第30話 何かが始まる

慧仁親王 京都大原 1522年


 朝餉にも鯵の干物を出して貰った。これなら毎日でも食べたいよ。


「ヤクー!」


 弥七にヤクーに乗せて貰い、食後の散歩がてら、2人を連れて田んぼの進捗状況を見に行く。


「殿下、おはよう御座います。」

「おはよう。どうだ、進んでいるか?」

「いえいえ、まだやっと田んぼの水が抜けたくらいです。ほら、でも見てください。縄張りは大分進んでいます」


 田んぼの四隅らしき所に目印のついた篠竹が立っている。良いね。


「続けて宜しく頼む」

「畏まりました」


 次は新しい住居を見に行く。番匠達は今、風呂場の仕上げって所か。


「ここがお前達の部屋になる。奥が俺の部屋で、そっちが客間だ」


 興味深そうに見て回る2人に、風呂場を自慢しに行く。


「殿下、頂いていた宿題が形になりました。持って来てますが、お持ち帰りになりますか?」

「大作〜!」


 嬉しくて抱きつく。


「今今、見せて見せて!」

「では、お持ち致しますので、椅子に座ってお待ち下さい」


 と、土間の椅子に目をやると、大作、天才!ファミレスとかにある子供用の椅子だ。これって予備知識無しで作れる物なの?それなら宿題も出来て当然だ。


「こちらになります」


 テーブルに置かれた宿題を見る。確かに俺が知ってるボウガンだ。


「うぬ、確かに俺が望んでいた答えだ。後で褒美を出す」

「ありがとう御座います」

「殿下、それは弓の様ですが」

「うぬ、これはボウガンと言う南蛮弓だ」

「どうやって使うんですか?」

「よし、一度、宿に戻ろう」

「殿下、こちらを」


 先ほどより大分小さいボウガンが出て来た。


「此方のボウガンは、殿下に合わせて作って見ました。しかし、弦を引くのは大人でないと無理です」

「うぬ、承知した」


 宿に戻って早速試し打ち。


「弥七、何か的になる物を、あと何本か矢をお願い」

「はっ」


 すぐさま鎧を持って来てくれた。


 「まず、弦を引くんだが、そこに足をかけて、両手で弦を持って、背中に力を入れてグッて引っ張って、そこの出っ張りに弦を止めるんだ。そそ、グッて、そう、そこにある出っ張りだよ。出っ張り!!そそ、そうだよ〜」


 これがボウガンが主流にならなかった点だな。先に鉄砲が入って来てるしね。


「ちょっと見てろ。特に矢の弾道を見ていて欲しい。」


 ズコッ*っと、鎧を貫通する。


「どうだ?」

「驚くべきは威力ですね。貫通するとは恐ろしい武器です」

「矢の弾道が直線でしたね。弓の場合ですと弧を描きますから」

「弦さえ弾ければ、赤子の俺でも撃てるんだよ。これって凄くないか?お前達、撃ってみろ」


ズコッ*命中だ。


「どうだ行雅、初めてでも的に当たるんだぞ、凄いだろ」

「なるほど、照準が真っ直ぐで良いから、当たりやすいのですね」

「そうだ、行雅でも当たるんだよ、次、言継やってみろ」

「はっ」


ズコッ*


「気持ち良いですね、気に入りました」

「じゃあ、それを其方に下賜しよう。練習しておけ」

「ありがとう御座います。励みます」


 一通り、皆んなで経験して、ああだこうだ言った所で一休としよう。


〜・〜


 弥七にお茶を頼んで、部屋に戻る。ボウガンについて意見を聞いてると、部屋の外が騒がしくなった。


「お客様をお連れしました」


 作兵衛の声に返事を返す間もなく、巫女が部屋に入って来た。巫女?


「2人だけにして、話しが聞こえない所まで下がって控えてなさい」


 言われるがままなの?誰も守ってくれないの?


「慧仁、あんた転生者でしょ」

「え?」

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