第3話 出発の時
翌日の午前10時、僕は京都駅の八条口近くにある新幹線の改札口に来ていた。事前に予約購入していた乗車券と特急券をスマートEXの機械で受け取り、いざ改札口に向かおうと歩みを進めると、
「ちょっと待って」
と僕を呼び止める女性の声が後ろから聞こえた。アリサだった。そして、アリサの後ろには金魚の糞のように鉄道研究会の部員達が続いていた。よほど急いで来たのか、全員肩で息をしていた。
昨日、僕はYouTuberになることを鉄道研究会の部員達に高らかと宣言した後、記念すべき1本目となる動画の内容を伝え、そして、明日の10時に新幹線で東京へ向かうことを伝えていた。
「みんな…わざわざ見送りに来てくれるなんて…」
僕は感動で声が震えた。
するとアリサがスポーツブランドのバッグパックを地面に下ろし、中からサングラスを取り出した。オーソドックスなウェリントンのサングラスだった。モデルのアリサが所有しているだけあってファッションに無頓着な僕でも知ってる高級ブランドのサングラスだ。そして、今にも泣き出しそうな僕に近づくと、アリサはそっとそのサングラスを僕の耳にかけてくれたのであった。
「???」
意味が分からず、僕が黙っていると、
「たいしてイケメンじゃないんだから、顔を隠した方がいいと思って」
アリサが悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。後ろでシークレットサービスのごとく控えていた部員達が笑いをこらえている。彼らの顔に「ざまあみろ」と書いてあるのが僕にはハッキリと分かった。僕がキョトンとしていると、アリサは追い打ちをかけるように、
「顔で勝負しちゃダメ。内容で勝負よ。登録者が2000人を超えたら外してもよろしい」
と言い放った。
僕はどうにか怒りを抑えて、笑顔で感謝の意を伝えると、くるりと背を向け、乗車券を改札機に差し込んだ。エスカレータに乗り、再び改札の方を振り返ると、アリサ以外の部員達は早々に歩き出していた。僕に暴言を吐いたアリサだけは遠ざかる僕を、少し不安気な表情でじっと見守るように見つめていた。
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