第-㊅話┃お前はもう戻らないのか? 1.少年の【理の力】……!!



「やっぱり、お前がここで俺がくるのを待っていたのは、わかっていた……」


 童は見た。妙然のりきとは異なる凄まじき【ことわりちから】を。白拇の側からは真冬のような冷えた衝風が【暗黒の『妙然気みょうぜんき』】として表れては吹き荒れ、駅舎内のあらゆる物質を身悶えさせている。


 ……その白拇の側から、駅舎のなかへと入ってくる猛烈な風により、車庫内で停留している「ゴンガタ!!!」と揺れてるのか・身震いしているのか。それらこの駅から発車しない、機関車トー○スたちは………、はっきり言って登場、せんわ!!!


 ………しーーーん………。


 外で停まっている『機関車』はものの見事に鉄道路線の端まで弾き追い込まられ、最終的に「列車一台だけ旅行」空へ向かって何処かに飛んでいった………。


 一切をお里が知れるのを避けるもかくや、口元が裂けるかのような恐ろしげな顔つきで、暗闇から白拇の現在の姿が現れ始める。

 童は少年を一瞥いちべつするが。幻怪な光を以前に纏っていた少年の身体は、今となっては闇とまるで共同体のようだ。


「でもあれあれ〜。俺はもうお前ら『あの地方の藩』から背いて【ことわり】へ足を入れたことによって、胸中はもう死んだかとは思ってはいたけど、流石はかつて蛮勇と呼ばれてたことだけはあるようだね〜」


 白拇はまるで嘲笑するかのような姿勢を童へと見せる。少年はもうあたかも何もかもを悟ってしまっているようだ。

 太陽の光を浴びて暴れない巨木の根元で。童の隣、いついかなるときも。さらさら・キラキラとあの頃変わらずに輝きなびいていた、透き通るような純白色の髪。あの頃の光景を、決して童は忘れ去ることなどない、出来ないのだ。

 顔つきルックスは、鼻筋の整ったこの世界でも稀な、絶世の美少年。

 だがその白妙はくみょうの素肌・キューティクル毛髪の外側も、灰色がかったように薄暗く、煌めくことは皆目ない………ストレスとかとは特に関係ないからね………黒の死装束を身にまとった姿は、戦慄を。予期させる。


 その変わり果てた少年の様相を受けて、更なる失意、これはもはやミジンコの息か………にまで陥っていた童……であったが、

 久しぶりに触れた、西日差すような共に在りし日。暖けけり甦りし心慰む。郷愁の『大気系の持ち技』には、おののき感化された。

 闘気は何度甦るのか。

 項垂れていた身体を「ぐるん」と体勢を前へと持っていき、烈度は瞳が〖みつめる先〗、白拇へと捉え。対等に戦える構えを彼は『魂』、に『焔』を。再び灯らそうとしては……とり始めた。


「お前の……『ことわり』の力で。……炬宵燈こよいとうの聖なる炎は……、白拇! お前は何故そこまで堕ちた!? だがなあ、あの日から。お前を陽の光に戻すまでは絶対に、俺は絶望し、くたばるかと。決めているんだ!」


【魔ノ理】……。それは、この世界『是空界ぜくうかい』のありとあらゆる【闇】と〖光〗をも獲り込み、その者たちはこの世界の全てを翳り操るもくろみを有し、何処かへと潜み存在している。

 自分の決意を白拇に向けて叫び散らかした。だがその想いが、言葉の意とは異なる「よし」であったとしても。童は、気づかない、気づけない。

 

 戦いの場面から、シーンを〔しーーー………んン??〕展開してみることとしよう。白拇伝いに設置されている、童が立つ足元でしくも踏まれている「小我しょうが」の鉄路レール。少しづつ童に迫る【魔の闇】それに触れると物質の原子レベル水準で、路線ルートは侵蝕され、そして変異。吸収されていく……『鉄製の金属』も用途・使う手立ては、魔ノ理にはあるのだろうか。

 この駅のプラットホームの乏し気な灯りは、童との会話の最中で少年の口角が時折うわがると、一つ、また一つ。いわば吹き飛ぶかのように。その灯火たちは、消えていく…………。


 童は、さながら自分の身体に妙然の力いっぱいを、もってめいすべし。全身へと満なぎらす。そして白拇とのタイマン〔鯛マン………??!〕のなかでその駆け引きは拮抗し成り得ていると思っていたはずだった、……しかし。


「……墓穴を踏まないように今更になって、看破され・手玉にとられないように『魂』をも閉ざしたな、堕落者が」。


 また戦意損失しかねないほどの実情は、執拗なほど「切ない哀しさ」で酷くあふれてはいる。

 白拇との対峙からここに来るまで、彼は『魂心世界の妙然のりき』を何度もみなぎらせてきた。身体もそうだが、少年へとすがるその疲弊した魂を、見抜かれないように。いくつかある「魂の抜け穴の扉」もその妙然で胸の奥を塞いだ。

 だが白拇のも誤魔化しは効かない、意中を貫かれて盗み見る機会を与えてしまう。

 だが、彼の感情は、悔しげなのか・哀しげなのか!! それとも……? 


