第29話 鯵の干物

慧仁親王 京都大原 1522年


 ヤクーは優秀で、手綱を捌かなくても作兵衛の家に着いた。与市に降ろしてもらい、土間で足を洗ってもらいながら、夕餉のリクエストを聞かれたので、魚料理をお願いした。行雅等がまだ来そうもないので、先に部屋へと戻るとグダ〜と倒れ込み『疲れた疲れた疲れた疲れた』と呪文の様に呟きながら、部屋の端から端へとゴロゴロしながら考え事。


「殿下、そろそろ起きないと、夜、寝れらなくなりますよ」


 行雅の声にパッと目が覚め、現状を把握する。


「いつの間にか寝てた……その方等は少しは休めたか?」

「はい、一刻は休ませて頂きました。夕餉だそうですよ」

「悪いが、濡れ手拭いを貰って来てくれ」

「畏まりました」


 持って来てくれた濡れ手拭いで顔を拭いて目を覚ます。


「よし、夕餉に参るか」


 リクエスト通り魚が食膳に。なんだこの干物。


「美味い!何だこの魚は、鯵か?鯵ってこんなに大きいのか?」


 こんな鯵は初めて食べた。尺は越える大きさで、干されてても分かる身の厚さ。炭で焼かれているので香ばしいのに身がふっくらとしていて、美味しい……泣ける。


「こんなの御所でも食べた事がない、のう行雅」

「お言葉ですが殿下、殿下は最近まで乳飲み子だったと姉上から伺っています。それに鯵の干物ですし」

「うぬ、そうだったな。夕餉の後に2人に話がある」

「畏まりました、伺います」


 ふと転生前を思い出し耽りそうになったが、頭から追い出し、絶品の鯵の干物を堪能した。食事は楽しまなきゃね。


「行雅、言継、参りました」


 食後のゴロゴロをしてると、2人がやって来た。


 「うぬ、入れ」


 障子を開けて2人が入って来る。


「改めまして、この度、殿下の侍従を仰せつかりました、飛鳥井行雅に御座います」

「同じく、山科言継に御座います。宜しくお願い申し上げます」

「うぬ、行雅はあれだが、言継については才有りと聞き及んでおる、宜しく頼む」

「殿下、あれって何ですか、あれって」

「まあ、あれだよ。クスッ。まあ、それは置いといてだな、2人には今後の方針を話して置きたくてな、聞いてくれ」

「それって……」


 凹む行雅に構わず、今後の方針を話し始める。


「まずな、一向宗についてだ……」


 黒板に簡単な日本地図を書いて、半刻ほどかけて詳しく説明をした。


「その方等には、彼方此方に行って貰う事が多くなるだろう。もし誰か手伝えそうな人物が居たら紹介してくれ」

「はっ、御意に」

「では、早速、書状を書く、行雅、準備をしてくれ」


 行雅に代筆をして貰い、何通かの書状を書いた。いつもの文箱に入れて弥七に持たせる。


「弥七、使いを出してくれ」

「畏まりました」




 

 

 

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