第18話 7000系

電鉄出雲市駅は、1階に改札口と券売所、2階にホームを備えた二階建ての立派な構造の駅であった。僕は窓口で1600円の一日フリー乗車切符を購入した。


出雲大社に行って帰ってくるだけなら元は取れないが、出雲大社訪問後に松江方面にも足を伸ばす予定であり、また、好きなときに気楽に下車したかったため、奮発して一日フリー乗車切符を入手した。


松江しんじ湖温泉行きの電車の発車時刻が10分後に迫ったところで、改札が始まる。僕は買ったばかりの一日フリー乗車切符を手に、勇んで駅員さんが待つ改札口に向かった。改札後、階段を一段とばしで上がっていく。胸の高鳴りを感じる。


2階のホームで僕を待ち受けていたのは、7000系と呼ばれる新型車両だ。前後に運転台を備えた1両編成であった。では、そのほかの多くの地方私鉄と同じように、引退した他社の車両を譲り受けて再利用していたが、2016年に実に86年ぶりとなる新造車が投入された。それが、この7000系だ。JR四国の7000系をベースに、JR西日本の225系の電気機器を使用している。ちなみに、225系と言えば、「バケモノ」と一部の鉄道系YouTuberに呼ばれる新快速などに運用されている。新快速は東海道本線の線形の良さを最大限に活かし、時速130キロ運転を何度も繰り返すことで有名だ。京阪神の特急殺しと言っても過言ではないだろう。


7000系の外観は、やはりJR西日本の最近の車両を彷彿とさせるデザインだった。前面のやや下の方にある2つのヘッドライトは外側に向かって少し高くなっている。225系や227系のような都会的な雰囲気を漂わせるシャープなヘッドライトだ。カラーは清潔感のあるホワイトを主体としており、車体側部には、「ばたでんカラー」のオレンジ色の帯が2本走っている。


僕はビデオカメラで一通り車両を外側から撮影し、車内に足を踏み入れた。座席の柔らかさを手で確認してみる。


そのとき、遠くの方でサイレンが鳴り響いていることに気づいた。


救急車のサイレンでも、消防車のサイレンでもない。


間違いない。これは警察車両のサイレンだ。


サイレンの音は徐々に大きくなってくる。ということは、近づいてきていることを意味する。


『まさか・・・』


僕は全身の血の気が引いていくのを肌で感じた。


サイレンが鳴り止んだ瞬間に、今度はの発車ベルが鳴り響き、僕は身震いした。


1階で、何者かが大声で駅員さんに向かって叫んでいる。


階段を駆け上がる足音が聞こえてくる。1人ではない。2人、いや、3人はいそうだ。


そのとき、プシューという音とともにドアが閉まった。


そして、7000系は発車した。僕は車両の一番後ろに移動した。


後方の運転席に続くデッキの窓にへばりつき、様子をうかがってみる。


階段を駆け上がってきた3人の男達は、叫びながら電車めがけてダッシュで近づいてくる。


しかし、7000系は素知らぬ顔で徐々にスピードを上げていく。全力疾走していた3人はホームの先端部で急停止した。3人のうち、1人が上着を脱ぐとホームに叩きつけていた。遠くからでもその男が誰なのか、僕にはわかった。


真田刑事だ。







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