第16話 魔法少女、デビューする

初登場の挨拶まで準備できているとあらば、後は見栄えを整えるだけだ。


「衣装と髪型だけど、まず衣装はその服装で良いか?着替えはさすがに用意していないぞ」


今日のマリーは、普段研究所で働いているときの格好だ。白いブラウスの上には、グレーをベースとしたブレザーとプリーツスカートの上下。足元は膝上まである紺のソックスにローファーを履いている。

何でも、ノーム族の高校に通っていた時の制服らしい。お嬢様高校だったらしいが、1年で飛び級卒業してしまったため、着足りないとか何とか言っていた。


当初は見ているだけの予定だったこともあり、かなり冒険者という職業を舐めた格好で出てきてしまった。そこが衣装っぽいと言えなくもないが、何かと不具合もある。


「衣装は、とりあえずこれで行くわ。魔術師だし、攻撃さえされなければ特に問題はないでしょ?」

「転んだら下着見えるから、特に今回は気を付けてくれよ」


スカートで行くなら、次からスパッツ的な下履装備きも用意する必要があるか。


「っ!? プロデューサー、やっぱり変態ね」

「どうしてそうなる」


今更ながらにスカートを押さえて顔を赤らめるが、俺はそんなものには興味はない。

ただ、キャラ的にはやっぱり縞パンであってほしくは思う。いや、どうでもいいんだが、一応な。


「なるべく高い位置から撮るようにするし、見えてしまったシーンは編集でカットする。だが使えないシーンが増えると勿体無いから、できるだけ気を付けてくれ」

「淡々と言われるのも、それはそれでムカつくんですけどー」


改めて見直すと、ブレザーの中学生女子が長杖ロングスタッフを両手に持って魔法を使うという構図になってしまった。現代日本人的には大アリだが、こちらでも受けるだろうか。


ともあれ、衣装が決まれば、最後は髪型だ。

マリーは、空色の髪を肩までストレートに伸ばしている。初めて会った時と比べると、若干伸びたかな。似合っていないこともないが、やはりここは個性を出していきたい。


「ちょっと、髪の毛いじらせてもらっても良いか?ツインテールを試したい」

「う……まあいいけど、あれって可愛いの?」

「マリー(のキャラ)に良く似合うと思う」


少しばかり口の悪いキャラにはツインテールという、日本人オタクが20年くらいかけて研究した黄金律がある。これまた異世界でも通じるかどうかはわからないが、わからないときはとりあえず基本に立ち返るべきだ。

決して個人的な趣味などでないことは強調しておく。


「えーそうかなー?子供っぽくて好きじゃないんだけどー」

「言うほどには嫌がってないように見えるでシカね」


ぱぱっと髪を整えて、手鏡で本人にも見せてやる。

確かに、この長さでは子供っぽさがあるかな。もう少し伸びて、胸の前に垂れるくらいになると、また印象も変わると思う。


「うん、可愛い可愛い」

「悪くないんじゃないでシカ?」

「えー、こんなことないよー」


チラッとこちらに視線を送ってくる。これは、褒めろというサインか。


「思った以上だ。これなら、アイドルとして申し分ないな」


俺の言葉は、どうやら正しい解答と受け止められたようだ。

「えー、そうですかー?」などと言いながら手鏡を覗き込み、角度や表情をあれこれと試している。


「よし、それじゃあ二人も準備してくれ。一旦全員に“浄化ピュリフィケーション”かけるぞ」


“浄化”は生活魔法と呼ばれ、この世界の住民ならほぼ誰でも使える魔法だ。ドワーフやノームでは小学1年生で習うらしい。とは言え、普通の“浄化”が身体の汚れのみを除去するのに対して、俺のバージョンはなぜか衣服の汚れも洗い流せる。アニエス曰く、術式の修飾子が独特らしい。


その後はいつも通り髪を整えメイクも行い、更に軽く水を含んで喉の調子も確かめる。

そうだ、忘れないうちに、マリーの胸元にもピンマイクを挿しておこう。


「髪よし、メイクよし、衣装よし。発声はいけるか?」

「あー!あー!よし、大丈夫!」

「セナも問題なしでシカ!」

「らーらーらー♪あたしーもーいけるわ~♪」

「お、おう。じゃあオープニングトーク始めるぞ?カメラ回します、3、2、1」


「はいっ!皆さんこんばんは!武芸百般、目指すは最強!赤毛の美人剣士シャイルと」

「輝く髪は乳白色、嫌いな言葉は非常食!?お肉ではありません一人の女の子として愛してください、ドルイドのセナでシカ!そして!?」

「幸運なヒトの子らよ、刮目するがいい!後に大天才と呼ばれる予定の美少女まじゅちゅし!マリー・エン・スミュールの活躍を!!」


勢いよく噛んだな。これも味ということで、カットはせずにカメラを回す。

「噛んでなんていませんけど?」という表情を必死に作るマリーの顔は、アップで抜いてやろう。


「実は今回から、可愛い新メンバーが加わったのよね」

「天才を自称しちゃう小娘の実力は、この後みんなに見てみてほしいでシカ!」

「おお、お初にお目にかかるわ!よろしく頼むわね!」

「まあ、天才とは言ってもまだまだ冒険者としては駆け出しなので」

「視聴者のみなさんも、温かく見守ってあげてほしいでシカ!」

「先輩たちの足を引っ張らないように、精一杯頑張るわ!みんな、応援してよね!」


つかみとしては、こんなところだろうか。

さあ、ガーゴイルとの第2回戦、始まりだ。



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