第14話 堺って意外と遠い

慧仁親王 堺 1522年


あ、何かいい事を思い出した!

商人は朝が早いからな、今から行っても大丈夫だろう。


「雅綱!おんぶだ。 堺に連れてってくれ。 弥七、先触れを。 居ない間に元長が来たら待たせとけ」


揺れる、揺れる、揺れる。

雅綱の体温で眠くなって来た。


「殿下、堺に着きました」

「ありがとう」


眠い目を擦りながら、あれ、この時代ってありがとうって言うんだっけ? などと考えながら辺りを見回すと、関の先に堺の街が広がる。

これが東洋のベニスか……、ベニスなんて行った事ないから実感わかねぇ。


「ご苦労」


関の前で待つ弥七を労いつつ横に目を移すと、小綺麗な商人風な男がお辞儀をしている。


「土下座じゃねえの?」


あ、心の声が漏れちゃった。 慌てて土下座をしようとする商人風を制して


「ああ、よいよい。 こっちはお忍びだ。 それより一息入れたい。 案内を頼む」

「畏まりました。こちらへ」


馬から降りた雅綱の背中から堺の街をキョロキョロ見回す。

なかなか綺麗で掃除が行き届いている。


「ふ〜ん。 しかし堺も大した事ないな」


声が聞こえたのか、商人風が驚いた顔で一瞬こちらを振り向く。

大きな屋敷に到着し、こじんまりとした座敷に通される。


「改めまして、私、天王寺屋主人津田宗柏に御座います。 この度は謁見賜り恐悦至極に存じます」

「ご苦労、街の主だった者を集めて来てくれ」

「はい、すでに使いの者を走らせて御座います」

「あれ、面を上げて良いって言ったっけ?」

「申し訳ありません」

「うぬ、皆が集まるまで下がっていて良いぞ」

「はっ、それでは下がらせて頂きます」


宗柏が下がって行った。


「行ったか?」「行きました」


は〜〜、疲れた〜、大坂から堺ってどんだけかかるんだよ〜。 もっと近いと思ってた。

五体投地でゴロゴロする。座敷の端から端までいったり来たりしていると、


「失礼します。 お茶をお持ちしました」


スーっと襖が開いた先の娘と目が合う。 ちょうどゴロゴロと座敷に端に着いた時だった。


「うぬ。ご苦労」


気まずい空気を感じつつ、座布団まで戻る……座布団!!


「娘、返事が有ってから襖は開けるようにな。 そうじゃないと声をかける意味がない。 分かったか?」

「申し訳ありません」


怯えながら土下座をする娘に


「まあ良い、お茶をもて」

「はい」


お茶を置く娘に向かって


「だからな、ゴロゴロしてたのは内緒だ。 お前の無礼も内緒にしておく。 これで貸し借りなしね」


緊張していた顔が少し綻ぶ。


「ありがとう御座います」

「内緒だぞ、下がって良い」

「失礼致します」


娘が下がると、雅綱が笑顔で


「娘って、1歳児が娘って可笑しいですね」

「何が可笑しい。 娘は娘だろ。 それに俺はもう2歳だ!」

「それに主人に対して横柄でしたね。 殿下らしくない」

「うぬ、少しくらいは横柄でないと、この身体だ。 舐められる。 始めに上下関係を示しておかなくてはな」


暫く雅綱を相手に話しをしていると、


「失礼してよろしいでしょうか?」


襖の外から声がかかる。


「どうぞ」


雅綱が返事をすると、襖が開いて宗柏が土下座のまま


「皆、揃いました。ご案内して宜しいでしょうか?」


と、迎えに来た。


「うぬ、では参ろうか。 雅綱、おんぶ」

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