第22話 おかげでなんか…

「忘れちまったのかな…思い出せないな…。宝くじは買ったけれど、そんな酔っ払いのこと…。助けたっけ…」


 僕らはちょうどあの時酔っ払いを助けたあたりを歩いていた。

 そこだよ…って吉沢に言えば思いだすかもしれない。でも無理だろう。


 そんな気がする。きっと無理だ、きっと…。


 僕はしゃがんでホームを指先でなでた。


「どうした? 気持ち悪いのか?」

 あわてて吉沢が俺の肩をつかんだ。

「ちがう、携帯落としちゃった」

「おお、そうか、全然気づかなかったぜ…。大丈夫か壊れてないか…」

「うん、大丈夫。全然大丈夫」

 とっさについた嘘としてはいい感じだ。


 僕は立ち上がり、ホームをなでた指を見た。

 べっとりと黒いほこりが着いている、確かに、はっきりと。

「どうした? 手をついたのか? ケガしたか?」

 

「彼だ…ふわふわしたあの男だ」


「どうした…?」

 

「いや、なんでもない…」

 ハンカチで指をぬぐい僕は続けた。


「おかげでなんか…、わかってきたよ…。いろいろとさ…ありがとう」


 吉沢がまた怪訝な顔をした。

「え…? まあよくわからないけれど…。なあ、酔ってないよな…。本当は気持ち悪いんじゃないか…?」

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