第18話 決着

「リンゲン会長よ。お主どんな権限があってとか言ったかの」


リンゲン会長の更に背後。倉庫街の闇の中から現れたのは、このスチールフロントの領主にしてサリオン通販の社長、ブレンサリオン・バーベンベルグその人だった。

ってこいつ、結構前から聞いてたな。


「なっ!?えっ!?領主ブレンサリオン!?」


さすがに領主の登場は想定していなかったらしく、リンゲン会長の顔にも動揺が走る。それはそうだ。俺も予定していなかった。


「そこのお主、この集団のリーダーのカイジュールだな。そっちにいるのは2番手のヘムジンか。商業神に仕える僧侶クレリックだったかの。他にも、ここにいる37人と別動隊6人の名前と顔は把握しておる」


領主に個人情報が割れている。

その事実を突きつけられ、転売屋集団の間にもざわめきが起きた。何人かは露骨に顔色が悪くなっている。


「お主ら、随分買い物を楽しんでいたようじゃの。それ自体は感謝する。儂らの通販事業は、遠からず冒険者カードを持たぬ者にも開放していく予定じゃ。その前に、できるだけ多くのものに買い物を利用してもらい、より良いものにしていきたい」

「ブ、ブレンサリオン領主、これは」

「じゃがな」


一瞬立ち直りかけたリンゲン会長の言葉を封じ込め、ブレンは言葉に力を込める。


「一部の者がよこしまな目的で私利私欲に走るとだな、全体の機能を制限したり、規制を設けたりしなければならなくなる。できる限りそれは避けたいんじゃ。多くの善良な者が割を食うからの」


ブレンの言いたいことはこうだ。

例えば、日本では救急車をタクシー代わりにする利用者が問題になったことがある。

全体から見るとごく少数であるにせよ、社会の医療リソースを食い潰す存在がいる以上、何らかの手は打たなければならない。仮にその対策として救急車が有料化された場合、何も悪くない一般市民はとばっちりを受けることになる。


「極めて遺憾じゃが、その一環として、今回の対アンデッドポーションは返品不可とさせていただいておる。商品詳細ページにも明記しておるので、もちろん承知の上で買っていただいたとは思うがの」


確かに、この文言は転売屋向けのページにのみ追加していた。特にわかりにくい場所に記載したというわけでもないが、転売の実行部隊は欲に目のくらんだ下っ端だ。この手の注意書きにまで気を配ることはないと踏んでいた。


「また、太陽教会との取り決めで、このポーションは一般の出品者による販売はできないこととした。教会の信用にきずをつけるわけにはいかんからの。通販サイトに出品してもページごと削除するから、そのつもりでいてくれ。……さて、何か言いたいことはあるかの?」


言いたいことは沢山あるだろう。だがブレンの圧に押され、誰も口を開くことができずにいる。


「なければ、リンゲン会長よ。お主はこれから儂の館に来てもらおう。令状が必要なら、今この場で書いてやるがどうじゃ?」


リンゲンくんの口は、これ以上ないくらい引きつっていた。

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