沈思黙考

 家に帰ってみると、ミーは朝のぐったりとした様子が嘘のようにピンピンとしていた。

 皿に餌を盛ってやるといつもより勢いよくほおばり、食事が終われば「かまえ」とばかりにアラトにまとわりついてくる。


 鞄を部屋に置き、ミーのえさの片づけをしたところで力尽きてしまったアラトは、ソファに寝転がったまま、体の上に乗り、絡みついてくる猫を腕で弄びながら大きなため息をついた。


「ごめんな、ミー。俺のせいでお前の……かは分かんないけど、お母さん? お父さん? 悪いことしたなあ……ほんと」

 あのままあそこにいなければ、あの場からさっさと追い払ってやればと、そんなことばかりずっと考えてしまっている。


 アラトとミーの他には誰もいない静かな部屋では、ミーの暴れる音と時折漏らす鳴き声が妙に大きく響く。

 その静寂の中では嫌でも思考が巡ってしまう。


「追い払っても、同じことだったのかな。襲われたかも、か? でも、やっぱり……」

 日が暮れてきたらしく、窓から指す光はどんどんと弱くなり、時がたつほどに部屋は暗くなる。


 そんな中でぽつりぽつりと動物、いや怪獣相手に一人で話しているのは異常で、滑稽なことだと思う。

 それでも、そうして何かを吐き出さずにはいられない。


 思えば、こうして自分の心情を誰かに吐露するのは、随分と久しぶりのことだった。

 たとえその相手が人間でなくても。


 そうか、自分は今、ミーに甘えているのだ。鬱々とした気分の中、アラトは、こんな時いつもなら大暴れしているはずの胃腸が、妙に静かなことに気が付いた。

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