第14話 シングルデラックスで取り調べを受けてみた

『サンライズで殺人事件?』

僕は衝撃を受けた。警察が乗り込んでくるくらいだ。何かしらの問題があったことは想像していたが、まさか殺人事件だとは思っていなかった。


「まず、あなたの名前と年齢を教えてください」

真田刑事は目線を僕から逸らさずに早口で言った。単純な質問だが、何しろ人生初の刑事による尋問だ。緊張しないわけがない。

「も、もっち、もち、もちづきひ、ひっかる。17歳です」

真田刑事は眉間に皺を寄せ、

「モモッチヒッカルさんですか?」

と訊いた。

『モモッチヒッカルってどこの国の人だよ』

僕は心の中で突っ込み、危うく吹き出しそうになった。

「も、もちづきひかるです」

会得した刑事は手帳にペンを走らせた。

「17歳?高校生ですか?」

「は、はい」

「旅行中ですか?」

僕は返答に困った。旅行と言えば旅行ではあるが、本来の目的はYouTube動画の撮影だ。しかし、世間一般における昨今のYouTuberの評判は芳しくない。そのため、僕はYouTubeの件には触れないことにした。

「ええ、旅行中です」

「そうですか」

真田刑事は一呼吸置くと、核心をつく質問をした。

「昨夜の1時頃、どちらにいましたか?深夜の1時です」


僕は絶句した。

『ア、アリバイを訊かれているのか?』

しかし、黙っているわけにもいかず、

「ここにいました」

と正直に答えた。

「この部屋にいたのですか?」

「はい」

「寝ていましたか?」

僕はどう答えればいいか悩んだ。午前1時といえば、鉄道研究会の面々とライブ配信でやりとりをしていた頃だ。

真田刑事は辛抱強く僕の答えを待っている。

「いいえ、起きていました」

「そうですか」

真田刑事はそう言うと手帳に視線を落とし、何か書き始めた。

書き終えると尋問が再開する。

「それでは午前1時ごろ大声や大きな物音が聞こえませんでしたか?」


僕は記憶を手繰り寄せ、昨夜のライブ配信を思い出そうとした。鉄道研究会のメンバーとの話し合いは常に盛り上がる。昨夜はサンライズの車窓から流れる夜景を背景に、いつも以上に鉄道話に花が咲いていた。しかし、いくら話に夢中になっていたからと言って、大きな物事がすれば僕だって覚えている。

「いいえ、特にしませんでした」


真田刑事は再び何か書きなぐると、ふぅーっと息を吐いた。そして、

「念のため、今日の滞在先と携帯電話の番号を教えてくれませんか?」

と言った。


僕はジーンズのポケットに入れておいたスマホを取り出すと、Eメールアプリを立ち上げた。続いて、ホテルの予約確認メールを開き、ホテルの名前と住所が記された部分を真田刑事を見せた。


真田刑事は画面を一度見ると、少し考えた素振りを見せ、

「ここに電話番号とホテルの名前、あと、君の名前を書いてください」

と言い、僕に手帳とペンを手渡した。


僕は震える手でなんとか電話番号、自分の名前、そして、ホテルの名前を書き終えると、手帳とペンを真田刑事に返した。


そのとき、通路のほうから凛とした女性の声が聞こえてきた。

「真田さん、ちょっといいですか?」


鑑識の制服に身を包んだ女性が真田刑事を手招きしている。黒縁の眼鏡をかけた、いかにも頭の切れそうな若い女性の鑑識係であった。女性はビデオカメラを持っている。嫌な予感がした。

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