第3話 【黎明の剣】脱退

 C級ダンジョンを攻略して王都ブロンディアに辿り着いた頃にはすっかり日が沈んでいた。


 馴染みの守衛に適当に挨拶を交わして城門を潜り、賑やかな夜の王都の喧騒が楽しそうだなぁ、なんてうつつを抜かしながらしばらく。


 クランハウスにたどり着いた俺は真っ直ぐに事務室へ向かう。


「アルメスだ。誰かいるか」


 事務室のドアをノックしながら声を掛けると、バタバタと室内から慌てたような音がして騒がしいなあ、なんて思っていたら目の前のドアが勢いよく開いた。


「アルメスさん!! お待ちしてたんですよ!」

「なんだよ、大歓迎じゃないの」

「いいから! はやく入って下さい!」


 クランの事務員の剣幕に負けて室内に入ると、背後からガチャリと鍵を閉めた音がする。

 人払いだろうか。


「とりあえず座っていいか?」

「どうぞ、じっくり話を聞かせてもらわないといけませんからね」


 こっちはじっくり聞かせるような話はないんだけどな。


 ともかく、俺と事務員——女性で名前は忘れた——は向かい合って椅子に座る。


「もう話はラッシュたちから聞いてるんだろ? 俺はパーティをクビになったからクランをやめるよ。今回のダンジョン探索の儲けは配分が必要か? 辞めるならクランに売買を任せると手間だろう?」


 通常の冒険者はパーティを組み、さらには複数パーティ合同のレイドという合同パーティのようなものを組んで活動する。


 クランはそれを円滑に行えるように組織された冒険者の集まりで、探索に出る戦闘員のほかにも事務員やハウスを管理する人材を雇っている。


 事務員の仕事は冒険者が持ち帰った宝物の売買、そして冒険者への給料としての配分やクラン運営費の運用などがある。


 簡単に言うと、今回のダンジョン探索で得た宝物の売買をクランに任せると俺はまたこのクランに脚を運ばないといけなくなるので面倒。

 ギルドでも買取はしてくれるから野良ならそっちでやったほうが手早いしクランの取り分がないので少し儲かるって話だ。


「ラッシュさんたちからアルメスさん脱退の話は聞いてましたけどクラン脱退!? そんな話は聞いてませんよ! そんなの認められるわけないじゃないですか!」


「このクランの規則じゃ脱退できないのはクランに借金がある場合や罰則を受けてる場合だろ。俺はその両方をクリアしてるから問題ないよ。そんなことより売買のことはどうなの?」


「た、たしかにルールはそうですけど! ほ、ほかのパーティに加入する気はないんですか!? アルメスさんならどこのパーティにだって入れるじゃないですか! ……あと、本気でクラン抜けるつもりなら売買はギルドでいいと思います」


 ほかのパーティなあ。

 大手クランなだけあってかなりのパーティが所属しているが、俺ってもう殆どのやつと組んだことあるし、そのパーティってもう仕上がってるんだよなあ。


 今は団長たちのパーティは遠征で不在だし、面白そうなヤツはいねーな。


 うん、やっぱ久しぶりに野良で適当にいろんなダンジョンに遊びに行こう!


「よし、ルールに問題がないなら早速手続きしてれ」

「少しは悩んで下さいよぅ……団長たちがいない間にS級のアルメスさんが脱退したなんて知られたら私は一体……」


 ガックリと項垂れる事務員さんには申し訳ないが、団長たちが戻ってきたって事務員さんが責められることはないと思うけどね。


 そして差し出された書類にサインをして無事にラッシュのパーティとクラン脱退が正式に決まる。

 事務員さんが終始目が死んでたけど目的達成。


 クランハウスの自室を明け渡すために一度部屋に戻って指輪に付与した収納魔法【マジックルーム】を展開。

 私物を適当に放り込んでからクランハウスを後にする。


 次の目的地はギルドだ。

 これからは探索で見つけた宝やアイテムの販売をクランでしてもらえなくなるので、俺のような野良冒険者の収集品の買取をしてくれる大事な場所だ。


 ギルドに着いてすぐに受付でS級の冒険者カードを提示すると個室に案内される。


「はじめまして、今回アルメス様の担当官に選ばれましたレイチェルと申します」


 ブラウンの長髪にギルドの制帽。

 真面目なお姉さんタイプといった感じの女性が俺の担当官らしい。


「はしめましてレイチェルさん。俺はアルメスだ。クランを抜けたばかりでね、今日から世話になる。まずは買取を頼むよ」


「承知しました。買取のお品はどのようなものですか?」


 レイチェルに尋ねられて【マジックルーム】を展開し、ダンジョンボスから盗ってきた巨大な戦斧や槍や剣などのドロップ品を個室のゆかに出していく。


 道中の雑魚敵は無視してきたのでこんなものだろう。


「これは……すごいですね。アシュラタウロスの……しかもエンチャントまでされているなんて。どれもレリック級の逸品です!」


 ボスドロップの品を見てレイチェルは目を丸くしていた。


「査定は急がないから金額が決まったら教えてくれるか? 実はこれから宿を探しに行かなくちゃいけなくてね」


「……は、はい!! これはとんでもない値段が付きますよ……金貨何十いや、百は……」


 レイチェルはなんだかぶつぶつ独り言を始めてしまったけど了承は貰ったからまあいいか。


 さて、次は新しい拠点になる家探しだな。

 といっても当面は宿屋暮らしだろうけど、せっかくだから王都一のホテルにでも行ってみますか!

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