第15話 信長は46年後だからな

慧仁親王 堺 1522年


雅綱におんぶされながら、宗柏の後をついて廊下を歩いていると、あ、今、格好悪い。

雅綱に耳打ちして、雅綱の体を這い回って抱っこに変えて貰った。

そう、清洲会議に秀吉に抱っこされて登場した三法師を思い浮かべて欲しい。 あれだあれ、格好良い。 危なかった。

抱っこ界のカリスマ・三法師。 さすが。 

そして、2歳児らしく満面の笑顔で愛らしく登場して、その後の態度とのギャップを最大限にっと。

宗柏が不意に立ち止まる。


「慧仁親王殿下をご案内致しました」


笑顔満面で開いた襖の中を覗き込むと、皆が平伏している。

おいこら、抱っこも満面の笑顔も絶賛空振り中ね。


「ご苦労」


集まってくれた商人に声をかけた風を装って、空振りした自分に優しく声をかけてあげる。

ぽっかり空いた上座に座って、


「私が慧仁です。皆、面を上げて下さい」

「はっ」


一斉に面が上がると、皆が一様に戸惑いの顔を浮かべる。

宗柏だけしてやったりの顔だ。


「この度、細川が堺の地を返してくれました。 今後は天領となり天皇家が差配する事となります」

「畏れながら申し上げます」

被せ気味に、

「許しません。まずは、矢銭として10日以内に1万貫。以降、毎月各商家1軒につき10貫の献上を申しつけます」

「畏れながら、出来ぬ場合は」

「何か勘違いしています。 お願いしてる訳じゃありません。 申しつけているのです。 出来なければ構いません、港も商家も堺だけではありませんから。 懐かない犬には餌はやらないだけです。 あ、犬は失礼ですね、取り消します」

「畏れながら、それがしが立て替えてでも10日以内に1万貫、確かに献上させて頂きます」

「その天王寺屋でですか? うぬ、後で話があります」

「畏まりました」

「その方は?」

「結城屋と申します」

「うぬ、結城屋。 今、出来る事を出来ない事として、私を誤魔化そうとしましたよね。 その方の財産を召し上げた上、堺からの追放を言い渡します。 3日以内に堺より出てって下さい」


何か言いたそうだが、天王寺屋に目で制され結城屋が下がって行く。


「何か質問はありませんか? 無ければこれにて終了にとなります。 宗柏、先程の座敷で休みたい。 茶を頼みます。 えと、魚を商いにしてる人は居ませんか?」


手が上がる。


「その方は?」

「とと屋に御座います」

「では、とと屋は呼びに来るまで控えていて下さい。 雅綱、抱っこ」


登場シーンと同じ様に抱っこされて、皆に向き合う。

ですよね、土下座ですよね。

結局、俺の格好良い抱っこは見事に空振り三振に終わった。


「では、両名は後ほど、その他の者はご苦労でした。 これからも宜しく」


あ、拙い。 眠い。 


「弥七はおるか?」

「はっ、こちらに」

「宗柏に泊まらせて欲しいと、あと昼寝するから、とと屋には使いの者を出すので出直して欲しいと伝えてくれ。 最後に一走り三好に行って謁見は明日に変更して貰って」


言えた……クゥ〜

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