第12話 ダンジョン攻略(2)

その後、撮影を開始した俺たちは順調に歩を進め、何事もなく第6層をクリアした。マップはわかっているし、俺自身も以前踏破したことのあるダンジョンだ。更に敵も格下のアンデッドとなると、こんなものだろう。

第7層は階段を下りた先に巨大な扉があり、その先が大聖堂と呼ばれる空間になっている。

中央奥には祭壇のような、というか実際祭壇として使われていたであろう構造物があり、その上には暗緑色に光る球体が浮かんでいた。


「あれが今回の冒険の最終目標、龍脈レイライン小窓・スフィアでシカね」


カメラの向こうで、セナは神妙な面持ちを見せている。


「あの球に触れると、龍脈への接続パスを開くことができるの?」

「触るだけじゃダメでシカ。セナも初めてなんでシカ、接続を確立するためには、自分の魔力回路を順応させる時間が必要と聞いているシカ」

「なるほど。それじゃ、こっそり行ってぱっと触る、みたいなズルはできないってわけね」


祭壇を囲むように、4体のグレータースケルトンが虚空を見つめている。それぞれの手には黒い刀身の大剣が握られており、いかにも強そうな風格だ。


「ふっふっふ、今までの常識ではその通りでシカ。でも、それも今日この瞬間に変わるのでシカ!」


半ばやけくそ気味にポーションの小瓶を取り出すと、きっちり太陽神のラベルをカメラに見える角度で説明を始める。


「この液体は?」

「これは太陽神様が新しく授けてくださった恵みでシカ。これを飲むと、30分ほどの間アンデッドから認識されなくなるシカ」

「ええっ!?今までの常識では、アンデッドは生物の魔力を感知するから……」


そこからやや茶番気味の商品紹介が続き、編集点を噛ませつつテイク3まで撮る。

そして、いよいよポーションを飲み干したセナが祭壇へ近づいた。


「さあ皆さんご覧ください!たった一人で祭壇に向かうはいたいけな一人の少女!普通ならばとっくにグレータースケルトンによって鹿肉にされている距離ですが、今のところ敵が反応する気配はありません!」


ノリノリでシャイルが煽ると、奥の方ではセナが振り返って何やら叫ぶような仕草を見せている。さすがに大声を出すわけにはいかないから、「聞こえてるでシカ!」とか何とかアピールしているのだろう。


「さあ、そのままそろりそろりと祭壇に近づき……これを守護するスケルトンは彼女に気付いていません!これはいけるか!?」


カメラをズームインすると、セナはスケルトンの少し手前で手のひらをふりふりしながら、本当に反応されないか確認したりしている。若干あざとさはあるが、遠目に見る分には十分に可愛らしい。


「今、レイライン・スフィアに手をかざしました!セナの魔力が流れ込みってまずいまずい!スケルトン反応してる!?」


セナが魔力を通し始め、球体が輝きだした瞬間、4体のグレータースケルトンが一斉に直立し、セナに顔を向けた。


「セナ!逃げて!」


叫びながらシャイルは剣を抜き、祭壇へ駆け出す。俺自身もカメラは二人が映る画角になるように調整しながら、いつでもサポートできるよう前へ出た。


「ぎぃぃぃぃやぁぁああああああああ!!」


セナ自身も本当に驚いたようで、普段は見せることのない表情でこちらに逃げてくる。ここで両手を上げて走ってくるくらいのコミカルさがあれば百点満点なのだが、訓練された戦士の動きで一直線に駆け抜け、シャイルと前後を交代した。ううむ、ここは心を鬼にしてリテイクも検討せねばなるまい。


前に出たシャイルは、2体のスケルトンの攻撃を同時に捌いている。さすがに、第6層でエルダーを一刀両断したようにはいかないか。

やや遠くにいた2体は回り込み、逃げたセナを追いかけていた。とはいえ最初から距離があったこともあり、若干の余裕ができている。


「セナ!足止スネアーめできる!?」

「ぜえ、ぜえ…‥まかせろでシカ!」


以心伝心、セナは自分に向かってくる2体ではなく、シャイルと切り結んでいる1体へスネアーの魔法を放つ。期待通りの効果が発揮され、地面から盛り上がった土がグレータースケルトンの足を拘束した。


「ナイス!天才!」


シャイルはすかさず止まった1体から距離を取り、1on1に持ち込んだところで最初の1体を撃破する。次いで足元の石を拾い、セナを追いかけているうちの1体に投げつけた。

こうなると、後はシャイルが1体ずつ始末していくだけだ。俺が助けに入る必要もないだろう。

シャイルの敵意に引き寄せられた個体を斃したところで最初のスネアーが解除されるが、これも数合のうちに問題なく破壊する。向こうでは、やはりスネアーで拘束した最後の1体に向けて、セナが火弾を連射していた。


「おつかれー!いやあ、危なかったねえ!」


程よいスリルを楽しめたのか、破顔したシャイルがセナとハイタッチする。


「あの時は心臓が飛び出たでシカ。マジ恐怖だったでシカよ」

「時間以外でポーション効果が切れる条件は、『1. こちらから攻撃する』『2. 一定範囲内に近づく』の他に、『3. レイライン・スフィアに魔力を通す』があったというわけね」

「何それ、激レアケースでシカ」

「根本原因は他にある気がするわね。この動画を見ている冒険者さんは、効果を過信せずに安全マージンを確保しながらご利用ください!」

「めちゃくちゃ便利だけど、思わぬところで効果が切れると本気で寿命が縮むのでシカ!」


いい感じにまとまったところで、俺はあらかじめ決めていた動画の締めに移るよう指示を出した。


「そう言えば、このボールは光りっぱなしなの?」

「いや、しばらくしたら勝手に消えるらしいシカ」

「じゃあ、せっかくだから光っているうちに記念撮影しておこうか」


カメラの中では二人が大きな太陽神ハート紋章マークを作るように体を傾けている。身長差があるのでデコボコした感じは否めないが、二人の笑顔が些細なことなど吹き飛ばしていた。


「“堕落逆塔フォールン”のこうりゃくー」

「「だーいせーいこー!!」」


若干の想定外もあったが、今回の冒険も無事終えることができた。ようやくセナの魔力引き上げも実現できたし、何気にグレータースケルトンが持っていた大剣は冒険者間でもそこそこ需要がある品だ。サイン入りで販売することで、彼女らへの良い臨時ボーナスになるだろう。あ、でもこれも、転売目的で買われることのないようにしないとな。

俺は冒険者から商売人に思考を切り替えつつ、帰り支度を始めるのだった。

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