第32話 推測ですよ

「大丈夫だよ、ガブちゃん…、でもちょっと考えさせて…」


「ハイ!ビール頼んでもいいですか?」

 僕は返事をする変わりにうなずいた。ちょっと考えさせてよ。


 ドゥ…ね…。PDCのDが天地創造…、壮大で、だけど身近なお話。


 天地創造の実行者っていえば、そう、神様…。あ…、そうなの?、そうなんだ…。

天使って言うぐらいだから神様のお使いなんだろうけれど、居酒屋でビール飲んでいるこの目の前の男が、神様の直接のお使いなの…?そうなの…、なんかな…。


 もっと、中間管理層がいると思ったけれど、もっと神様って上の上の、そのまた上って感じだったけれど…。

 そうなんだね、ガブちゃん。ガブちゃんもすごいんだね。


 で…、PDCのDが天地創造なのはわかったよ。上司もわかったよ。


だけどPってなにさ? 

Cってなんなんだよ。

 それに訊いているのはこの幸運を授けられる目的だよ。そこまで一挙に訊くと混乱しそうだから、こんな質問でいいかな…


「それで、そのPDCがガブちゃんの仕事とどう結びつくのかな?」

いつの間にかガブちゃんの手元には新しいジョッキが来ていた。


「すぐにこれ来ました、お礼を言う前にもう飲んでます。真剣に考えられていたようなので…」

「ああ、いいよ…」

 いいよ、好きなだけ飲んでいいよ。だけど解説だけは忘れないでよね。


「上司には、先ほどの命令を実行して、その経過を報告しています…」

「幸運を授けて、継続するかどうか…」

「そうです、その通りです」

 それだけのようだ、本当に。

「それがなんなの…?」

 ガブちゃん、急に目が真剣になった。


「推測です、あくまで推測ですが、同僚なんかとはこう考えています」


 そして、手をジョッキから離し、テーブルで見えないが、膝に置いたようだ。


「C、チェックなんじゃないかと…。生物全般を対象とするチェックだと思っています」

 そう言うと、なぜかガブちゃん、上をしばらく向いた後、こんなふうに続けた。


「推測すること自体、非常におそれおおいことですが、おそらく合っているんじゃないかと思います。チェックです、僕らの仕事は…」


 その後、またあの天使の微笑を僕に見せた

なんだ? ガブちゃん、どうした?

「上司はほとんど何も言いません。報告書をもっとこうしろとか、幸運の授け方とか、なにもいいません」

うん…。


「ということは、こんなことも言えますよね。今の報告書の内容で上司は十分満足されている…、上司の目的は達している。人間の世界でも同じでは…」


 僕は頷いた。人間というか会社では、報告書に文句をつけられないほうが少ないけれどね。


「同僚とね、話すんですよ。上司は何を目的に僕らにこんなことさせて、報告書を作らせているんだろうって…」


 確信にせまってきたね。


「これも、先ほどと同じように、非常におそれおおいことですが、あくまで、僕や同僚の推測です…。いいですね、推測ですよ…」


 ガブちゃん、また上を向いた。僕も見たが、居酒屋の天井しか見えない。

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