第28話 じゃじゃ鹿馴らし

慧仁親王 京都大原 1522年


 大原は若狭街道の経由地で、鯖街道と言って、若狭湾から新鮮な魚を運ぶのに使った道沿いに在る。そして高野川を下って洛中へ一気に運びたい人の為の川湊が、大原には在るんだよね。作兵衛の家はその川湊を牛耳っていて、舟待ちの宿屋を経営している。宿屋は当時は情報が行き交う所で、諜報活動には打って付けだ。でも、洛中までは馬で3時間もかからない所でもあるから、そんなには忙しそうで無い。


 翌朝起きると、雉肉が届いていた。弥助には料金と一緒にお酒でも届けさせよう。

 雉肉は食べた事は無いんだけど、そうだね、味噌味のソボロとかツミレ汁が良いかな。頼んでみようって調理場へ足を運んで、調理の仕方を教える。朝から美味しかったのは言うまでもない。


 昨日約束した通り、子供達を集めて爺ちゃん婆ちゃんに作って貰ったスリングで遊んだ。河原で拾った石を、スリングで離れた的に当てる遊びだ。

 スリングの使い方、投げ方を教えて、投げさせてみる。初めは指を離すタイミングが合わないけど、さすが子供達。どんどん上達して行く。投石って戦で立派な攻撃なんだよね。スリングだと破壊力倍増。狩りも出来るからね。


「今年の秋祭りでは、この的当て大会やるよ。景品も出すからね」


 お〜!!と子供達の歓声が上がった。良かった、盛り上がって欲しい。

 子供達とワイワイガヤガヤやっていると、遠くから声が聞こえて来る。


「殿下〜!」


 遠くに手を振る男と頭を下げる青年がいた。あれ?誰かと待ち合わせていたっけ?あれは見るからに公家だな。行雅と言継か。


「殿下、お初にお目にかかります。飛鳥井行雅に御座います」

「お初にお目にかかります。山科言継に御座います」

「うぬ、慧仁だ、よろしく頼む。疲れたろう。俺もちょうど飽きた所だ、一旦、作兵衛の所に戻ろう」

「お気遣いありがとうございます」

「じゃあ皆んな、頑張って練習してね!ヤクー!」


 駆け寄るヤクーに驚く2人。


「そう言えば、その方等、俺に驚かなかったな。弥七、乗せて」


 弥七に手を伸ばしながら2人に問うと、


「兄上から聞き及んでおります。白鹿についても聞いておりましたが、ここまでとは」

「うぬ、すぐに馴れてくれた。弥七、2人の案内を頼む。俺は先に行く」


 ヤクーを追い立てると、ヤクーは加速して行く。そして俺は振り落とされる。ちょ。まあね、そりゃそうだよ、知らぬ間に大原の者が併走してた様で、地面スレスレでナイスキャッチ。怪我には至らなかった。


「済まぬ、振り落とされた。ヤクー!」


 ヤクーを呼んだ。キャッチしてくれた者に、もう一度ヤクーの背中に乗せてもらい、電車ゴッコの様に手綱を背中に回して、体全体で手綱を制御してみる事にした。


「済まないが、もう一度させて貰う」


 乗せてくれた者に断って、もう一度ヤクーを追ってみた。背中の上でバランスを取るのが難しいが、今度は無事に走れた。背中に乗せてくれた者と親指を立て合いグッジョブと言える訳もなく、必死にヤクーにしがみついた。大丈夫、2歳児だ、子供なんだからすぐに覚えるさ。

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