足だよ」彼はそう言ってから少しワザとらしく欠伸をした。


「すいません・・・・・・・」一郎は申し訳なさそうに頭を下げた。レオは相変わらず会話に興味が無い様子であった。


一同が向かっているのは、一郎が通っている学校であった。どうやらエクサについて聞きたい事があるようであった。


「レオさん、君はあのエクスというロボットに乗ってこの地球にやって来たのかい?」大井戸は振り返らず前を見たまま、突然聞いてきた。


「貴方にその問いに答える義務はあるのでしょうか?」ぶっきらぼうに返答する。その返答を聞いて大井戸は深いため息をつく。


「じゃあさ、天野君の聞きたい事なら教えてくれるのかい?」大井戸は振り返って、眼鏡の位置を整えた。


「ええ、一郎の知りたい事ならお答えします。」レオは可愛く微笑む。その笑顔を確認してから大井戸は一郎に軽く目配せする。


「レオは、エクスに乗ってきたの?」一郎は仕方無しに質問をする。


「ええ、そうです。私はエクスに乗ってこの地球にやってきました」素直に答える彼女に大井戸は少し呆れ顔を見せた。


「あのエクスってロボットだけど・・・・・・・」


「エクスはロボットではありません。彼女は私のナビ・フレンドです」レオは一郎の質問を途中で遮った。エクスの事をロボットと呼ばれる事に少し抵抗があるようであた。


「ナビ・フレンド?」聞きなれない単語に一郎たちは少し困惑する。


「私達は、生まれると一人に一人ずつナビ・フレンドが与えられます。いわば、私達は姉妹のような存在なのです」彼女は耳たぶのイヤリングに優しく触れた。片耳だけにつけられたいイヤリングはまるで自己主張でもするように綺麗に揺れた。


「着いたよ」車が停車したと同時に、大井戸が口を開いた。通いなれた学校の校門を見て一郎は少し安心する。


 車のドアを開けて地に足を着けた。目の前に赤く大きな巨人が立っている。その周りには人だかりが出来ていた。そして彼らがエクスに近づかないように一晩でバリケードが作られていた。


「なんなんですか?この人達・・・・・・・・」一郎はその人だかりに驚きを隠せないでいた。その大半はマスコミのようであるが、中には横断幕を振る人達も見える。そこに書かれている文字は『地球から出ていけ!』だった。


「こんな珍しいものが現れたら、そりゃこれぐらいの人は普通に集まるだろう」大井戸は当然の事のように返答する。


「でも、どうして・・・・・・・」一郎は先ほどの横断幕を見ながら呟いた。


「まあ、先日の君達の戦いで、巻き込まれて亡くなった人もいたからね。エクスを恨む人もいて・・・・・・・当然だろう」大井戸が一瞬、歯を食いしばったように見えた。


「一郎君!」唐突に聞きなれた女の子の声が聞こえる。声の主は南であった。


「南!」まるで、長い間会わなかったように、なぜか懐かしい感じがした。南は抱きつきそうな勢いで走ってくる。その間にレオが素早い身のこなしで割って入った。「ちょ、ちょっと貴女、何!?」出鼻を挫かれた南は顔を赤く染めて怒りを露わにした。


「私の一郎に気安く近づかないでください!」レオはその手で南の全身を阻むようにしながら睨みつける。


「ちょと、レオ!」一郎は慌ててレオをなだめる。「南は僕の友達なんだ、危険な事はしないでくれ」あの夜、セクター人の男達を惨殺した彼女の姿を思い出して冷や汗が流れた。


「・・・・・・・、一郎がそういうなら・・・・・・・・」レオは口を尖らせて少し拗ねたような表情を見せた。もしかすると自分が思っているよりもレオの精神年齢は低いのかなと一郎は思った。


「南、無事だったんだ。中野は?」周りを見回したが彼の姿は見当たらなかった。


「中野君も大丈夫よ。でも彼の家も無茶苦茶になってしまって・・・・・・・・」南は、少し俯いてから群衆のほうに目をやった。


「そうなんだ・・・・・・・・、でも良かった!二人とも無事だったんだ!」一郎は少し泣き出しそうな感じであった。二人は一郎にとってかけがえのない友人なのであった。


「どうして一郎君が・・・・・・・、こんなことになってしまったの?」


「それは・・・・・・・、俺にも・・・・・・・・」事情を説明するにも、言葉が見つからなかった。


「俺?」南は一郎の口調に少し違和感を覚える。南は一郎が自分の事を『俺』なんて言う所を聞いた事が無かった。そういえば、なぜか目つきが鋭くなったような気がした。


「おーい!天野君、レオさん!二人共こっちに来てくれ」唐突に大井戸の声がする。バリケードの一部を開いて中に入ろうとしているようであった。


「はい!それじゃあ南!また連絡するから・・・・・・・・、行こうレオ!」一郎はレオを手招きした。


「はい!一郎!!」なぜかレオは勝ち誇ったかのような顔で南を見てから、一郎の後を追いかけていった。


「一郎君・・・・・・・・、何があったの?」走っていく二人を見つめながら南は悲しそうな声で呟いた。


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