第30話 幸運を授ける、そして…

「あの…、その…ですね、上司からの命令は本当に簡単なものなんです…」

 少し恐縮してガブちゃんは言った。


 上司って…? どこの世界にも、天使の世界にもいるんだね。

何? 上級天使っていうのかな? 


「幸運を授ける」

 これが一つ目という感じでガブちゃん、人差し指をあげて見せた。


「それで、一定期間のあと本人、というか対象さんに会ってからくりを説明し、今小杉さんとのこの時ですね、そこでこの幸運を受け止め続けるか、それとも以前の状態に戻るかを訊く…。すぐに説明しますが、以前の状態に戻せるのはこの最初の継続を聞くときだけです」


中指もあげた。二つ目っていう意味なんだね。


「次に、幸運を継続すればまたある一定期間後に伺いまたまた継続するか訊く。もういいよ、って拒否すればその後は特に幸運を授けません。普通に戻ります。ですが、一回目と違って以前の状態には今度は戻せません。すでにかなりの期間たってますので、受けた幸運はそのままです。ラッキーでしょ」


 そうだね、嫌なときに拒否できて、受け取った幸運はそのままなんてね。

 今時悪徳商法だってそんなこと言わないよ。


「それでまたまた継続すれば一定期間後に訊く。また継続であれば…、そんな感じです」


 天使は嘘をつけないだろうな…。ちょっと緊張しているね、ガブちゃん。

「考えてみればいいサービスですよね。好きなときに辞められて、見返りもない。本当、我々が言うのもなんですが、お客様第一主義って感じですよ~」

 人間や生物がお客様じゃないと思うが…。


「つまりは…」

 僕はガブちゃんの目をちょっと睨んだ。


「ガブちゃん、その上司の命令を忠実に実行しているだけで、その目的なんかはわからない、そんなことを言いたいんだね」


 うんうんと頷くガブちゃん。だけど、すこしすまなそうにしている。

 ガブちゃんまじめだから、僕の質問に応えられないのはつらいんだろうね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る