「堕ちたんじゃない、俺は悪魔で進化を選んだんだよ。そんなことも分からないのか、ボケ猿如きが。……ただ、そうだったねえ〜〜『』を。お前はものの見事に破り切って、燃やし。捨てたんだ」


「そうではあってもだ。お前に犯してしまった過ちはもう、重罪とも言える、言えるよ。ここでお前を救うことこそ償いのためになると。今俺がせめてお前に出来る、ことを。……もう、お前は本当に戻らないのか! 頼むよ。お前にもまだ真誠にある、心のなかの心『魂神世界こんしんせかい』も。今一度だけでいいから、みつめ直してくれよ……」。


 童も、また少年も同様「約束」と【憎しみ】とも絡み合う『宙ノ理』……「あの約束」とはいったいどんなものだったのだろうか。その白拇の怨恨は、即ち過去の二人の「脆すぎた約束」により「ひび」が生まれ、いくつもの絡み合う混沌から「割れ、砕け散り」もはや……。そこから端を発した【ある因縁】に。他ならない。

 もう、永久とわからになってしまうのか……。白拇の魂心世界の〖光の雫〗は……。

 きつねつきのような誇大妄想まで働かす童は……ここで力尽きたとしても決死て忘れることはない。まだ希望の欠片は、ある!!

 この今の戦いの最中であっても、何度も自分の魂心世界に確かに鎮めてある〖光は目の前の先に必ずあるから』、『あの方』から聴かされた教え。童は『心で』なんどもみつめては、振り返る。


 だが、只の【仇】を疎んずる白拇の眼差しは、それ相応に白眼視はくがんしである。


「何だ、逃げ腰侍にでもなるつもりか? ああ、でもお前はそれはそれは、俺が今手に掴んでいる力に屈服し怖気ずき、脇目も振らずにみじめにとんずらしても。もう道半ばでくたばるだけらしいし、魂にやわな結界を張っても無意味でしたね~~『人属にんぞく』の失格者めが!!」


「『魂神世界』の結界の障壁も、容易に破くことが可能なりきも手にしたか。俺は『あの日』から必死になって精度を磨いてきた対お前用の結界術だったんだけどな……」


 童は知識力も豊富な賢者の結界術には無論辿り着くことはない。元々その才能は彼にはない。


「『魂』にすら結界を張っても、生身の体勢がおろそかになるリスクも伴う今のお前には『ことさら関係ない』ことか。もうお前の理性も・愚かな道徳観も・腐り切った、只その惨めな臭いものには蓋をする働きすらも。効力も存在する意義など何ひとつとしてない。それから……元に戻らない紺鼠色の『頭』もな。いつまでも・どこまでも。とんだ【馬鹿正直な純粋悪】だねーー、ハハハハッ」


《胸中も自身の愚かな不始末で破られてしまったが、せめてもの想いは伝わって欲しいから、この場、寸前の「もう帰ろう」との言葉を『魂にも』何度か喋ってみたものの。そんなありふれた・小手先の・カス同然・ピタリとも俺の【魂の型】にははまらない、響くこともない……のだからその連れ戻す力量もこいつは‼ ないようだねー》。


 一瞬ピクリと口を動かすのをやめた少年。童は少年が何らかの術をまたしかけたのではないかと意味ありげに再三焦る。

 白拇は童の魂心世界を、魔ノ理で蝕まれ新たに生まれ変わろうとしている自身の魂心世界を通して覗いては思考する。


《それはそうと、只々解ってもらいたいと願う自己中心的でわがままな考えがこいつの特性だったな。……フフッ。それがこいつという存在の「哀れ」をかたち作っているのか。いつの頃からだっけか。この「魂の性格」は今に始まったことではない。だけどその詳細は、全くもって知らないけどな!》


 どうやら童の過去の記憶までは、少年の【眼】をもってしても、その目で眺めることは不可能らしい。


「今となっては俺こそが、憎悪の誓いをドス黒くも心の胸奥にえぐりり返り刻み込んだ!! お前が俺にすがることなぞ、無様ぶざまさをただ露呈するだけのことだ!」


「……、俺はまだ、戦える!! 無様でもすがってでも何でだっていい! 何度でも立ち向かい、挑み続けるんだ!! お前をとり戻すまでは。それが今の俺だ!」




 良くよくありふれた晴天の日々だった。その季節のまたたきの移ろうなかで、切磋琢磨し、白拇。童。どちらも喜々しあい、どちらかは真実のまま、傍にいてくれる人を愛していた。……いつまでも、永遠に……。確かに生涯の友であった筈の二人。

 あの輝やかしい日々を童は忘れたことはなかった。そしてこの時もひしと抱きしめている。童の下衣の懐には、幼き日の二人が笑顔で肩を組む、白黒写真が御守り袋のなかにしっかりと、ひそかに同封されている。


 しかしながら童は、この時自分に嘘をついていた。憂愁の白拇の瞳に彼の記憶のなかの二人。幼子だった時代、二人して寝転んだ満天の夜空の星々の想い出も。白拇の方から自分の魂心世界を通じ写し辿って、わかってもらいたい。

 今となっては本来なら、脆弱な彼の魂を白拇に悟られないように、妙然の結界を心奥に隅から隅まで張るべきを、その切なる想いが先をいってしまい、結界術の精度を無意識にでも落としてしまっていることに。

 しかしそんなことこの激闘のなかであっても彼にはどちらでもよかった。この日、少年へと渡したい、書きとめていた手紙が童にはあったのだ。


【もうすぐ、俺は……消える。だから、さよなら……】

 白拇へと泣きながらに記した、今生の遺書も。御守り袋なかに、また、共に。



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