第25話 男の子だからね

慧仁親王 京都大原 1522年


 人と会うのはやはり疲れる。今日は泊めて貰おうかな。

 「作兵衛、今日は泊めて貰えぬか」

 「この様な荒屋で宜しければ好きなだけお泊まり下さい。」

 「よろしく頼む。少し寝るから、起きたら何か口に入れる物を用意しておいて貰えるか?」

 「畏まりました」


 泊まる部屋に案内をしてもらい、そのまま眠りについた。


〜・〜


 ハッと目が覚める。何か物音がした気がしたんだ。‥‥おかしい。誰も起きて来ない。誰かに呼ばれた気がして廊下に出てみた。これはヤバい。ヤバい雰囲気だ。

 誘われる様に庭に出て、屋敷の裏側に周る。ダメだ、行っちゃダメだ。白い何か屈んでいる様に見える。近くに寄ると、


 「白鹿だ!」


 近くに寄っても動かない。触っても動かない。いや、触ると体が冷たくなっている。せめて屋根の下まで動かそうとするが、ぜんぜん動かない。首に抱きつきながら涙が出て来た。誰か呼ばなきゃ!しかしそう思いながらも意識が遠くなって行った。


 「殿下、殿下、起きて下さい。こんなとこで死にますよ! この白い鹿は何ですか?」


 白鹿は体温が戻っていた。お互いの体温で暖め合い、お互いに命拾いしたらしい。俺が起き上がると、白鹿もヨロヨロと起き上がる。立ち去ろうとする白鹿に向かい、無意識のうちに声をかけた。


 「ヤックル!」


 白鹿はカッと目を見開き振り向きながら俺を見る。そして駆け寄って来て、俺をペロペロ舐め出した。別に知ってる鹿では無い。動物園でも、鹿島神宮でも、鹿でもカモシカでも、見ればヤックルなのだ。


「白鹿だ。縁起が良い。餌と水をあげてくれ。俺にも朝餉を頼む」

「畏まりました」

「ねえ作兵衛、もう何日か泊まって良い?」

「はい、何もお構い出来ませんが」

「雅綱、もう何日か泊まっていく。屋敷に知らせてくれ。そうしたら、雅綱は休んで良い。行雅と言継に代われ」

「御意」


〜・〜


 子供はホントに凄い。もうね、大分歩行が安定して来た。長距離はちょっと無理だけどね。

 また村の中でも散歩しようかと、縁側から弥七を呼ぼうとすると、ヤックルが足に擦り寄ってくる。自分の背中に向かい、顎をクイってする。


 「乗れって事?」


 うんうんと頷いた‥‥感じがした。

 背中に跨がり、首にしがみつくと、ゆっくりとあるきだした。


「作兵衛!作兵衛!」


呼んでも返事がない。聞こえない様だ。


「弥七!や」

「お呼びでしょうか?」

「多分だけど、今、近くに居たよね。何で作兵衛を呼んだ時に出て来ないの?」

「私を呼んだ訳ではなかったからです」

「そこは臨機応変に対処して」


 面倒臭い。


「小さめの手綱を持って来て。それと鞍の代わりにするから、なめし革が有ったらそれもお願い」

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