第31話 上司って、PDCって

「ビールをご馳走になっているからっていうわけではないんですが…」

 ちょっと声を落として、めずらしく視線ははずして、というか、あきらかにニラタマの残りを見ながら、ガブちゃんはつぶやいた。


「みなさんの世界でよくPDCって使いますよね。プラン、ドゥ、チェック…」

 嫌っていうほどこっちも上司に言われているよ。耳が痛くなるほどにね。でも、ガブちゃん何を言いたいの?


「私、ガブちゃんにこういった指示、みなさんに幸運を授けて…という指示を出されている上司は今、お休み中です」


 う~ん…、話がよく繋がらないがなにか狙いがあるんだろう。

それにそうだ、上司…? 上司って誰さ? ガブちゃん、話の腰を折られるととまどいそうだから訊かないけれど…。


「休暇中…、そうなの?」


「はい、休憩中と言ったほうがいいですね。バカンスに行っているわけではありませんから…。ですが本当は体力もずばぬけていて、何もなければ偉大で丈夫ですばらしい上司です。ただ、なんていったって今回はすごいことしましたからね…」


 すごいこと…?


「ご存知ですよね、小杉さんは…。いわゆる”天地創造”ってやつ。そのころから働いている同僚の話だと、あの方が休息をとるくらい、そりゃあすっごい、すっごい仕事だったそうですよ…。きっと今だったら…、ドキュメント番組とか作れちゃうな…、映画になっちゃたりして…。その時は天使の役やりたいな~」


 てんちそうぞう、天地創造って言ったよな…、あの天地創造だよね、他にこんな同音の言葉はないよ。


「あのさ…、いいかな…。その、天地創造をして休憩中なのが、ガブちゃんの…」

「はい、上司です」


 ふつうに応えたよ、それに、

「それがいわゆるD、ドゥですね」

 簡単に続けるよ、ちょっと…、生物を驚かさないでよ…。すこし落ち着かせて…。


「どうしました? 小杉さん、飲み過ぎましたか? 安心してください、まだ幸運の継続中ですから大丈夫です。明日はすっきり快調です!」


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