第26話 こんな日もあるさ
慧仁親王 京都大原 1522年
手綱と鞍がわりの鞣し革を持って来てもらう間に少し考えた。やっぱり拙いかもな〜
「ヤクー!」
おっ、こっち向いた。白鹿は振り返り、側に寄って来た。よし、お前は今日からヤクーだ。
〜・〜
ヤクーに頭絡を着けると少し大きめだったので少し調整。鞍がわりの鞣し革も両サイドに切り込みを入れて、鎧がわりに足を置ける様にしてもらった。完璧。
思ったより揺れない。多分、ヤクーが気を使ってくれてるのだろうな。
「弥七、京から焼け出された人々の住処が見たい。案内してくれ」
「御意」
フフフ、やはりな。そりゃ拝むよな。白鹿に子供が跨ってるんだもん、そりゃ神々しいだろうね。
途中で昨日猪を狩って来た与助に会ったので、
「弥助!昨日はありがとう、美味しかったぞ!今日は雉だ!雉を狩って来たら言い値で買ってやるぞ」
京から焼け出された人々の為に建てさせた、今で言う仮設住宅に来た。住宅の前に来ると、ヤクーを見つけた子供達が集まって来た。俺は弥七にヤクーから降ろしてもらって、子供達の自由にさせた。
すると、子供達の騒ぎを聞きつけた老人達が集まって来た。ヤクーに目を奪われていた老人も、俺達に気付くと、
「これこれ、いかんいかん。こらこら下がりなさい。殿下、申し訳ありません」
ヤクーに群がる子供達を引き剥がす老人達。
「よいよい、子供達の好きにさせてやれ」
さらに跪こうとする老人達を制して話しを続ける。
「そうだ、手が空いてるならこんな物を作って欲しい」
近くに落ちていた木の枝を手に取り、地面に絵を描きながら説明を始める。小さめの藁草履の底を作って、両端に藁縄をつけた物だ。今で言うスリングだ。
「藁さえ有れば、そんな物なら幾らでも作れます」
「弥七、余ってる藁って有るのか?」
「もちろん有りますよ。誰か、藁を集めて来てくれ」
え?なになに?誰に言ってるの?と思ってると『はい』と何処からとも無く返事が聞こえる。ああ、そりゃそうか。俺の護衛が弥七1人な訳ないよね。って、ヤクー、どんな技使って俺に近寄ったんだよ。いやいや、近寄ったのは俺か。ヤクー、お前怖いよ。と、独り言をブツブツ言ってると、ヤクーが振り返って目が合う。こら、今、ニヤけただろう!
村の方々から老人達が藁束を持って集まって来る。この村ってこんなに老人が居るの?
「さっそく藁草履を編んでくれ」
「え?」
「え?」
「今すぐには編めないんですよ。」
「え?」
「まず、水を含ませて一刻、それから藁を叩いて……」
知らなかった、知らなかったよ。藁草履を作るのに、そんなに工程が有ったのか。
「そうか、では、手が空いている者は、明日までに投石縄を作って置いてくれ。明日、今くらいの時間にもう一度来る。よろしくな」
当てが外れた。子供達とスリングで遊ぼうと思ってたのに。仕方なく四半刻ほど、仮設住宅の不満等無いか等、世間話をしてそこを離れた。
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