第7話

「よし、いよいよ服を作るぞぉぉっ!」


【薄く透けた感じでお願いします。ぐふ】


「却下だっ!」


 どさくさに紛れてかなちゃんがくだらない要望を差し込んでくるが、当然強めのお断りをする。


「それにしても、なんでかなちゃんはちょくちょくおっさんっぽい汚声を漏らしちゃうかなぁ」


【アパ様がかわいいからです】


「ぐほっ……、う、うん、ありがと」


 思わぬ心理的攻撃を受けてよろめいた俺だったが、ようやく服を手に入れる時がやってきた。

 この創造魔法は、作りたい物に関する知識や理解度が深ければ深いほど良い物を作ることが出来る。つまり、詳細に知っているものなら精密に、あまり知らないものならそれなりにってことらしい。

 俺にとってなんとも都合の良い魔法。

 日本に生まれ普通に生活していた俺は、日々いろんなものに触れて過ごしてきた。直接物に触れることはもちろんのこと、パソコンやスマホでお手軽にいろんな情報にまみれてきたわけで……。

 その上、服を作ることは俺の得意分野。実はコスプレ衣装を作るのが大好きだった俺はその趣味が高じて服飾系の専門学校に通っていた。

 作った服に魔法の付与も出来るのだが、これについても山ほど読んでいた異世界物の小説の知識がきっと役に立つ。

 ここに来て初めて感じる万能感。俺には普通の魔法なんて必要ないのかもしれないとワクワクする。


【まずはネコミミカチューシャや尻尾などを――】


「さてっ、ここは地味にシンプルにいくとしよう」


 やり方は頭の中にインプット済みだ。イメージした通りになんの変哲もないシャツとズボンと下着と靴、それに砂色のフード付きローブが出来上がる。

 ものぐさ過ぎるのではないかと、少し考えないでもなかったがそれらに自動装着を付与すると勝手に飛んで来て勝手に着せ付けられていく。


「こっ、これは……らくちんすぎる。駄目人間に一直線な予感が……」


 ちなみに魔法を付与した物品は全て魔道具と呼ばれるらしい。俺の脳内イメージとは違う魔道具だがその単語には正直ときめいた。

 しかし、こんなに簡単に魔道具というかモノを生み出してしまうこの力。神パワーってやばい。

 何の苦労もなく思った通りの物がポンポンと生み出せてしまう自分のチートっぷりに、感動を超えて少しびびる小市民な俺。


「そ、そうだよな。俺、神様だし。うん、うん、うん……」


 まさに神の御業を体現してしまっている俺、やっぱり人外なイケメンなんだよなぁ。

 ここで改めて自分の全身を観察するわけだが、俺は相変わらず人外の視点で自分を見放題なのだ。

 ちょっと困ったように伏せた色素の薄い睫毛は、余裕で鉛筆が二本は乗る長さだし、その睫毛に縁取られた金色の瞳は、硬質な光を纏って綺麗なビー玉みたいだ。日に焼けることを知らない白い肌は女の子みたいに肌理細かいし、内側から発光しているように見える薄緑の髪は、前世で見たネットの二次元アイドルみたいにキラキラしている。


「なんか俺の見た目、整いすぎていて怖いな……」


 マジマジと見れば見るほど自分の見た目の人形のような不気味さ、いや神秘性に怖気づく。

 こういう特殊な見た目の奴が街中に行く時のお約束があったよな。


「えっと、そうだ。認識……認識阻害だ」


 他にもいろいろあったはずと思いつつ、とりあえず認識阻害を付与してしまう。やばいものは隠せばいい。俺、天才。

 細かい修正はその都度やっていけばいいとして、ひとまず大体の装備が完成した。


 いいんじゃないか。認識阻害が良い仕事してる。

 俺の視界さえも騙す付与ってなんだろうと思わないでもないが、顔に意識が集中できない感じが素晴らしい。


【ピーピーピーピー警告です警告です警告です】


「うぉっ、なんだなんだっ?」


 全身をチェックして満足していると突然かなちゃんから警告を言い渡され、それと共に俺の装備品は全て破れゴミに成り果てた。あっという間に全裸に逆戻りである。


「なっ、なんだよ、これー!?」


【その顔を隠す行為は種族特性として一切認められておりません】


 細かい布きれに成り果てた服を前にショックで呆然としている俺に、かなちゃんから謎の補足が入る。


「いや、じゃあ、言ってくれれば最初から認識阻害なんてつけないよ?」


【私の言葉など無視されてしまうだろうという的確な判断でしたが、なにか?】


 えぇ……俺が悪かったのか? てか、かなちゃん口でぴーぴー言ってたよな? それに種族特性とか意味わからないし……。


 とりあえず俺は猫耳カチューシャや尻尾を数種類作ることにした。かなちゃんの希望を遮って無視したばかりに多大な犠牲を出した俺は近道を学習したのだ。


「ど、どうかなー?」


 尻尾をクネクネ、耳をピクピク、感情を読み取り勝手に動くように無駄に魔法を付与したそれらを付けた俺を見たかなちゃんはそれはそれは喜んでくれた。


【上目遣いで指をくわえて、『大好きにゃん』と言ってください】


「だ、だいすき、にゃん?」


【素晴らしい……】


「えっと、かなちゃん、もう根に持ってないよね? 何か問題があったら教えてくれるよね?」


【何のことだかわかりませんが、良いものを見せてもらいました。ぐふ】


 とりあえずかなちゃんがご機嫌な間にもう一度服を作ることにする。

 結局、認識阻害の付与を諦め一から作り直しだが、口布さえも装備することが出来ないことを確認した俺は、フードを目深に被ることで対応するしかないと諦めた。

 そして俺は再び、全身をチェックする。


「うーん、なんていうか、どこか違うんだよな……」


 これぞ旅人、という格好をしているはずなのに、どうしても拭えない違和感に首をひねる。

 そこで俺は気づく。手ぶらな旅人とかすっごい怪しい。

 まずは、厚手の布で大きなリュックを作る。万が一中身を見られてもいいように、適当にタオルとかタオルとかタオルとか着替えを入れると、非力な俺でも持てるハリボテ仕様の荷物が完成した。

