閑話 リーシャ拘束 ※他視点

 

「リーシャ・オグラン。貴方の身柄を拘束する」

「は?」


 朝早く、王宮の自室で今日の準備を進めていたリーシャの元に騎士が数人押しかけて来た。

 どうしてこんなことになっているのかわからないリーシャは先頭に立っている騎士を睨む。


「意味が分からないわ。どうして私が拘束されなければならないのよ」

「現在、貴方にはいくつかの疑惑が掛けられています。とりあえず、逃げられないようにこちらで拘束させていただきます」


 リーシャの怒った表情に何も感じていないのか、騎士は淡々と作業を進めて行く。


「ふざけないで! 私はグリー第2王子の婚約者なのよ! こんなことをして許されると思っているの!?」

「この件についてはグリー王子からの了承を得ています」

「え?」


 まさか、婚約者である王子がこのような事を了承しているとは考えていなかったリーシャは驚きで身が固まる。


「では、こちらへ来てください。抵抗すればそれだけ痛い思いをすることになる事をご理解いただき、素直に我々に従って頂けると助かります」

「え?」


 王子の裏切りといきなりの展開に頭が付いて行けないリーシャは、素直に騎士たちの指示に従って部屋を出た。



「どうして私がこんな目に……」


 部屋を出て暫く歩いたところで我に返ったリーシャが自身の手首に嵌められている枷を見てそう漏らした。


「貴方には王族への虚偽報告と複数の殺人の容疑が掛けられています。虚偽報告についてはオグラン家へ確認を取っているところですが、殺人についてはこの後に話しを伺う予定です。だた、オグラン家への確認は少し時間が掛かる見込みですので、話を伺った後は王宮の牢獄へ移動することになります」

「はあ!?」


 牢獄へ入れられる、そう聞いた瞬間リーシャは大きな声を上げた。それを近くで聞いてしまった騎士は嫌そうに耳をおさえる。


「どうして牢獄なんて所に入れられなくちゃいけないのよ!? 私は王族と婚約しているのよ! そんな私を牢獄へ入れるなんておかしいでしょ!?」


 リーシャがそう言って暴れ始めたことで移動が止まる。そしてこれ以上暴れられないように他に追従していた騎士がリーシャの動きを止めようと拘束し始めた。


「ちょっと触らないでよ!」

「貴方が暴れなければ触る必要は無いのです。こう言ったことが嫌ならば、おとなしくしてください」

「嫌よ! このままだと私、牢獄行きなのでしょう!?」

「それは一時的な物です」


 疑惑が晴れなければそのままだという事を伏せて騎士はリーシャに伝える。


「ぐぅ……、本当に一時的な物なのかしら……ね」


 動けないように腕の関節を極められているリーシャはそう漏らした。どうやら痛みから抵抗する気が削がれたようだ。


「疑惑が晴れればそうなります」

「……くっ、わかったわ」

「ご理解いただけて感謝します」


 極められていた腕を放され、リーシャは痛みを和らげようと腕をさする。実の所、この時リーシャは逃げられそうであれば逃げ出すつもりだった。しかし、王宮の広い通路とは言え、数人の騎士から逃げ出すのは無理だと判断し、素直に従っていたように見せていただけだった。

 周りに付いている騎士もそれを警戒していたので、どうあってもリーシャが逃げ延びられる状態ではなかったが。



 止まっていた足を進める。朝早い時間とは言え、王宮に勤めている使用人たちは既に起きている時間だ。もたもたしていればそのような者たちに手枷を嵌められている今の姿を見られてしまうかもしれない。そう考えたリーシャは少しだけ足を速めた。


「この先の話を早く進めるために聞いておきたいことが有るのですが」

「何かしら」

「先日までグリー第2王子付きのメイドとなっていた、マリスという女性を存じていますでしょうか」

「知らないわ」

「王子からは何度か顔を合わせていると聞いていますが」

「顔を合わせたからと言って名前を聞いたわけじゃないのだから、名前を言われても自己紹介されていない私が知る訳ないじゃない」

「まあ、そうですね。では、ネリーというメイドについては」

「……そいつも知らないわ」


 いくつかグリー王子付きだったメイドの名前を出したところでリーシャの機嫌がすこぶる悪くなった。それを見て質問していた騎士は話を切り上げる。


「……一先ず、これから先は今から向かう場所で行います。それまで決して逃げるようなことはしないでいください。先ほどの事をまた、となると次は加減が難しくなります」

「……えぇ」


 逃げ出せたらそうしようという自身の考えが察せられている事を知り、悔しさを隠しながらリーシャはそう言葉を返した。


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