第3話:モテる男の悩み

 それから数日後。桜は中庭で女子生徒と話す和希を見つけた。思わず、隠れながら会話が聞こえる距離まで近づく。


「私、安藤くんが好きです。付き合ってください」


 そう言って勢いよく頭を下げて手を差し出す女子生徒。和希は静かに「ごめんなさい」と答えた。女子生徒は腕だけ下げて、顔はあげないまま「だよね」と呟いた。そして涙声でお礼を言って去っていく。


(……失恋って、こんなあっさりなんや)


 去っていく女子生徒の後ろ姿を見て、桜は心を痛めた。そして和希を見る。彼は俯いたまま動かない。


「……冬島さん、盗み見は良くないよ」


 冷たい声で話しかけられ、桜は思わず悲鳴を上げて飛び跳ねた。そして恐る恐る物陰から顔を出す。


「……ごめんなさい」


「……ん。いいよ。許してあげる」


 そう言って和希はどこか寂しげに笑う。桜は心配になり、彼に近づいた。


「……なんか、あったんですか?」


「……告白を断るのって、好きじゃないんだ。フラれて泣きながら去っていく子を見ると、どうしても罪悪感があって。…… たまに『あの子の告白を断るなんて勿体無い』とか言う人も出てくるし。……どうしてみんな、そんなにも恋愛を押し付けたがるんだろうね」


 ため息を吐きながら、和希はベンチに座った。桜はその隣に座り、彼の愚痴を黙って聞いた。


「……モテる男は大変ですね」


「……こうやって愚痴ると嫌味だって言われるしね」


 モテることは否定しないんだと、桜は苦笑いすると同時に、彼ほどとなると謙遜する方が嫌味っぽくなるのかも知れないなとも思った。


「嫌味やなんて思いません」


「……ありがとう。冬島さん」


「……いえ」


 恋心を抱いていることを告白したら、彼はどう思うのだろうかと、桜は一瞬だけ考える。しかし、伝えないという選択肢はどうしても選べなかった。

 もしフラれたとしても、せめて、罪悪感を抱かせてしまわないように泣かないようにしよう。桜はそう決意した。

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