第19話 反省会

「結局、最後はブレン頼みだったな」


あれから3日後、俺はブレン・アニエスと俺は反省会デブリーフィングを開いていた。ここはブレンの執務室である。秘書さんの淹れてくれた紅茶が美味しい。

リンゲン会長も、冷静な議論をするならばまだ粘る余地はあっただろう。だが、自らが“権限”という言葉を口にしてしまった以上、この街に30年以上君臨してきた領主の登場はこの上なく効いたはずだ。


「あれで済むなら安いものじゃ。背後関係も見え始めたし、上々の締めと言えるじゃろう」

「しかし、どうしてブレンがあの場にいたんだ?俺もかなり驚いたんだけど」

「簡単よ。あなた達が出て行ったすぐ後、ブレンが研究室に来たの。面白そうだから儂も混ぜろって」


なるほど、アニエスが再びゲートを開いたのか。


「なんだよ、全然気付かなかった。もっと早く出てきてくれればいいのに」

「お主らだけで解決するなら、それでも良かったんじゃがの。苦戦しているようじゃったから、つい出しゃばってしまったわい」


とぼけるような口調でブレンは髭をしごいている。

やっぱりこいつ、政治家なんかやって性格悪くなったな。


「それで結局、3つの商会を繋ぐ線って何者だったんだ?それこそ有力な貴族くらいじゃないと無理だと思うんだが」


今回の計画には、リンゲン商会の他に2社が関わっていた。いずれも王都に本社を構える中堅以上の企業である。彼らに資金提供させ、倉庫を転売拠点として差し出させていた黒幕が存在するはずだ。そして、商業ギルドと冒険者ギルドでは、魔導ネットを通じてお互いにお金のやり取りが可能となっている。アニエスはその経路パスを使って3商会の資金流通経路を調べていた。


「これ、間違いなく巻き込むことになるけど、話した方が良いのよね?」

「リュートになら話しても良いが、聞いたら引き返せなくなるぞ?」

「え、なにそんなに怖い話?」


落ち着いて考えてみると王族でもあるブレンに対する敵対的行動を起こす黒幕だ。小物なはずがない。……あれ、これむしろお家騒動的な何かか?


「うーん、やっぱりやめ」

「ラードベン公爵。儂の伯父に当たる人じゃ」


確認したくせにがっつり被せてくるなよ。聞かせる気満々じゃないか。


「公爵は儂の次兄、アランサリオンの後見人でもある。おそらく、その筋からの横槍じゃろう」

「うん?どういうことだ?ブレンのお兄さんが弟の事業の邪魔をするのか?」


嫌な予感がするな。兄より優秀な弟は不要であるとか?


「お主にはまだ話しておらんかったな。なぜ儂が通信販売を始めようと思ったのかを」

「あー、確かに、突然ではあったな」


シンプルに地球の住環境が羨ましかっただけだと信じていたんだが、違ったのか。

そんな俺の心を見透かしたのか、アニエスが苦笑しながらこっちを見た。


「さすがに、思い付きでこんな大掛かりな事業は始められないわよ」


言われてみれば、その通りだけどさ。



ブレンはお茶を一気に飲み干すと、食器の片付けを理由に秘書さんを部屋から追い出した。


「おそらく5年以内に、王太子選定の儀が執り行われる」


立ち上がり、執務室の大窓から外を眺めながら再び語りだす。


「王太子?王位継承権第1位は長男のお兄さんじゃないのか?」

「それは、現国王に万が一の事態があった場合の、いわば暫定的な順序じゃな。我が王国では、国王が十全に責務を果たせなくなったと認めた時、自ら退位する伝統がある。現王もそれなりに高齢でな。そろそろ“その時期”なのではという噂は少し前からあったんじゃ」


なるほど。ややこしいな。

現王には何人かのお妃様から合計22人の子供を儲けている。ブレンはその末子だったはずだ。

初めて聞いたときはお家騒動にならないのかと心配したものだが、最初からこういう仕組みがあったのか。

あるいは、お家騒動になることが確定しているからこその奔放だったのかもしれない。


「そして……国王が自ら退位する際には、改めて自らの後継者を指名する。指名されたものは王太子となり、72日間の準備期間を経て即位するのじゃ。王太子候補としての資格は、現王の子であるという一点のみ。国王は候補者たちの素質を総合的に見定め、後継者指名をする」

「ブレンは、なりたいのか?次期国王に」

「……なる。ならねばならん」


ゆっくりと振り向いたブレンは、自らに言い聞かせるように頷いた。

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