第10話 急いで来たね

慧仁親王 京 仙洞御所 1522年 正月


「明けましておめでとう御座います。それがし北条氏綱に御座います。お初にお目にかかりますが、以降お見知り置きをお願い申し上げます。」

「慧仁と申します。遠い所、わざわざご足労頂き有り難う御座います。宜しくお願いします。ここまで船でお出でと伺いました。船旅は如何でした?」

「慣れない船旅、揺れと寒さで些か身に応えました。しかし、良い経験になったと思ってるのも確かです。」

「私など狭い御所どころか、何処へ行くのもこの雅綱の手を借りなければなりません。誠に羨ましいかぎりです。」

「失礼と承知ながら伺いますが、お幾つになられますか?」

「先日、数え2歳となりました。」

「なるほど、受け応えなど、まさに神憑りに御座いますな。」


などと、一通り世間話で時を過ごす。


「さて、先に本題と参りましょうか。」

「そうですな、まずは親王様に頂いたお手紙に相違ありませんか?」

「概ね間違いない。伊豆・相模・武蔵・安房・上総・下総・常陸・下野・上野を錦の御旗の元に治めて貰いたい。」

「誠で御座いますか!」

「ただ、一つだけ条件がある。一人一国だ。菊寿丸には是非伊豆を。氏綱殿には武蔵を治めて貰い、残りを兄弟なり家臣なりで一国ずつ治めて貰いたいのだ。」

「何故、菊寿丸に伊豆なのですか?」

「簡単だ、縁だ。あの日に近江に居た。それが重要だ。そして、約束を守る男だと感じた。」

「なるほど、では、何故一人一国なのですか?」

「国創りの為だ。天皇家は君臨すれども統治はしない。例えば関東州。何年かに一度、9ヶ国の話し合いで州の主を決めて貰う。そして推薦された主が相応しいか天皇家が調べて任命する。統治はしないが州主の任命権を持つ事になる。馬鹿が州主になる危険度が下がる。そして、州主が集まって総州主を決めて政を行って貰う。分かり辛いかな?まあ、それは草案で詳しくはおいおいだ。」

「何となくですが分かりました。先ほど話にも出て来ましたが、錦の御旗を下賜して下さるとの話でしたが。」

「うぬ、話が決まれば氏綱殿は従四位武蔵守が任命されます。侵攻し易い様に、一時的に関東将軍も任命しときますか。その上で拝謁、錦の御旗の下賜になります。」

「従四位ですか、身に余る光栄で御座います。」

「関東ですと、東関東は米作、西関東は麦栽培が向いてますね。沿岸は豊富な魚介類が獲れ、銚子・勝浦・江戸・横浜・三浦・小田原・稲取・下田・沼津と条件の良い港が出来ます。西関東は土地が痩せているので、南部はお茶を北部では養蚕がオススメの様です。」

「何故そこまで詳しく。」

「私は昨年、一月くらい昏睡状態だった様です。その間に天照大御神様と様々な土地を巡り、そして様々な知識を授かりました。そして昏睡から目覚めるとこの通りです。数え2歳でこれでは気味悪いですよね。しかし、天照大御神様のお導きです。その知識を日の本の民の為に使おうと、身に宿るオモイカネ様と共に考えています。」

「なるほど」

「如何でしょう、天皇家に臣従して下さいますか?」

「身を賭してお仕え致します。」

「それではその様に取り計らいます。今しばらく京に滞在ください。これから、末永く宜しくお願いします。」

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