第16話 天王寺屋、お主も悪よの〜

慧仁親王 堺 1522年


シャキーン!

素晴らしい目覚めだ。 スッキリした。


「弥七!三好は間に合ったか?」

「はい、余裕でした」

「そうか、ありがとう、助かるよ。 では、とと屋を呼んで参れ。 連れて来たら、宗柏にも声をかけてくれ」

「御意に」


弥七は直ぐに戻って来た。


「お二方ともまだ屋敷内に居られました。 もし宜しければ茶座敷でお茶でも如何かとの事ですが。 如何致しますか?」


抹茶は好きなので、誘いに受ける事にする。


「弥七、先触れを。 そして戻って茶室に案内してくれ。」

「御意」

「雅綱はここで休んでいてくれ。 明日の大坂城まで俺をおんぶだからな。 茶室には弥七を連れて行く」

「はっ、お言葉に甘えまして、休ませて頂きます」

「うぬ」


弥七が戻って来る。


「弥七、茶室では側に居てくれ。 では、抱っこだ」


両手を広げて抱っこしてくれるのを待つ。

弥七はクスッと笑い、俺を抱き上げると茶室へ向った。


「殿下をお連れしました」


障子が開くと、


「お呼びたて申し訳ありません。 ささ、中へどうぞ」


中に入ると、土下座で俺を待つ2人。

茶室と言うより、狭めの座敷だね。


「うぬ、面を上げて下さい。 もう其方は私の民です。 無礼でない程度で簡略してくれて構いません」

「はっ、お言葉に甘えまして」

「うぬ」

「それでは、まずお茶を一服点させて頂きます」

「ぜんぜん作法を知りませんが、宜しければ薄茶でお願いします」

「薄茶ですか?」

「はい、私の様な幼な子や子供を身籠ってる女性には、濃いお茶は体に良くないそうです。 でも、私はお茶が好きなもので」

「そうで御座いますか。 勉強不足で申し訳御座いません」

「いえ、私も天照大御神様に知識を授かるまでは知りませんでしたので」


薄茶を貰って一服した。 心なしか目が覚めた感じ。


「本日は急な申し出ながらお泊め頂けるとの事、ありがとうございます」

「もったいないお言葉。 どうぞごゆるりとお過ごし下さい」


「うぬ、さて、先程の結城屋についてなのですが」

「大変、ご無礼を致しました」

「うぬ、追放は変わらぬが、その方らからと言って、召し上げた財産の中から、それなりの金額を新しい店の立ち上げ資金として渡して貰えませんか?」

「よろしいのですか?」

「うぬ、この様な見た目ゆえに、厳しく事に当たらなければならぬ時もあります」

「心中お察しします」

「なので、ここだけの話として下さい」

「御意に」


「次に、今後についてなのですが、私との窓口に天王寺屋を任じます。 人を1人つけるので連絡はその者を使って下さい」

「はっ、畏まりました」

「弥七、天王寺屋に人をつけてくれ」

「御意」


「矢銭についてですが、これはまけられません。 すまないが用立てて下さい」

「畏まりました」

「毎月の献上金10貫ですが、これは鐚銭10貫で構いません。 その方らからの入れ知恵の様に皆に教えてあげて下さい」

「よろしいのですか?」

「実はそう遠くない内に新通貨の発行を計画しています。 その為にも鐚銭の流通を減らしたいのです」

「なるほど」

「徴税は天王寺屋に委せます。 名簿を作り提出して下さい」

「畏まりました」


あ、思い出した。


「今までの話は内密な話です。 ここから先の話はご自分で判断して下さい」


「まず、これは会合衆の皆に広めて欲しいのですが、この日の本から銀が不当に流出しています。 外国との貿易の所為です。 金銀で支払う際には必ず相場を調べて下さい。 不当に安く叩かれていますので」

「誠ですか?」

「はい、私は天照大御神様にいろいろな知識を学びました。 この学んだ知識は日の本の為、日の本の民の為に使うと誓いました。 天照大御神様のお告げと思って従って下さい」

「畏まりました」


「次はとと屋さんです。 鰯などの小魚はどうしていますか?」

「油を取ったりしてますが、大抵は棄てています」

「勿体ないですね。 要らない小魚、油を取った後の絞りカス。 これを干して砕くと良い肥料になります。 この先の日の本の農業に欠かせない肥料です。 干して砕く、それだけです。 干鰯ほしかと言います。 是非、貴方の伝で日の本中の漁村に広めて下さい」

「聞いただけでお金の匂いがしますが、広めてしまって宜しいのですか?」

「流通が増えれば、単価が下がります。 日の本の為です。 この話にとと屋さんがどう絡むかはお任せします。 とりあえず、どこかで作らせて、春までに50俵ほど洛北の大原村に送って下さい」

「何とも言えませんが、その様に努力します」


「最後にお願いです。誰でも構いません。 畳1畳ほどの布袋に綿を詰めて送って下さい。 布団と言います」


そこから、先程の座布団を持って来させて、掛け布団・敷き布団について、身振り手振りも含めて詳細に説明しました。

睡眠、安眠は大きく育つ為には欠かせません。


「そんな感じです。布団に関しては以上です。 全体的に何か質問はありませんか?」


見回す。


「うぬ、無い様なので、これにて私からの話は終わりになります」

「殿下、お口に合うか分かりませんが、夕餉をご一緒して頂けませんでしょうか? とと屋も一緒にどうかの? 殿下の歓迎会じゃ」

「うぬ、半刻ほど休ませてくれ。 その後ならご一緒しましょう。 ただ、言い辛いのですが、離乳食をお願いしますね」


皆中で顔を見合わせて、始めはポカンとして、その後は笑い出した。


「宗柏、笑うとは失礼だぞ」

「申し訳御座いません。平にご容赦下さい」


土下座する2人に


「戯言です。 天王寺屋の離乳食を期待しています。 白身の魚は食べられます。 食べられるからな」

「御意に。 用意出来ましたらお呼びに伺います。 それまではお体をお休め下さい」


クスッ。

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