第13話 奥の手

慧仁親王 大阪城 1522年


「お連れしました」

「おお、来たか、弥七ご苦労」


これと言った家臣の居ない俺の、たった一つの隠し球。


「お初にお目にかかります、毛利元就と申します。お呼びと伺い参上仕りました」


元就!! 大内と尼子に挟まれて大変な時なのに来てくれた。


「遠い所、よく来てくれた。 雅綱、茶を持て」

「ただいま」


「まずは本題から話そうか。 私に臣従してもらい、この和泉、そして河内・大和・紀伊を任せたい。」

「誠ですか?」

「ああ、堺の街だけは直轄にするがな」

「何故それがしに」

「天照大御神様のお告げだ。 其方ならやり遂げてくれるとな」

「はあ」


何とも気の抜けた返事だ。 そりゃ、信じられないのもやまやまだけどね。


「信じられぬか? この赤子の姿を見よ。 それでも信じられなければ致し方ない。 他の者を探す」

「いえ、私の名前が殿下に届くとも思えません。 天照大御神様のお告げと聞けば、なるほど、合点はいきます」

「うぬ、まあ、河内・大和・紀伊はまだ手にしてないからな。 そこは元就の手腕によるぞ。 励め」

「はっ」

「まずは両畠山、朝敵だ。 この長い戦を始めた責任を取らせる為、家臣も含めお家取り潰しだ。 臣従もならん」

「それだと戦はま逃れませんね」

「自信が無いか? 綸旨を申しつけた上、錦の御旗が下賜される。 まあ、お守りにはなるだろう」

「そこまでお膳立て頂ければ、武士であれば出来ないとは言えません。 殿下に臣従を誓います」

「うぬ、もう一押しだな、弥七! 河内・伊勢・大和に向い、手の者を使って、毛利領になれば年貢が4公6民、戦にならなければ今年はさらに半額だと噂を広めろ」

「4公6民ですか? それでやって行けますか?」

「戦が有るから金が必要なんだ。 戦が無くなり国が富めば、4公6民で十分だ。 なに、策は有る」

「はぁ」

「俺には天照大御神様もオモイカネ様もついてるんだ、心配するな」

「はっ」

「なるべく早く、一族を率いて和泉に入ってくれ。 杉大方様に親孝行するんだぞ」


それを聞くと元就は、目を見開き口をアングリとする。


「ね、驚いた? 神はいつでも皆を見てるぞ。 苦労は報われるものだ。 よし、雅綱、書状を書いてくれ」

「御意」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る