第4話 野に放たれたS級冒険者は新米回復術師を救う
王都で一番の高級ホテルで一晩を過ごした俺は、パーティを追放された悲しみをたっぷりの湯舟で洗い流してすっきり爽快……とまではいかず。
流石にそこまでまだ立ち直れていないので、街をぶらついて散財してストレス発散でもしようかと思い立ち、冒険者用の装備や雑貨を取り扱っている商店街にやってきた。
露店の怪しい魔道具らしきものを眺めて試しに買って使ってみるかとアホなことを考えてみたり、屋台の串焼き肉を全種類買って味比べをしながら歩き回る。
これだけでもそこそこ楽しいのだが、ストレス発散にはもっと豪遊したいよなあ。
裏町にでも行って娼館で遊ぶことも考えたが、昨日ランに気持ち悪がられたショックでどうにもそっちの元気も出ない。
さて、どうするかと適当に入った雑貨屋でポーションを眺めながら串焼き肉を食べていると――
「はぁ~、折角珍しい回復術師を仲間に出来たと思ったのに結局ポーションを買わないといけないとか、無駄な出費だよなあ」
「本当にそれだよな。こいつがもっと回復魔術を使えればポーションなんていらないのに。すーぐ魔力切れで使い物にならなくなるし、むしろお荷物じゃねーか」
「……ごめん、なさい」
――なんだか聞き捨てならない言葉が聞こえる。
どうやら、買い物に来ていた若い冒険者のパーティらしいが、前衛職らしき二人の男と、彼らより頭一つ分小さいみすぼらしいローブを着た少女が揉めているようだ。
回復魔術というのは攻撃魔術を扱う魔術師と反対の属性であり、どういう訳か使い手は少ない。
そんな少ない回復術師は大抵が国に雇われるか診療所を開いたりして稼ぐことができるのでわざわざ冒険者になる者は少ない。
つまり、パーティに回復術師が加入しているなんてとんでもない幸運であり、普通は回復術師なしでポーション頼りでダンジョンアタックをする。
そんな回復術師は本来ならそれなりの経験のある指導者が根気を入れて育成してやらなければならない宝物だというのに、どうやらあの少女はパーティ内であまりいい扱いをされていないらしい。
「村を出るときにお前がどうしてもついて来たいって言うから仲間に入れたんだぜ。それなのにお前はダンジョンに入ってもたった二、三回ヒールの魔術を使ったら魔術が使えなくなる」
「本当にそれだよ。それでアタック報酬の分配までしてやってるんだから本当にお荷物だよ。お前もうパーティ抜けた方がいいんじゃねーの?」
「ごめん……なさい……」
ローブのフードを目深に被っているため少女の顔は見えないが、少年たちに責め立てられて声が震えているのが分かる。
泣いているのかもしれない。
だが、彼らは見たこともない連中だし、どこかのクランのメンバーなら面倒なことになるかもしれない。
それに、俺がでしゃばったところで、またフレイやランのように気持ち悪がられてしまうかもしれない。
「お前さ、俺のこと好きなんだろ? だから村から出るときについてきたんだろ? その割にはヤらせてもくれないし、ダンジョンじゃお荷物。もうさ、そんなんじゃ面倒見きれないぜ?」
「本当にそ……え? ヨルハ、バルドのこと好きだったの!? 俺のことが好きだったんじゃねーの!?」
「うっ……そ、それは、だって……わたし……」
おいおい、お前らまだ毛も生えそろってなさそうな年の癖になんてマセてんだ。
というかヤるのが目的でこんな小さな子を村から連れ出してきたのかよ。
「わたしは……バルドのことは強くてかっこいいなって憧れてるけど……マールのことだって友達だって思ってるし大好きだよ。ダンジョンアタックだってこれからも頑張るから……ごめんなさい」
「だーかーらー、ダンジョンじゃあ役になんて立たないんだからさー、相手して欲しいんだったらしてやるからお前はどっかの治療院にでも行って金稼いでこいよ。お前じゃダンジョンなんて無理無理ムリのムリだよ」
「本当にそれいいじゃん。バルドの言う通り、ダンジョンじゃヨルハは稼げないんだからどっかで雇って貰えよ。そんで一流の回復術師になったらまた仲間に入れてやるからよ」
「え……それって」
「クビだよ。マールもそれでいいだろ?」
「本当にそれでいいと思うわ」
え、クビにすんの!?
回復術師クビにするとかアホなの!?
ついつい気になって串焼き肉食いながら聞き耳立てちゃってたけど、そりゃないだろ。
そりゃあこんな小さな女の子だし、安全に治療院で働けるならいいだろうけど、結構難しいんだぞ。
国に仕えるにはコネがいるし、治療院だって育成が大変だから余裕のあるところは少ない。
彼らの話を聞く限りじゃどこかの田舎から出てきたらしいけど、そもそも余裕のある大手の治療院が王都で身分がはっきりしてない者を雇ってくれるかはまた別だ。
しかもそれがうまくいったとして、修行中じゃ大した給金は出ないし、出たとしてもそれを持ってこいつらに渡して挙句に手籠めにしようだと――?
「わたし、がんばるから、がんばるから捨てないで……」
「そんなこと言ってもなあ、マール?」
「本当それだよなあ。ヨルハが働いてくれたら新しい装備買えるかもしれないし」
「ぐすっ」と少女が鼻を啜る音が聞こえた。
もういいか。
こいつらが他のクランに所属してるかもしれないとか、気持ち悪がられるかもしれないとか、もういいか。
だって俺、野良じゃん。
野良でソロの自由な冒険者じゃん。
「なあ、お前ら」
俺はバルドとマールとかいう冒険者たちに声を掛ける。
「あん? なんだおっさん」
「本当におっさんじゃん。なんだよ」
振り返って早々に人のことをおっさん呼ばわりとかふざけたガキどもだ。
相手が俺じゃなけりゃ、ベテラン冒険者相手にそんな口利いたら殺されても文句言えないぜ?
「俺はまだ23だボケェ――!!」
「ぐぶぉあ」
「ふぐぅあ」
ヒヨっ子には何が起きたかすら理解できなかっただろう速度で繰り出された俺の正論パンチがバルドとマールの頬をぶん殴り、二人は殴られた勢いで雑貨屋の外まで吹き飛ばされて呻いている。
「お前らみたいな回復術師の……いや、女の子のことを大切に思えねえヤツが冒険者名乗るのなんざ十年早いんだよ! 治療院にでも行って砕けた顎の骨と性根を治して来いクソ野郎!」
さすがに殺すつもりはなかったので手加減はしたが、回復術師の有難みを教えてやるために顎の骨を砕いてやったので、バルドとマールはうまく言葉が発せず「ひぃひぃ」とか「ぐぁぐぁ」とかわめき散らし、ふらつく足でなんとか立ち上がってよちよちと去って行った。
「すまん。堪えきれずに手が出た」
取り残された少女に頭を下げる。
「……」
少女は怯えて震えているのか、少し間を置いてから言葉を発した。
「……かっこいい」
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