第7話
「やはりこれは……、近くで見ると相当デカイな」大井戸は、エクスの足元からその巨体を見て感嘆している。その高さはおよそ人間の建築出来るレベルではなかった。倒壊をおそれて規制線は結構な距離を取っていた。
「本当に俺が……、これを……!?」一郎は未だに信じられなかった。このエクスというロボットに乗って、あのセクターという名の怪獣を倒した事を……。
「レオ君、ところでこれって俺でも操縦することが出来るのかい?」大井戸は興味津々で、見つめる。
「それは無理です。エクスは私達『ミコ』と契りを交わさない限り搭乗することも叶いません」レオは、至極当然の事を語るように口を開いた。
「契りって……」一郎は自分の唇を指で触れた。キスと言っても、軽く噛まれた感触が残っていた。
「それはなにかい。その契りによって、レオ君だけでは無くて、一郎君にも何かしらの変化を与えているということだね?」大井戸は真面目な顔をして眼鏡のフレームを持ち上げる。何かしらの疑念が、あるようではあった。
「一郎の、遺伝子情報を私は取り込んで、力を手にいれました。そして、そのギフトとして、彼にも祝福を与えました」レオは可愛い顔で微笑む。
「祝福?」一郎は顔をしかめた。彼女から何かを渡された覚えがなかった。が、ふと自分の手首を見ると見覚えの無いブレスレットが装着されている。なぜ今まで気がつかなかったのかと思うくらい赤い派手なものだあった。
「やっぱりな……」大井戸は深い溜め息をついた。「そうだ、もしも契りを交わしていない者が無理やりエクスに乗り込んだ場合はどうなるんだい?」やはり、この未知のテクノロジーであるエクスを調べたいのであろう。
「『ミコ』が心を許していない者が、強引にその体内に入り込もうとするものなら……、エクスはそれを排除します」彼女は一郎の横にゆっくりと歩いていくと、彼の腕に自分の腕をからめる。
「おっ、おい!?」一郎は顔を真っ赤にして抵抗するが満更でもない様子であった。
「排除とは……?」彼女のその行動に微動だにせず大井戸は訪ねる。
「もちろん、抹殺です」その言葉を発したレオは少し猟奇的な視線を向けた。
唐突にサイレンが鳴り響く。
「なっ、なんなんだ!?」一郎は突然の音に驚いた。
「避難警報だ。また、奴らが着たようだ」大井戸はサイレンに驚いた様子はなかった。
「レオ、セクターガ、接近中ダ!至急、戦闘体制ニウツルワヨ」彼らの間に、球体に包まれた女性らしき生物が現れた。
「解ったわ!一郎行くわよ」レオが言うと、エクサから光が発射されて二人の体が空中に浮かんでいく。
「えっ、えええ!」心の準備が整っていない一郎は慌てもがいていた。そして、眼下にそれを心配そうに見つめる南の姿が映った。「南……」なぜか、すごく、悲しそうな目をしているように見える。そのまま、二人はエクスの体内に取り込まれていった。
「あなたは、誰だ!」目の前に現れた輝く美女に目を細めながら大井戸は訪ねる。彼の声に答えるように彼女はゆっくりと振り返る。金色に輝く髪この世の物とは思えぬ美しさを放った。
「ワタシハ……」なにか、言いたげな瞳を見せた。
「エクス!早くして!!」目の前の、エクスからレオの声が響き渡る。
黄金の美女は結局、その正体名乗らぬまま、四散して消えた。
「エクス……か……」大井戸は再び、エクスを見上げた。
一郎が目を開くと、そこは先日も搭乗したエクスのコックピットであった。その座り心地は決して悪くない。なぜか旅行から帰った自分の家のような感覚に少し笑えた。
「さあ、来ますよ!」レオの声が頭に響く。一郎は慣れた感じで、その目の前の球体に優しく掌を重ねた。その瞬間、彼の五感の全てがエクスと同調した。
エクスの目には遠く離れた彼方から迫り来る、大きな蜂の群れのようなセクターが迫っていた。
「あの数!尋常じゃねえよ!!」一郎はその数に圧倒される。
「大丈夫です。貴方と私……、そしてエクサの力を信じてください」レオがそう言うと、エクサの胸の装甲が開き、目映い光線を発射した。
「逃げろ!逃げるんだ!!」エクサの周りに集まっていた人々が、まるで蟻の子を蹴散らすように逃げていった。報道マンの一部は、その戦いを撮影しようと踏ん張っていたが、自衛隊などの組織によって強制的に避難させられる。
「きさま!なぜ勝手にあの二人をロボットに乗せた!!」車両の後部座席に乗り込んだ大井戸に上司らしき男が怒鳴りたてる。
「仕方ないじゃないですか。我々の兵器ではセクターを倒す事なんて出来ないですよ」大井戸はまるでそれが当たり前のように吐き捨てる。
「なんだと!貴様!それが国を守る人間の言葉か!!」男は大井戸の襟首をつかみあげた。
「よしてくださいよ。しょせん我々の所有する兵器なんて、人間同士殺し会う為の物なんですよ。この戦いに僕らの出る幕はありません」大井戸は軽く男の両腕を凪ぎ払った。彼は非力に思えた大井戸の力に驚く。
「こいつ!それでも日本人か!!」男は諦めずに大井戸の顔に殴りかかった。軽く目を閉じながら、その拳を大井戸は手のひらで受け止める。
「ええ、俺は日本人ですよ。生粋のね」受け止めた拳を強く握りしめた。男の顔は苦痛に歪んだ。
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