第17話 再戦は軽やかに

今回も、開幕はシャイルの投石によるものだった。

俺自身が指導したトルネード式のオーバースローから放たれる一投は、120キロくらい出ていたと思う。

見事に近い方のガーゴイルにヒットし、命中した個体だけでなく反対の門柱にいた方も反応。二体ともシャイルに殺到する。


「よっしゃ命中!片方は頼んだよ!」


叫びながらシャイルはダメージを与えた個体に突撃し、セナとマリーから距離を空けた。


「任せて!“魔衝撃マナ・インパクト”!」


すかさず、マリーが無傷の個体に攻撃魔法を炸裂させる。

“魔衝撃”は純魔術の中でももっとも威力の小さい攻撃で、その名の通り自然魔力マナを集めて直接目標に命中させる。術者が対象を認識できていれば必ず当たるのが利点である。


ちなみに、純魔術とは自然魔力や生命魔力オドを直接操作し、物理世界に影響を与える魔術系統を指す。火球や氷槍など、魔力を別の力に変換させる攻撃魔法は、それぞれ火炎魔術や氷雪魔術などの別系統に分類される。

アニエスも得意とする純魔術だが、魔力操作の精度次第で効果が大きく増減することから、使い勝手が良いとは言えず、使い手はあまり多くない。冒険においては、疲労や怪我などで集中できない環境というのも珍しくはないからだ。魔術学校などでも、より使い勝手の良い四属性魔法が主流とされている。


そんな純魔術であるが、マリーのように精緻な魔法陣を描く職人との相性は良いらしい。

“魔衝撃”によって攻撃を認識したガーゴイルは目標をマリーに変更し、2メートルほどの高度から飛来する。マリーにしてみれば、なかなかに恐ろしい光景だろう。


やはり支援サポートがないと危ないか。

そう考えいくつかの選択肢を思い浮かべるが、当のマリーは余裕綽々よゆうしゃくしゃくで次の呪文を唱えている。


「きゃはははは!怒った怒った!でもぉ……消えちゃいまーす!“魔力隠蔽マナ・クローク”!」


魔法が発動し、マリーの体が白っぽい半透明の膜で覆われた。

“魔力隠蔽”は対象の魔力が外から検知なる魔法だ。

検知しにくいというのがポイントで、全く見えなくなるというわけではない。だから、ガーゴイルなどの魔法生物やスケルトンなどのアンデッド相手に使っても、さほどの効果は得られない。

だが。


「“石礫ディンバット”!」


少し離れた場所から放たれたセナの攻撃が、ガーゴイルの背後を直撃すると、ガーゴイルはくるりとインメルマンターンを決めてセナを攻撃すべく方向転換した。与えられたダメージの大きさと、現在目標の魔力量の小ささから、脅威度判定を上書きしたのであろう。


「うわわ、こっち来たでシカ!マリー、頼むでシカ!」


セナはじりじりと下がりつつ盾を構える。

焦ったような動きをしているが、一度倒している相手だ。こちらは演技だろう。


「まっかせてー!“魔衝撃”!“魔衝撃”!“魔衝撃”!」


いかに弱い攻撃とはいえ、三連発を食らうと脅威度判定も書き変わるらしい。セナに向かって腕を振らんとしていたガーゴイルは、再び空中ターンを決めるとマリーへ向かって羽ばたいた。


「うわわわわ、怖い怖い顔が怖い!でもぉ……見えませーん!“魔力隠蔽”!」

「からの“岩礫ストーン・バレット”でシカ!」


こうなるともう、後は作業だ。

目標が変わるごとにヘイトを積み増ししていく必要があるため、永遠に続けられるわけではない。ただし、時間は十分に稼ぐことができている。


シャイルにカメラを向けると、良い感じで1体目が削られていた。ちらりと視線を感じたことから、自分にカメラが向くのを待っていた可能性すらある。すでに手の内を知った相手ならば、苦戦はしないということか。


「いやぁああああっ!!」


門柱を蹴ってガーゴイルの上を取り、棍棒一閃。

頭部を砕かれた魔動人形はただの石塊に戻り、動きを止めた。


3秒の残心の後、撃破を確信したシャイルは赤い影となって二人の元へはしる。

そのままの勢いでマリーに迫っていた個体に飛び蹴りを入れ、バランスを立て直す暇も与えずに両の棍棒を振るうと、それだけで2体目は動かなくなった。


「いぇーい!完全勝利!」

「結局、一発も貰わなかったでシカ」

「この天才まじゅつちの戦術あってのことね!」


ハイタッチを交わす三人。

自然と、画面の中心にはマリーが収まった。

またも「噛んでなんかいませんよ?」と目を泳がせる表情をアップで抜いてやる。


「しかし、よくもあんな作戦思いついたでシカね」

「名付けて『どーっちどっち作戦』よ!視聴者のみんなも、真似することを許可するわ!」

「使える状況が限られるから、周りをよく見て考えてから使ってね」

「たぶんガーゴイルとかゴーレムにしか通用しないでシカ」


確かに、この作戦はゴーレムのようにロジックで動いている人形にしか通用しない。

恐らく、あの手の人形は『今最も脅威度の高い敵』を内部ロジックで判断して優先順位をつけ、そのうち可能な目標から攻撃すると思われる。

その脅威度をこちらがコントロールすることで、相手に無駄な移動を強いて時間を稼いだりダメージを与えたりできるのだ。


これは、まさに今ゴーレム作成に取り組んでいるマリーだからこそ思いつくことのできた作戦と言えるだろう。


「でもマリー、この先はゾンビとスケルトンがうじゃうじゃいる庭園よ?この作戦は使えないわ」

「だーいじょうぶ!あたしは天才なんだから!」

「うーん、まあ幸いセナ達は無傷でシカ。中に入ってみるでシカ!」


あくまでも軽く、気楽な様子で三人は門を開き、庭園へと侵入していった。

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