第15話 いざ出雲市へ

真田刑事は、

「ちょっと失礼」

と僕に言うと、通路を降りていった。

通路で鑑識係の女性が真田刑事に何か囁いている。僕は居ても立っても居られず、一度深呼吸した後、車窓を眺めてみた。数十秒後、真田刑事が戻ってきた。


真田刑事は手帳をポケットに戻すと、先ほどとは打って変わって明るい表情で、

「質問は以上です。もしかしたら、また協力をお願いすることになるかもしれませんが、旅の続きを楽しんでください」

と言った。何か有力な手掛かりを得たようだ。


真田刑事が個室の扉を閉じると僕はそっと胸をなでおろした。しかし、その一方で強烈な好奇心がぶり返してきた。『一体誰が殺されたんだ』


そして、サンライズ出雲・瀬戸号という鉄道ファンの聖域で、よりによって人を殺めるという暴挙に出た殺人犯に対し、沸々と怒りが込み上げてきたのであった。


僕は怒りを鎮めようとして、ベッドに寝ころんだ。天井を見上げてみる。しばらくすると、いつの間にか眠ってしまっていた。


「間もなく宍道、宍道に停車いたします」

車掌さんの心地よい社内アナウンスで僕は目覚めた。コントロールパネルに備えられたデジタル時計を見ると、10:50を告げている。予定の到着時刻は9:45であり、1時間以上も遅延が発生していることになる。


窓の外を見ると、雄大な宍道湖が朝日に照らされていた。全国で7番目に大きい宍道湖には豊富な海産物が育ち、特にシジミは名物として有名だ。


京都出身の僕にとって湖は身近な存在である。日本一の湖の琵琶湖の所在地は滋賀県だが、京都市からアクセスしやすく、何度も訪れたことがある。そして、京都市には琵琶湖の水が疎水を通って流れており、京都とは切っても切れない関係にある。


琵琶湖の周辺にはJR西日本の湖西線と琵琶湖線が走っているが、琵琶湖の景観を楽しみたいなら琵琶湖の西側を走る湖西線がお薦めだ。しかし、サンライズ出雲号が走る山陰本線から眺める宍道湖の景観は、湖西線を上回るものがあった。何よりも連続して湖を見れることが嬉しい。


サンライズ出雲号は宍道駅に到着すると、少しでも遅れを取り戻すためか、すぐに出発していった。


宍道駅を発車すると終点の出雲市駅は目と鼻の先だ。僕は下車の用意を始めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る