 異世界のお約束、無尽蔵に物が入る魔道具もついでに作ることにする。

 使い勝手を考えてベルトに装着可能なポーチ型のものを柔らかい革で作り、空間拡張と時間停止を付与した。ポーチに直接お金を入れるのは嫌なので財布も用意する。


「よしよし、なんかそれっぽく見えてきた。あとは……そうだな……不壊と防汚もいるな」


 破れないし汚れないとか世のお母さん垂涎の品だな。

 思いつく魔法をそれこそ下着にまで全て付与し終えると、俺はようやく一息つき、ポーチにぽいぽいとお気に入りの木の実や良い感じの枝を入れていく。

 全てをポーチに突っ込み終えると、自分の姿を念入りに点検しながら木の実をモグモグする。

 そこで俺は昔アニメでみたアクセサリー型の魔道具を思い出す。

 剛力とか強そうだし、使えないと言われた攻撃魔法も付与すればいけるかもしれない。 

 早速剛力を付与したブレスレットと少し考えて跳躍付与のアンクレットをシラタマの分まで含めて二人分作ることにする。

 使う金属はもちろんファンタジー定番のオリハルコンで決まり、と言いたい所だったが、俺、見たことない……。

 と諦めかけたが、結果としてオリハルコンは普通に出来た。小説で読んでただけの魔法が付与出来るんだから、そりゃあ、オリハルコンも作れるよな。

 オリハルコンは黄色を帯びたイエローゴールドっぽい見た目の金属だった。それを鎖にして小粒だけど最高級のロードクロサイトを付ける。ネットで一度見ただけの燃えるような赤い宝石は上手く再現されていてとても綺麗だ。

 ちなみにロードクロサイトなんて珍しい宝石をわざわざ使ったのは、純粋にただただ綺麗だと思ったのとシラタマの瞳の色と似ていたからだ。俺はシラタマを飾るアクセサリーに手抜きはしない。

 そしてファイアボール付与のアクセは俺用に指輪、シラタマ用に首輪を用意した。

 指輪は適当に平打ちリング――いわゆるかまぼこ型で、シラタマの首輪はおしゃれで発色の良い赤い革を選んだ。肌に優しく柔らかく付け心地の良い高級素材を惜しげなく使う。


「よしっ、できたっ!」


 キラキラとしたアクセサリーが思っていた以上に出来が良くて、シラタマに装着しながらその可愛さにデレデレしてしまう。


「シラタマ、お試しするぞー」


「モヒュンッ」


 俺とシラタマは早速魔道具を試してみることにする。

 シラタマの気合を入れすぎて漏れた変な鳴き声が、すごくかわいくて和んだ。






「ファイアボールッ!」


 俺は片手を格好良く構えて叫ぶ。

 うん、俺、姿も声もすっごいイケテル。


 しかし、昂揚した気持ちは長続きしない。何故なら惚れ惚れするような見た目とは裏腹に、手の平から出たのはライターの炎のような小さなものだったからだ。


【種族特性として攻撃全般に才能がありません】


「……かなちゃん丁寧にありがとう」


 でも攻撃魔法がどうやっても使えない俺のファイアボールは、本当なら不発のはずじゃ?


【魔道具である指輪に極めて高濃度な魔力を注いだ結果、生活魔法の種火として誤作動しました。膨大な魔力の無駄遣いです】


「種火、無駄遣い……そっかぁ」


 遠い目になる俺の視界に少し離れた場所で身体よりも大きな火球を口から飛ばしまくっているシラタマの姿が入る。

 なんか、すごすぎてドン引くな……いやいや、ちゃんと褒めてやらないと……。


「え、えらいぞシラタマ。ちゃんと他の木が燃えないように気をつけられるなんてっ」


 何も無い空間を選んでいるとはいえ、火球を飛ばしまくりやばい生物兵器のようになっているシラタマに俺はびくびくしつつ頑張って声をかける。

 そ、そうだ俺の種火だってすごく役に立つはずだし、羨ましくなんてないのだ。


「俺のこれはファイアボールじゃなくてライターだ。ほらとっても便利なんだぞー」


「モヒッ」


 シラタマにキャンプにおけるライターの重要性を語っているうちに俺の心の傷はすっかり癒えた。

 うん、ライターって大事だよなっ。

 そしてやっぱり剛力と跳躍の効果もお察しの結果となった。

 誤差程度の力の向上しか見られなかった俺と比べて、シラタマは軽いパンチで大岩を砕き、三メートル程のジャンプで喜んでいる俺の横で、巨木の天辺に手が届く程の大ジャンプを見せた。


「おおぉ……シラタマ、す、すごいぞー」


 まぁ、俺の三メートルの跳躍だって十分すごいし、気にしてないしっ。


【もともとの身体能力が低すぎます】


 ……うん、そうだね。


 ちょびっと泣いた。



















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麗しの最弱神の甘い根っこ~知力も体力も勇気もやる気も全てない俺にとって愛され体質は邪魔でしかない~ ほやほや神様 @hukunohukuko

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