第23話 よくやるね、ふわふわ君

 高梨さんとのデートの日。僕は業務をこれでもか、というくらい詰め込んだ。

 待ち合わせ時間の三十分前、携帯と会社のメールに高梨さんから連絡がきた。

「ごめんなさい、急に海外からのお客様を接待しなくちゃならなくて…」

 まあ、予想通り。


 この線でいってみよう。


 株を買った。上がりそうもない、知らない会社の株を…。 

 競馬もさけていた。どうせ当たるだろうって思うとね。でも、大穴を買う


 電話にいきなり不機嫌な声ででる。

 大事なものを落としてみる。


 どうする、ふわふわ君。

 ………………。


 株は上がらなかったが、株主優待でなぜかお米をもらった。

 穴はそのまま当たってしまった。そのお金もすべて次レースの穴に注ぎ込むと、買った馬がなぜか体調不良等で出走取消になり全額払い戻しになった。


 よく考えるね、あのふわふわ君…。


 外線電話に超不機嫌な声ででると、そのときばかり、売り込みや悪質なイタズラ電話で、逆にみんなに感謝される。


 よく考える、というより、なんなんだ彼は。


 携帯電話、定期券、社員証を落としてみた。

 ちゃんと戻ってきた。

 あらゆる経路を伝わって、なぜか僕の手元に戻ってきていた。


 はぁ…、すごいね、でも関心ばかりはしていられなくなってきた。


************

「社員証落としたそうですね」


 高梨さんがバーのカウンターで、なぜかうれしそうにそう言った。

「うん…、どこで落としたかは覚えてないんだけれどね…」


 嘘だ。


 トイレで、しかもティッシュに包んでからゴミ箱に入れたのに、なんと数時間後に僕のデスクに届けられた。

「どうしたんですか? 会社辞めたくなっちゃったんですか?」

 言葉の内容とは裏腹に、やっぱり笑いながら高梨さんは言った。


「会社というか…、人生の流れを変えたくてね…」

 本気で応えてどうするよ…。


「そうだと思いました…」

 ん…? なに?

「人生の流れ…、受験、就職、とくればね~、ね!」

 ね…? ねってなに?

「流れ変えちゃいましょうか? どうしましょう!」

 なんかうれしそうだ…。怖いくらいだ…、いや、怖い。怖いぞ、この展開。


「変えちゃえ、変えちゃえ!変えちゃいましょう」

 うれしそうだね、笑っている、はしゃいでいる、高梨さん。

 でもまずいよな~、このままじゃあさ…。


 早くなんとかしないと…。

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